2013.8.11 産経新聞
ワシントン駐在客員特派員・古森義久
日本の安全保障や歴史問題を考えるときのアジアという概念を根本から変える時期がきたようだ。
日本の首相が憲法改正を唱える。政治家が靖国神社を参拝する。慰安婦問題の虚構を指摘する。と、反対派からは「アジア諸国が反発する」とされるのが年来のパターンだった。「日本はアジアで孤立する」という断定も多かった。
だが実際にはその種の言動に文句をぶつけてくる国は中国と韓国だけなのである。無法の北朝鮮は近代国家の要件に欠けるからこの際、除外しよう。その他のアジアのどの国も地域も、政府レベルで日本の防衛増強や歴史認識を非難する事例は皆無なのである。
この現実は安倍晋三首相の7月下旬の3度目の東南アジア訪問でも立証された。わが日本がアジアではほぼすべての諸国に好かれ、頼りにされているという現実だった。日本が改憲を求めても、閣僚が靖国神社に参拝しても、なにも文句をつけず、むしろ、より強い日本との協力を深めようというアジア諸国が大多数なのだ。
安倍首相は今回、マレーシア、シンガポール、フィリピンを歴訪した。フィリピンとシンガポールには日本の改憲や集団的自衛権の解禁の意図を伝え、理解を得た。マレーシアとも防衛協力で合意した。中国の脅威への連帯と日本への信頼が明確にされたのだ。
この対日友好の姿勢は東南アジアだけではない。北東アジアとされる地域でもモンゴルや台湾は日本への協調を明示する。台湾では元総統が率先して靖国神社に参拝するほどなのだ。
米国の国務省東アジア・太平洋局が担当する国・地域の数は合計30ほどである。さらに同省の南アジア・中央アジア局はインドやアフガニスタンなど13カ国を管轄する。この区分でも「アジア」の国々は総計40を超える。だが日本の首相の靖国参拝が「軍国主義復活」だなどと正面から日本を叩(たた)いてくるのは中国と韓国だけなのだ。なんと40分の2なのである。「アジア諸国が反発」など、とんでもないわけだ。
日本の歴史認識にはとくに日本軍の戦闘で被害を受けた諸国が敏感に反応するとされてきた。だが最激戦の地となったフィリピンやインドネシアはもう戦争の歴史を克服し、日本の改憲をも歓迎する。他方、中国の共産党は日本軍の主敵ではなかった。韓国は日本とともに戦争をした側だった。現韓国大統領の父が日本帝国陸軍のエリート将校だった史実を指摘するまでもない。だから中韓両国の日本叩きはアジアの規範でも、戦争の歴史でも、あまりに異端で特殊なのだ。日本の実際の言動よりも、中韓内部の政治の都合や外交の戦術が動因だとみなせよう。
米国側でもこのアジアの現実をリベラル派日本研究学者たちは認めたがらない。だが最近では健全な変化も起きてきた。米中央情報局(CIA)元専門官たちが組織する国際安全保障の研究機関「リグネット」は8月冒頭の「いかに日本は東南アジアで優位を得たか」という報告で、「日本は東南アジアでは戦争行動からの歴史の重荷を克服することに成功した」という調査結論を発表していた。
(ワシントン駐在客員特派員)