台湾を訪問中の麻生太郎・自民党副総裁が8月8日にケタガラン・フォーラムの基調講演で、政治家としての格の違いを見せつけた。
この講演で麻生氏は、「日本、台湾、米国をはじめとした有志国に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている」と、台湾有事を念頭に抑止力について強調し「われわれにとって今、最も大事なことは台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせないことだ。抑止力は能力がいる。そして力を使うという意思を持ち、そしてそれを相手に教えておく。その3つがそろって抑止力だ」と訴え、「お金をかけて防衛力を持っているだけでは駄目。それをいざとなったら使う。台湾防衛のために。台湾海峡の安定のためにそれを使うという意思を相手に伝え、それが抑止力になる」と明快に指摘した。
台湾はもとより、日本や米国へ向けた発言となった。この発言自体が中国への抑止力として働くことを見越したうえでの講演だった。やはり、安倍晋三・元総理の盟友であり、安倍氏の遺志をきっちり受け継いでいるという印象を日本にも台湾にも深く刻んだ。
講演後の頼清徳・副総統との昼食会では、麻生氏は有事が起きた際の台湾在住日本人の退避や台湾の自己防衛力の発揮について問い、頼氏から「台湾の政治的決意を見せる」という発言を引き出している。
また、その後の蔡英文・総統との会談では「台湾有事の際の在留邦人保護の必要性などについて認識を共有した」という。
林芳正・外務大臣は、台湾有事の際の在留邦人保護や退避について、本年5月10日の外務委員会で「海外に渡航、滞在する邦人の保護、これは政府の最も重要な責務の一つ」と答弁しながら「有事における我が国の個々の対応、また計画について、個別具体的にお答えするということは差し控えなければなりません」とまともに答えず、果ては「民間窓口機関である日本台湾交流協会を通じまして、邦人保護を含めて、平時から様々なやり取りを行っておる」と、日本台湾交流協会に任せていると答弁する始末だ。
林外相には、安倍元総理が示した「台湾有事は日本有事すなわち、日米同盟の有事でもある」という認識や、麻生氏が台湾で示した「平時から非常時に確実に変わっていっている」という認識が明確にないのかもしれない。
本誌では、有事の際の在留邦人保護や退避の問題は確かに大使館の重要な役割ではあるが、一大使館でできることには限界があり、やはり国交のない台湾であっても政府間対話が必要ではないのかと訴えてきた。
麻生氏は自ら台湾に赴き、総統や副総統とのトップ会談で台湾側の決意と覚悟を確認し、台湾有事の際の在留邦人保護や退避についても話し合ってきている。やはり、政治家同士でまず話し合う大事を証してくれた。今後、日本と台湾はまさに「実務関係」として台湾有事への対応を話し合う明確な道筋をつけた。政治家として為すべきことを為したというべき麻生氏の台湾訪問だった。
本日の産経新聞は1面トップで麻生氏の講演を取り上げ、講演要旨まで掲げて詳しく報じている。下記にご紹介したい。
—————————————————————————————–麻生氏「台湾に防衛力使う」 有事抑止へ意思明示【産経新聞:2023年8月9日】https://www.sankei.com/article/20230808-HOLZOODNHVKSLNNZ26UMB42QII/
【台北=大橋拓史】自民党の麻生太郎副総裁は8日、訪問先の台湾で講演し、台湾有事を念頭に「日本、台湾、米国をはじめとした有志国には戦う覚悟が求められている」と訴えた。また、「いざとなったら台湾防衛のために防衛力を使う。その明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」とも指摘した。麻生氏は同日、蔡英文総統、頼清徳副総統とそれぞれ会談し、日台関係の重要性を確認した。
麻生氏は講演で、中国が軍事的圧力を強めていることを踏まえ、「最も大事なことは台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせないことだ」と抑止力の重要性を強調した。抑止力は、能力▽能力を使う意思と国民的合意▽能力と意思があることを相手に知らせる─の3つがそろって機能すると説明した。
昨年8月に当時のペロシ米下院議長が訪台した際、中国が台湾周辺で大規模軍事演習を強行し、日本の排他的経済水域(EEZ)内を含む周辺海域に弾道ミサイルを撃ったと指摘。「平時から非常時に確実に変わっていっている」との認識を示した。
麻生氏は8日の講演後、来年1月の総統選に与党・民主進歩党から出馬予定の頼氏と意見交換した。麻生氏は「台湾の自主、防衛のために持っている力をきっちり使う決意、覚悟があるのかが最大の関心だ」と伝えた。同行筋によると、台湾有事が起きた際の対応なども協議した。
また、麻生氏は蔡氏との会談で、「頼氏に台湾に対する決意をうかがわせていただき、安心した」と述べた。蔡氏とは台湾有事の際の在留邦人保護の必要性などについて認識を共有したという。
麻生氏は蔡、頼両氏との会談後、台北市内のホテルで記者団の取材に応じ、「(総統選後に)急に中国と手を組んでもうけ話に走ると、台湾の存在が危なくなる。選挙結果は日本にとっても極めて大きな影響が出るから、次の人を育ててもらいたいと蔡氏に申し上げた」と語った。
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