台湾が13日連続で武漢肺炎の感染者ゼロを達成した昨日の5月20日、総統に再選された蔡英文氏と副総統に当選した頼清徳氏の総統・副総統就任式が台北市内で行われました。
本会も前回や前々回の就任式と同様に参列して祝意を表したいと思っていましたが、武漢肺炎の影響でかなり規模を縮小したため参列がかなわず、渡辺利夫・本会会長から蔡総統と頼副総統に祝辞をお送りして祝意を表しました。
この就任式には、米国のポンペオ国務長官から「米台のパートナー関係は今後も大きく進展するだろう」とする祝賀メッセージが寄せられ、式典では特別に枠が設けられ、中国語と英語でメッセージが読み上げられて披露されました。
台湾の外交部によりますと、米国の国務長官から就任式に祝賀メッセージが寄せられたのは初めてのことだそうです。驚かされたのは、ポンペオ国務長官は蔡英文を「総統」と呼んで敬意を払っていたことです。
思い出すのは、トランプ大統領も4年前の2016年、大統領に当選した直後の12月2日に、米国が台湾と断交して以来初めて台湾総統の蔡英文氏と電話会談をして世界を驚かせたことです。ことのき、蔡英文総統を“”The President of Taiwan”(台湾総統)と呼んでさらに驚かせました。
米国のトランプ政権はその後も台湾との関係強化を進め、台湾旅行法やアジア再保証イニシアチブ法、台北法などの国内法を整備し、台湾へミサイルや戦車、F16V戦闘機などの武器売却を決定しています。
米国のポンペオ国務長官が初めて祝賀メッセージを寄せ、「総統」と呼んだことは、ペンス副大統領の中国共産党政権との決別宣言とも言うべき昨年10月の演説に続くもので、米国が台湾との関係をいっそう強めていくというメッセージと思われます。
驚いたことに、この就任式当日、トランプ米政権は台湾へ魚雷とその関連部品など総額1億8000万ドル(約190億円)にのぼる武器売却を決め、米議会に通知したと発表しました。米国の本気度は随所に現れています。
総統・副総統就任式には国交国はじめ、イギリスやフランス、カナダ、インドなど各国からビデオメッセージによる祝辞が寄せられ、米国からは国務省のオルタガス報道官やクーパー国務次官補(政治軍事担当)などからも寄せられました。日本からは、日華議員懇談会の古屋圭司会長、日本台湾交流協会の大橋光夫会長、岸信夫衆院議員の順で、就任演説の前に紹介されました。
日本政府も、菅義偉・内閣官房長官が5月20日午前の記者会見で、下記のような祝意を表しています。
<本日、台湾で蔡英文氏が総統に再任されることを祝意を表したいと思います。台湾はわが国にとって基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人であると思います。政府として、台湾との関係を非政府間の実務関係としている立場を踏まえ、日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく考えであります。またこの場をお借りして、新型コロナウイルス感染症に関し、台湾の皆さま方から温かいご支援に改めて感謝の意を表するとともに、引き続き協力を強化していきたい、そのように思っています。>
◆令和2年5月20日午前 記者会見[台湾に関する応答:12分06秒〜13分14秒] https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202005/20_a.html
蔡英文総統は就任演説で「米国、日本、欧州など価値観を共有する国々と協力関係を深めたい」と応えています。
蔡英文総統のこの就任演説の模様は下記の総統府配信のYouTubeが全容を伝えています。また、本会副会長でもある文明史家の黄文雄氏が自ら翻訳していますので、別途ご紹介します。
また、就任演説の内容やそのポイントについては産経新聞はじめ、いろんなメディアが伝えていますので本誌では割愛します。
ただし本誌としては、蔡英文総統が就任演説で台湾をどのように呼ぶかに注目していました。蔡総統は「中華民国」「この国」「台湾」などと表現していましたが、もっとも多かったのが「台湾」でした。そして「中華民国台湾」という言い方もしていて、これは当選直後にBBC放送から受けたインタビューで初めて使った呼称でした。
李登輝元総統は「中華民国在台湾」(台湾の中華民国)と呼びましたが、蔡総統は「在」を除いて「中華民国台湾」と呼んだのです。これは「中華民国」すなわち「台湾」の意味となり、李元総統の立場を一歩進めたと言えます。
演説の最後の方で「中華民国は団結力があり、台湾は安全であり、台湾人であることは非常に名誉なこと」と述べ、台湾により比重がかかっています。台湾の人々に、向かうべき方向性を指し示しているようです。
また、安全保障に関し「台湾がインド太平洋地域の平和、安定、繁栄に向けてより積極的な役割を果たすことを願ってきました。これらの政策の方向性は、今後4年間でも変わりませんし、もっとやっていきます」と述べ、国防改革の3つの重要な方向性に言及したことに注目しています。
そして「今後4年間は、国際機関への参加に努め、友好国との共栄、協力を強化し、米国、日本、欧州など価値観を共有する国々との連携を深めていきます」と表明しています。
これは、2016年の就任演説でも言及していたことで、台湾が安全保障の問題も含め、価値観を共有する国々との連携が大事だと改めて表明したこととなります。
さらに注目したのは、立法院に憲法改正委員会を設置し、憲法改正問題に取り組むことを表明したことです。
2期目の蔡英文政権は明らかに中華民国から「台湾」へと舵を切ったようです。この憲法改正が「中華民国」という国名の改称へ進むのかに注意を払いながら注目していきたいと思っています。
なお、蔡英文総統は就任式後、任期を終えた卓栄泰・民進党主席から引き継いで党主席に復帰しました。
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