今朝の産経新聞1面は異様だった。3段のところを2段組に、黒ベタ白抜きの文字。まるで訃報を伝える見出しだ。それが帯のように紙面の左右一杯に置かれていた。
「香港は死んだ」という大見出しに続く文章は、記事というより詩的な散文で、文字の組み方も詩を思わせた。
<2020年6月30日。目に見えない、中国の戦車部隊が静かに香港に進駐した。「香港国家安全維持法」という恐怖による香港統治の幕開けである。23年前の7月1日に始まった「一国二制度」の香港は、死んだ。>
藤本欣也記者は、香港国家安全維持法は「目に見えない戦車」であり、香港の自由と民主を守ろうとする人々は、その戦車に立ちはだかる勇気を持っていると抑えた筆致で伝える。
◆香港は死んだ:産経新聞[7月1日] https://www.sankei.com/article/20200701-FMHHXO74L5JN5GDX2R5ISZ6WVA/
中国共産党政権はこの「香港国家安全維持法」について「ごく一部のトラブルメーカーだけを対象としている。香港における人権や言論・集会の自由、投資家の権利は守られる」と弁明している。おそらく本日(7月1日)11時から開くという記者会見でも、中国国務院新聞弁公室はそう言い張るだろう。
しかし、李登輝元総統が総統退任後の2001年、初めて日本を訪問されたとき、当時の王毅・駐日中国大使は「李登輝は中国を分裂する方向に狂奔している代表人物」と指弾して分裂主義者だと決めつけ、2004年来日時にも王毅・駐日中国大使は「戦争メーカー」や「トラブルメーカー」と罵って来日に反対した。
トラブルメーカーや分裂主義者は、中国の意に染まない者、つまり反逆者と決めつけるときの常套句だ。中国にとっては「台湾民主化の父」と尊敬される李登輝元総統でさえトラブルメーカーなのだ。
香港国家安全維持法は、香港での「反逆や扇動、破壊行為、外国勢力との結託、テロ行為」を禁止する法律だという。では、この法律の解釈権はどこにあるのかと言えば、それは、この法律を162対0で制定した全人代常務委員会だという。
また、この香港国家安全維持法は香港人の人権などを保障する現行法に優先する上「中国政府は香港政府の『監督、指導、支援』のために香港に国家安全維持公署を設置する見通しで、特定の案件で中国政府が管轄権を行使する可能性もある」(ロイター通信)と指摘されている。
つまり、中国から出張ってくる国家安全維持公署が「あいつは反逆者だ」と決めれば、この法律で逮捕し、終身刑を科すこともできることになるようだ。
香港から司法の独立は消滅する──。これには、中国との統一を求める台湾の中国国民党も「香港司法の高度な自治が守られるべきだ」(産経新聞)と危惧の念を表明する声明を発表せざるを得なかったようだ。
しかし、香港から司法の独立は消滅し、中国に人権や言論・集会の自由がないように、香港からもその自由はなくなる。やはり、香港は死んだ。
—————————————————————————————–香港の国家安全維持法が成立 即日施行 無効化した「一国二制度」【大紀元:2020年7月1日】https://www.epochtimes.jp/p/2020/07/58900.html
6月30日、中国共産党は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、「香港国家安全維持法案」を全会一致で可決した。習近平主席は署名し、同日に施行する。香港政府は同日午後11時、日本時間の1日午前0時に同法を公布し、即時に施行したと発表した。
中国政府は5月、香港での「反逆や扇動、破壊行為、外国勢力との結託、テロ行為」を禁止する法律を制定するとしていた。香港国家安全維持法には、中国が独自の治安機関を香港に置くとの規定もある。
台湾の蔡英文総統は6月30日、「失望した」と述べ、中国共産党の主張する「一国二制度」が実現不可能であるとの証明だと述べた。また、香港人への人道支援を行う台湾香港事務所は7月1日から業務を開始するという。
同日、台湾政府の行政院土地委員会は、香港返還からわずか23年で中国共産党は「香港の高度な自治を50年変えない」という約束を破ったと指摘。「香港政府内の人事や組織を変化させ、抗議者の大量逮捕・起訴、香港立法院(議会)の飛び越えた『国家安全維持法』の制定などにより、香港を絞めつけた。一国二制度の枠組みの下でも、人権、自由、法の支配など香港の核心的価値観をさらに踏みにじった」と中国共産党を批判した。
日本の菅義偉官房長官は、香港の自由経済に基づく発展を支えた「一国二制度」が損われるとして、国家安全維持法の制定に強い遺憾の意を表明した。茂木外相は、30日発表の談話で、「香港における日本国民や日本企業などの活動や権利がこれまで同様に保護されること、香港市民の権利と自由が尊重されるよう関係国と連携して中国政府に対して求める」と書いている。
中国が香港国家安全維持法を施行する前の6月29日、米国政府は、香港への規制防衛製品の輸出を停止すると発表した。米政権は、香港の自治が失われたことから、優遇措置を中国本土の都市同等の扱いになるよう見直している。
これまで、米国から香港への輸出は、信用度を高く評価され、輸出業者が特別なライセンスを申請しなければならない中国本土への輸出とは異なり、簡易な事務手続きが可能だった。しかし、米商務省は6月29日、この香港への輸出品に対する特別扱いを撤廃したと発表した。
米上院は6月1日、香港版国家安全保障法の制定・施行に関与した中国共産党幹部や機関を制裁する「香港自治法」を可決した。ポンペオ国務長官は同月29日、数人の中国共産党幹部の査証(ビザ)発給の制限という制裁を課すと発表した。
中国共産党機関紙・環球時報の胡錫進編集長は6月30日、SNSで、香港国家安全維持法で科せる最も重い処罰は、終身刑だと述べた。同法の草案を見た複数の関係者の話として伝えた。香港メディアも、同法に違反すれば「国家転覆罪」「国家分裂罪」「テロ罪」などの罪で重刑が課される可能性があると伝えている。
香港国家安全維持法の成立は、香港の「一国二制度」の無効化を意味し、香港は中国本土の都市と同等の政治システムに組み込まれることになると考えられている。この影響で、民主主義や独立を主張する団体が多く解散している。
政治団体「香港衆志(デモシスト)」の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏、羅冠聴(ネイサン・ロウ)氏、周庭(アグネス・チョウ)氏が個人のSNSで、同組織から辞任することを発表した。
「香港独立聯盟」の召集人・陳家駒氏は6月28日、香港を離れたと発表した。「香港民族陣線」や「学生動源」は、香港の全メンバーを即日で辞任させ、海外支部は引き続き活動すると、それぞれSNS上で発表した。
(翻訳編集・佐渡道世)
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