【古森義久・あめりかノート】偏向と独善の「憲法9条にノーベル平和賞を」運動

【古森義久・あめりかノート】偏向と独善の「憲法9条にノーベル平和賞を」運動

「安倍首相の軍国主義化防ぐ…」 偏向と独善の「憲法9条にノーベル平和賞を」運動 歪んだ構図に見える中韓の思惑とは

産経新聞 2015.12.27より

 

 新しい年には日本国憲法が改めて熱い論議の的になることは確実である。その論議はまず日本国内で日本国民が当事者として進めることが自明だろう。ところがこの基本原理を国外からの圧力で崩そうとする政治活動が目立つようになった。現行の憲法、とくに第9条にノーベル平和賞の認知を取りつけようという動きである。

 日本側ではこの2年、「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会という組織が主体となり、年来の「第9条の会」や一部の政治家と学者が推薦をした。憲法自体への授賞を求めたが、ノーベル賞は制度的に人間か組織が対象だとわかり、「戦争の放棄を定める憲法9条を保持している日本国民」を対象とした。だが2年とも落選し、次回は対象を「第9条の会」と「日本原水爆被害者団体協議会」にするらしい。

 国内で意見の割れる主権国家の憲法の扱いを一方だけの主張が国民全体の声のように装い国外の同意を得ようとする動きは偏向と独善の工作だといえよう。さらに異様なのは、日本と安全保障上の利害がぶつかる韓国や中国からの全面支援を求めている点である。日本側の組織が賛同へのアピールを朝鮮語と中国語にして大量に発信し、署名を集めているのだ。

 韓国は日本とともに米国の同盟国ではあるが、日本固有の領土の竹島(島根県隠岐の島町)を不当に占拠する国である。日本の自衛までをも縛る憲法9条の保持を歓迎するに決まっている。現に韓国では日本に平和賞を受賞させようという組織が多数できて、有力政治家らも名を連ね始めた。

 中国も日本の改憲には一貫して反対である。尖閣諸島(沖縄県石垣市)を軍事力でも奪取しようという国が日本の自衛の制約を喜ぶのは自明だろう。米国内で長年、日本たたきを続けてきた中国系の「世界抗日戦争史実維護連合会」もかつて左翼の歴史学者の家永三郎氏のノーベル平和賞推薦に一役買った経緯があり、今回もそんな動きをとる気配がある。

 さらに注意すべきは米国のコネティカット大学のアレクシス・ダデン教授らがこの国際キャンペーンの米側代表のようになっている事実である。ダデン氏は過去20年近く慰安婦問題で「日本軍の強制連行による20万の性的奴隷」という虚構に基づき、米議会での日本非難決議や昭和天皇有罪論を推進した反日活動で知られる。韓国政府には政策助言をするほど密着している。

 そのダデン氏が米側の多様なメディアで憲法9条のノーベル平和賞推薦を頻繁に中韓両国に向かって呼びかけている。その内容は「日本政府の改憲による中国との戦争への前進」や「安倍晋三首相の軍国主義化」を防ぐために署名を、という訴えなのだ。米国の政府とも国民多数派ともまったく異なるこんな極端な政治主張が日本のためと称するノーベル平和賞国際運動の核心なのである。

 日本国内で重みを持つノーベル賞にからむゆがんだ構図を当事国の日本として放置するわけにはいくまい。日本国民の間にもこの動きに反対する声が多数あることをノーベル委員会も含めて外部の多方面に明確に発信すべきだろう。(ワシントン駐在客員特派員・古森義久)


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