許世楷代表の辞任表明に「サムライ」魂を見た

馬英九総統にこそ台湾の出処進退をどうするつもりなのかを問う

 14日に召還された許世楷・台湾駐日代表処代表が昨日、辞任を表明した。15日に帰台
した許代表は16日、立法院で衝突事故について説明したが、中国国民党の立法委員(国
会議員に相当)から日本寄りで「台奸(台湾の敵)だ」と激しく非難されたことに激怒、
「志ある者、殺されても、辱めは受けない」として即刻辞職を表明した。

 冷静な許代表が激怒して辞表を叩きつけたのだから余程のことだ。いかにも中国人ら
しい罵倒の仕方だが、すでに許世楷代表は5月19日に馬英九総統宛に辞表を呈していた。
後任が決まらないため慰留されていたが、国政に責任を持つべき立法委員に「台奸」と
まで罵倒されてまでその職に留まる謂れはない。まさに「サムライ」の出処進退だ。

 馬英九政権は、いまの台湾でもっとも日本を理解している人材を失った。いまは日台
が協力して事故原因の真相を究明すべきときだ。台湾世論を沈静化させるための日本挑
発の時期はとうに過ぎている。

 すでに中国ではウェブサイト上で中台共闘を呼びかける声が挙がりはじめ、中国の週
刊紙「国際先駆導報」も16日付の最新号で、「台湾では『両岸は手をつないで釣魚島を
守ろう』との声が相次ぎ上がっている」と報道しているという。4年前に尖閣諸島の魚
釣島に上陸した香港の団体「保釣行動委員会」も17日に台湾へ行って船を借りて尖閣諸
島へ向かう予定だという。

 それらのキーワードは「中華民族の力」だ。中台は共闘して「中華民族の力」を日本
に見せつけようと、台湾側に秋波を送っているのだ。

 台湾でも18日に立法委員(国会議員)らが巡視船で同諸島付近に向かう計画も持ち上
がっている。

 馬英九政権は、いったいこの衝突事故の結末をどのようにしようと考えているのか、
その展望はまったく見えてこない。昨日早朝、衝突再発を避けるため台湾の欧鴻錬外交
部長は抗議船の動きを見ながら、日本当局と電話による非公式折衝を行っていたと伝え
られているが、未だ馬英九政府の動きは鈍い。

 逆に尖閣諸島・魚釣島近辺の海域に配備する武装巡視船を現在の4隻から7隻に増強す
ると発表し、また台湾海軍は18日に同海域にミサイルフリゲート艦を派遣するとも伝え
られている。

 だが、すでにアメリカも乗り出してきている。アメリカの事実上の駐台大使であるス
ティーブン・ヤングは15日、この問題について干渉しないと述べつつ、日台に平和的解
決を呼び掛けた。

 もし馬英九政権がこの言に耳を貸さず、「中華民族の力」をさらに示そうとして立法
委員らが巡視船で尖閣諸島に向かうことを許し、台湾海軍がミサイルフリゲート艦を派
遣するようなことになれば、事態はアメリカと中国を巻き込んでさらに複雑になる。

 許世楷代表が辞任した現在、すでに修復への道のりはかなり険しくなっていることを
自覚し、馬英九総統にこそ台湾の出処進退をどうするつもりなのか、早急に当事者であ
る日本政府に提示することを求めたい。

 そして、翻って日本政府に問う。この問題が惹起した際にも述べたように、このよう
な事態を早急に解決するためには、一刻も早く国家公務員の台湾への渡航制限を解除す
べきなのだ。課長が行っても問題の解決には至らない。局長や次官が訪台してこそ解決
に至る。日本政府はいまこそ媚中姿勢から抜け出すチャンスだ。外務省の内規を改正す
るだけでよいのだから、事は単純だ。日本の国益のためにも、台湾の国益のためにも、
その最善の策が国家公務員の台湾渡航制限解除であることは他言を要しない、喫緊に解
決すべき問題だ。
 
                   (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)


許駐日代表が辞任表明 台湾
【6月17日 西日本新聞】

 【台北16日小山田昌生】尖閣諸島近海での遊漁船沈没事故をめぐり、台湾外交部の
召還を受けた許世楷・台北駐日経済文化代表処代表(台湾の駐日代表)は16日、台北
市で記者会見し、「国民党立法委員(国会議員)による『売国奴』との侮辱は受け入れ
られない」として、即刻辞任を表明した。

 許代表は台北で事故に関する日本との交渉などを説明。与党の立法委員が、許代表は
日本寄りで「台湾の敵だ」などと激しく非難したのに対して激怒した。

 欧鴻錬外交部長(外相)は「許代表の職位は総統の任命によるもので、総統が辞職願
を認めるまでは職位を離れられない」としている。

 許氏は戦後の国民党独裁時代に台湾独立運動に携わり、政治犯として日本での亡命生
活を余儀なくされた。2004年の代表就任後は、台湾人観光客に対する訪日査証(ビ
ザ)免除や日台相互の自動車運転免許承認の実現に尽力した。

 一方、尖閣諸島付近の日本領海内に16日朝、一時侵入した同諸島の領有権を主張す
る抗議船は同日午後、台湾北部の港に戻った。馬政権は抗議船に「安全確保」の名目で
巡視船9隻を同行させた。



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