過去最大規模の経済ミッションなど台湾との交流に力を入れる茨城県

 茨城県が台湾との交流に力を入れている。2022年度は「台湾いばらき経済交流促進事業」として5億円の予算を組み、タレントで母が台湾人の渡辺直美さんを「台湾日本宣伝大使」に起用し、台湾で大々的に茨城キャンペーンを展開中だ。

 大井川和彦・茨城県知事も2月4日から8日まで訪台し、茨城県産品の魅力をPRし観光誘客を促進するため、2月5日から9日まで台北市内の松山文創園区において「いばらき大見本市」を開催し、6日から8日までは過去最大規模の経済ミッションとして茨城県内の約40社が「いばらき大商談会」を開催した。

 5日には、大井川知事とともに台湾日本宣伝大使の渡辺直美さんもトークライブや来場者との交流イベントを実施し茨城県をアピールした。

 期間中の2月7日には、つくば霞ヶ浦りんりんロード利活用推進協議会会長でもある大井川知事が、「つくば霞ヶ浦りんりんロード」と新北市の「旧草嶺環状線自転車道」と「観光友好交流協定」を締結している。

 この動きはメディアも注目するところとなり、下記に紹介するように、台湾在住ライターの広橋賢蔵(ひろはし・けんぞう)氏が「茨城県が中国ではなく『台湾人旅行者』に力を入れるワケ」と題して「デイリー新潮」でレポートしている。

 このレポートでは、2010年に開港した茨城空港は、アシアナ航空のソウル便、中国の春秋航空の上海便、中国国際空港の杭州路線、タイガーエア台湾の台北路線などが次々と就航したものの長続きせず、コロナ禍によって国際線は1便も就航しなくなったそうだ。しかし、コロナが収束した現在はタイガーエア台湾の週2便が3年ぶりに復活し、週3便で高雄─茨城路線の運航もはじまったそうだ。なぜ、中国路線は復活せず、台湾路線が復活して活況を呈しているのか。下記に紹介する広橋氏のレポートをお読みいただきたい。

 本誌でもお伝えしたように、茨城県土浦市は4月7日に台南市と「友好交流協定」を結んだが、茨城県内の自治体が台湾の自治体と姉妹都市や友好交流都市などの都市間提携を結ぶのはこの土浦市が初めてだった。台北市内に「台湾交流事務所」を2018年8月に開設した笠間市も台湾との交流は盛んだが、都市間提携はまだない。

 このような都市間提携が増えると自ずと台湾との交流は密になり、空港の利用率や搭乗率もアップすることになる。

 実は、空港の利用率や搭乗率を押し上げるなら、台湾への修学旅行をお勧めしたい。

 高校生の修学旅行の状況を調査している全国修学旅行研究協会によれば、コロナが流行する前の2019年度に茨城県の高校が修学旅行で海外へ行ったのは、公立高校100校のうち2校(416人)、私立高校26校のうち11校(3,419人)だった。しかし、台湾へは公立の1校(272人)のみだった。

 すでに台湾は2015年度からアメリカやシンガポール、オーストラリアを押さえ、トップの3万6,356人(224校)となっていて、2019年度も台湾が断トツ1位の5万3,806人(334校)で、2位のアメリカの2万7,464人(199校)にダブルスコアほども引き離している。

 これほど全国の高校生が台湾へ修学旅行に行っているにもかかわらず、茨城県はたった1校しかない。

 ちなみに、台湾への修学旅行を積極的に進めている静岡県は23校(3,359人)、広島県も24校(2,429人)という盛況ぶりだ。

 年間2,000人から3,000人の高校生が飛行機に乗るとなれば、当然ながら空港利用率も搭乗率も上がる。

 茨城県から台湾へ修学旅行で行くというのは、単方向ではない。修学旅行には高校同士の交流も含まれるケースが多い。そうすると、台湾の高校生が教育旅行で茨城を訪問することも多くなり、双方向の交流が生まれるのだ。

 高校生の海外修学旅行は県教委の裁量によるところが大きい。茨城県は日本の多くの自治体が台湾への修学旅行に力を入れていることに見倣い、県教委が台湾への修学旅行に力を入れることをぜひお勧めしたい。

 空港の利用率や搭乗率を押し上げるもう一つの方法は、やはり日台の自治体同士による都市間提携を増やすことではないかと思う。

 実は、日台共栄首長連盟(宮元陸会長=加賀市長)に加盟している首長の人数がもっとも多いのは茨城県で、14人もいる。しかし、台湾と都市間提携を結んでいるのは土浦市だけで、他の13自治体は結んでいない。

 2月の「いばらき大見本市」には日台共栄首長連盟に加盟している首長の多くが参加したという。都市間提携で日台双方の交流が盛んになればさらに空港利用率も搭乗率もアップする。これもまた、双方向の交流を必ずや生む。

 茨城県ばかりでなく、空港を持つ県にも、台湾への修学旅行と自治体同士の都市間提携をぜひお勧めしたい。

—————————————————————————————–茨城県が中国ではなく「台湾人旅行者」に力を入れるワケ“観光後発県”が投じるあの手この手 広橋 賢蔵(台湾在住ライター)【デイリー新潮:2023年5月2日】https://www.dailyshincho.jp/article/2023/05020559/

 台北の地下鉄やバスが「茨城」に染まった。2023年の2月のまるまるひと月、台北を走る地下鉄の車両にラミネート広告が登場し、出勤客であふれる忠孝復興駅には、「開運茨城」の文字が躍り、イメージキャラクターとして台湾と日本のハーフとして現地では知られる渡辺直美の姿が溢れた。

 茨城は台湾華語では「ツーツェン」と読む。台北の人たちの多くはその地名を知らなかった。忠孝復興駅で電車を待つ人に訊いても、

「茨城(ツーツェン)ってどこ?」「日光があるところ?」「海があったっけ? 野菜が採れる所? 洪水が多いんじゃない?」

 といった頼りなさ。知っている街を訊いても、「つくば」「水戸」などの名前さえ出てこない。

 しかし、なぜ台北に茨城……。

 そこにあるのは、日本の地方空港が抱える実情だった。

◆「関東第3の空港」を目指すも…

 茨城空港が開港したのは2010年のこと。国際線は、アシアナ航空のソウル便だけというスタートだったが、その後、2012年3月から、中国の春秋航空の上海便が週6便体制で就航し、2015年には中国南方航空の深せん路線、2016年には中国国際空港の杭州路線、同年は春秋空港の成都路線が相次いで開設した。2018年10月からは台湾のタイガーエア台湾の台北路線、2019年に春秋航空の西安路線とつづいた。中国の青島航空は長春行、福州行、南京行といったチャーター線の運航をはじめた。

 当時の日本は、爆買いに象徴される中国パワーに湧きたっていた。茨城空港乗り入れ便も中国色が強くなるのは当然だったが、順調に増える就航便に、「成田と羽田に次ぐ関東第3の空港をめざせる」という声さえ聞こえた。

 首都の東京、成田国際空港がある千葉県、横浜・鎌倉・箱根などの観光地を持つ神奈川県……。これらに比べると茨城県は、関東圏のなかでは日本人でさえも観光地のイメージが薄く、「観光後発県」の汚名すら囁かれていた。それだけに県民の茨城空港への期待は高まっていく。

 しかし多くの路線が長つづきはしなかった。その一因はアクセスの悪さだった。

 茨城空港は、県の補助金を使い、東京駅から茨城空港まで国際線搭乗者のみ片道500円という直行の格安高速バスを運行させた。しかし便数や台数が少なく、中国人客を中心にした国際便利用者にすぐに買い占められ、「飛行機のチケットをとる以上に予約が難しい」と揶揄されるほどだった。

 この格安バスは、県内からの批判にも晒された。国際線利用者の多くが、茨城県を素通りして東京に流れ、県内の観光地や宿泊施設が潤わないのだ。茨城県は高速バス補助を打ち切ることになる。

 そこを襲ったのが新型コロナウイルスだった。国際線は次々に運休。週6便体制だった春秋航空の上海路線、さらに西安路線も2020年2月には運休する。国際線が1便も就航しない空港になってしまった。

◆予算5億円で促進事業

 しかしコロナ禍もようやく収束に向かうなか、茨城県は茨城空港の復興に向けて動き出す。狙いを定めたのは中国ではなく、台湾だった。茨城県の国際観光課の佐藤尚之係長はこう説明してくれた。

「県が音頭をとって海外、とくに台湾からの観光客の呼び込みに動き出したのは昨年です。2022年度、台湾いばらき経済交流促進事業は5億円の予算規模です。契機は、東日本大震災の原発事故以来続いていた食品輸出停止の解除と、コロナの感染拡大を防ぐ水際対策が2023年に入って、緩和されていくめどがついたことです。停滞してしまった流通、人的流動の穴を取り戻すためのプロジェクトだったんです」

 2022年末に台北で行われた「ITF国際旅遊展」にも茨城県は参加。日本全国からの自治体に混ざって、PRに力を入れた。

 茨城県の農産物、食品加工品などを広めるため、台湾のPR会社に依頼して、台北駅などに茨城県の特産品を集めた冷凍自販機を設置している。冷凍焼芋、干し芋、レンコンどら焼、茨城米を使ったカレー、リゾットなどの販売をはじめた。観光名所を含め茨城の知名度をあげるために、台湾と縁の深い渡辺直美をキャンペーンアイコンとして起用し、2022年8月から「台湾日本宣伝大使」となった。冒頭で紹介した今年に入っての大規模広告もその流れだった。

 3月26日からは週2便体制で、台湾のLCC、タイガーエア台湾の乗り入れがはじまった。2020年3月から運休していた路線が、週2便3年ぶりに復活したわけだ。

 PRの成果か、第一便は満席となり空港は台湾人のグループ客であふれた。旅行会社が企画したツアー客は、水戸偕楽園、大洗海岸、大洗磯崎神社などを訪れて茨城県内での宿泊が組み込まれている。

「茨城空港を利用する観光客が茨城の頭を越えて東京に向かってしまったことの反省点を踏まえ、茨城滞在型の誘致に主眼をおきました。霞ヶ浦のサイクリングロード、水路の街である潮来の遊び方やグルメ案内、太平洋に上がる日の出、霞ヶ浦に落ちる夕陽を賞でるポイント、つくば学園都市の先端性をPRしました」(前出・佐藤尚之係長)

 台湾では人気の自転車ツアーも視野に入れている。「日本有数の霞ヶ浦のサイクルルートへ」と、台湾で開催される自転車ショーなどにも出展を仕かけているという。

◆ホテル関係者も手ごたえ

 土浦市に160室をもつ観光ホテルの担当者はこういう。

「茨城空港に台湾便が復活して以来、2日に1度のペースで30人規模の台湾人グループの方に利用していただいています。今日も午後の台北便で戻る台湾人グループの方が泊まっていただきました。昼までゆっくり近くの電気店やドラックストアで買物を楽しまれていたようです。コロナ禍前は、中国の春秋航空などにもっと多くの国際線が就航していたんですが、茨城県内に宿泊する様子はなく、茨城県はスルー状態でした」

 このホテルは台北で開かれた商談会に参加した。予想以上の台湾の旅行業者が集まり、その場で宿泊契約をもらったという。台湾から確かな感触が伝わってきたという。

 台湾に舵を切ったかに見える茨城空港。報道される台湾と中国の政治的緊張が気になるところだ。茨城空港対策課によれば、中国便の中核になりそうな春秋航空とは意見交換を行っているが、一向に定期便就航のめどが立たないという。

 その一方で台湾路線では、週3便で、高雄─茨城路線の運航もはじまった。茨城県は、2023年度も「開運茨城」をキーワードに、渡辺直美を続投させたい構えだ。茨城県内の旅行会社の社長はこういう。

「日本の地方空港は中国とつきあってもうまくいかないってことだね。中国人は日本がはじめてという観光客が多いから、どうしても東京や京都といった有名観光地になびいてしまう。地方空港の地元にはお金を落としてくれないです。そこへいくと台湾や韓国からの観光客は来日回数が多い。地元の観光地に興味をもってくれるんです」

 コロナ禍がすぎ、地方の空港では中国離れが進む流れが生まれつつあるようだ。

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広橋賢蔵(ひろはし・けんぞう)台湾在住ライター。1965年生、1988年北京留学後、1989年に台湾に渡り「なーるほどザ台湾」「台北ナビ」編集担当を経て、現在は台湾観光案内ブログ『歩く台北』主宰。近著に『台湾の秘湯迷走旅』(双葉文庫)などがある。

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