「戦う覚悟」を伝える意義  阿比留 瑠比(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)

 麻生太郎・自民党副総裁の台湾での講演は、台湾ではおおむね好感をもって迎えられたようだ。

 日本では、日本維新の会の藤田幹事長が「われわれも危機感を共有すべき」と述べてある程度の理解を示したものの、立憲民主党の岡田克也・幹事長は「台湾有事にならないためにどうするかが求められているなかで、非常に軽率だ」と非難し、共産党の小池晃・書記局長も「明らかに専守防衛に反する。極めて挑発的な発言だ」と非難している。

 しかし、麻生氏の話の前提は「われわれにとって今、最も大事なことは台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせないことだ」という点にある。戦争を起こさせない、すなわち抑止するにはどうしたらいいのかについて「台湾防衛のために防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが、抑止力になる」と述べたまでだ。

 この発言のどこに軽率や挑発が含まれているのか、よく分からない。どうも「中国を刺激してはいけない」という病魔に憑りつかれたような反応のように思われた。

 産経新聞の阿比留瑠比記者も同じように受け取ったようで、産経新聞に連載する「阿比留瑠比の極言御免」で「『戦う覚悟』を伝える意義」との見出しの下、安倍晋三・元総理を例に「中国の習近平国家主席と会談するたびに、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の防衛に関して『日本の意思を見誤らないように』『私の島に手を出してはいけない』などと繰り返し伝えていたことと一致する」と指摘。

 また、小池書記局長発言に対して「天動説の一種ではないか」と、共産党の心臓部をえぐるように剔抉している。

 本日の産経新聞に載った「阿比留瑠比の極言御免」を下記に紹介したい。

 なお、麻生氏の講演について、同行した鈴木馨祐・衆議院議員は昨夜放送のBSフジ「プライムニュース」に出演し、「政府内部を含め、調整をした結果だ」と明らかにしている。

—————————————————————————————–「戦う覚悟」を伝える意義【産経新聞「阿比留瑠比の極言御免」:2023年8月10日】https://www.sankei.com/article/20230810-HGLPF7PR4NJHNF6YUKWXLRWZCA/?583928

 9日昼、中国が軍事的圧力を強めている台湾を訪問していた自民党の麻生太郎副総裁の同行者の一人から、こんな国際電話がかかってきた。

「台湾のテレビでは麻生さんの発言の話題で持ちきりだ。私もあそこまで言うとは驚いた。『台湾有事は日本有事』と言った(盟友の)安倍晋三元首相を意識したんじゃないかな」

 この同行者は出発前から「麻生さんは、台湾で何を言うだろうか」と楽しみにしていた様子だったので、ずばり期待通りだったのだろう。くだんの麻生氏の発言とは、8日に台北市内で行った講演での「抑止力」に関する次の言葉である。

「お金をかけて、防衛力を持っているだけではダメだ。戦う覚悟、いざとなったら、台湾防衛のために防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが、抑止力になる」

 麻生氏はまた、その具体的な事例として、1982年に南大西洋の英領フォークランド諸島の領有を巡って、英国とアルゼンチンが激突したフォークランド紛争の事例を引き、こうも指摘していた。

「フォークランドを守るという意思を、(当時の)サッチャー英首相がアルゼンチンに正確に伝えていなかったという小さなミスから、フォークランド紛争は起きた。初めからきちんと伝えておれば、そういうことはなかった」

 この考え方は、安倍氏が中国の習近平国家主席と会談するたびに、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の防衛に関して「日本の意思を見誤らないように」「私の島に手を出してはいけない」などと繰り返し伝えていたことと一致する。

 こうしたメッセージを発することも外交努力の一環であり、抑止効果を生むのは当然だろう。

 麻生氏は令和3年7月、東京都内で行った講演でも台湾有事について「大きな問題が起きれば、間違いなく(安全保障関連法で集団的自衛権行使を可能とする)存立危機事態に関係してくる」と述べている。また、「日米で台湾を防衛しなければならない」とも強調しており、今回も持論の延長線上の話ではある。

 もちろん、中国の反発は予想された。だが、台湾に同行した鈴木馨祐元外務副大臣はあっさりと記者団に語っていた。

「台湾を攻めようと思っているのであれば、戦う覚悟を持ってほしくないので反発するでしょうね。そりゃ反発はすると思う。(日本の意思が)ちゃんと伝わっていることが大事だ」

 きちんと重く受け止め、反発してくれるぐらいでなくては、かえって困るということかと納得した。

 ところが、反発や批判の矢を飛ばしたのは中国ばかりではなかった。

「戦う覚悟というのは極めて挑発的な発言だ。日本に必要なのは戦う覚悟ではない。憲法9条に基づき、絶対に戦争を起こさせない覚悟こそ求められている」

 8日の記者会見で、早速こう強調したのは共産党の小池晃書記局長だった。抑止力を機能させるためには、相手に「使う意思」を伝えなければならないという麻生氏の主張と、全くかみ合わない。

 自国の憲法を振りかざして「絶対に戦争を起こさせない覚悟」を持てば、他国はそれに平伏するという世界観は、自国を中心に世界が回っていると考える天動説の一種ではないか。自己愛を満たす妄想の世界と、現実の区別がつかないどこかの中学2年生のようで、見ていて痛々しい。

(論説委員兼政治部編集委員)

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