【世界日報「View point」:2025年6月10日】https://www.worldtimes.co.jp/opinion/viewpoint/20250610-196280/
総統就任1周年の前日に当たる5月19日月曜夜11時から、日本テレビ「NEWS ZERO」で、櫻井翔キャスターによる台湾・頼清徳総統への単独インタビューが放映された。
90分のインタビューは10分に編集されていたが、中国の圧力によって台湾が晒《さら》されている安全保障上の危機を、隣国日本の一般視聴者に訴え、日本からの協力を強化させたいという頼総統の思いが伝わってきた。
◆強度を増す威圧的活動
さて、頼総統の見立てでは、「習近平の中国」は、単に台湾の併合を目指しているのではなく、アメリカと日本を含む先進7カ国(G7)が協力し、台湾も同調している、自由と民主、法の支配による国際協調の世界に代えて、共産党一党独裁の全体主義国家・中国がアメリカと並んで世界の覇権を掌握し、他の非民主主義的国家群と共に主導権を握る新たな国際秩序の構築を模索している。
それゆえにこそ、頼総統は、台湾有事は日本の有事であり、日本の有事は台湾有事だと断言したのである。
また、頼総統は、トランプ米政権の台湾政策はバイデン政権と表現が異なるが、米台関係は継続的に強化されていると述べた。
これにはトランプ大統領による高率関税攻勢を契機とする米中対立が、単なる米中の貿易戦争、あるいはアメリカの製造業復活のための手段というだけではなく、一方的な現状変更を進める中国に対して、自由と民主という基本理念を擁護するためのものであり、その点で台湾とアメリカは一致するという認識がある。
ところで5月3日、中国海警局の船が尖閣諸島海域で日本の領海に侵入し、そこから飛び立ったヘリコプターが領空を侵犯した。
この領海プラス領空侵犯に対し、航空自衛隊機がスクランブル発進を行った。
25日には、中国海軍の空母「遼寧」が尖閣諸島沖を航行し、戦闘機やヘリコプターの発着艦訓練を実施したため、自衛隊機がスクランブル発進で対応した。
領空侵犯はなかったが、防衛省が、東シナ海航行中の中国空母からの戦闘機発着艦を発表したのはこれが初めてである。
結局、25、26日の2日間でヘリおよび戦闘機の発着艦は120回を数えたという。
尖閣諸島の領有を主張していることに加え、中国による日本近海での威圧的活動は、急速に強度と密度を増している。
去る4月10日の統合幕僚監部発表によると、2024年1年間の航空自衛隊機による緊急発進は709回で、前年比35回の増加であった。
この対象国は66%が中国、約34%がロシアで、それ以外は1%未満、北朝鮮はゼロである。
西部航空方面隊による緊急発進が102回、南西航空方面隊が411回という数字からも、日本の主要な危機が西および南東、つまり東シナ海や台湾周辺から迫る中国によるものであることは明らかだ。
さらに、同報告書の「緊急発進の対象となったロシア軍機および中国軍機の飛行パターン例」の地図によると、中国軍機は、台湾に対する威嚇と封鎖のための演習の他、尖閣諸島から長崎県、熊本県に至る南西諸島北西側一帯を、嘗《な》め尽くすように頻繁に飛来しており、朱色の軌跡が密集している。
さらに中国軍機は、東シナ海側から沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通って西太平洋に出た後、北進して屋久島・種子島方面に向かうものの数が、西進して台湾周回飛行に向かうパターンに劣らず多い。
つまり、中国軍機の飛行パターンは、台湾封鎖演習にとどまるものではなく、台湾から九州沿岸に迫る海域で、宮古海峡で南北を結ぶ結節とし、南西諸島の南北両岸に沿ってH字型に濃く太く記されているのである。
◆台湾からの協力が必要
櫻井キャスターは、頼総統に台湾から日本への要望を尋ね、ドローンの開発等で日本に協力してほしいという発言を引き出した。
確かに、安全保障上も産業政策上も、ドローン開発で日台が協力することは望ましい。
しかし上記の中国軍機の軌跡から見れば、台湾が日本に協力を求めるばかりではなく、日本には台湾からの協力が必要である。
頼総統が述べたように、台湾有事は日本有事であると同時に日本有事が台湾有事となる現実に目を向けるべきではないか。
(あさの・かずお)。
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