米海軍主催の今年のリムパックに米上院軍事委員会が台湾参加を要請

 リムパック(環太平洋合同演習:Rim of the Pacific Exercise)は、米海軍主催により1971年にカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの海軍が参加して始められ、2年に1回、西暦の偶数年にハワイの周辺海域で実施される世界最大の多国間海軍共同訓練で、日本は1980年から招待されて参加している。

 今年は2020年でリムパック開催年。しかし、今年は米海軍でも原子力空母「セオドア・ルーズベルト」で約1000人の武漢肺炎の感染者が出ており、フランス海軍の空母「シャルル・ドゴール」と随伴艦でも1000人以上の感染者が出ているため、リムパックの実施が危ぶまれていた。

 事実、米海軍より中止する方針が日本に伝えられた。しかし、5月13日付産経新聞によれば、日本側が「『こんな時だからこそ、どんな形でもやるべきだ』と説得した」ことで実施することになったという。

 産経新聞は「リムパックの期間は通常1カ月以上だが、今回は8月17〜31日の約2週間に短縮」して行うとも報じていた。

 このことを本誌で伝えた際、台湾の厳徳発・国防部長は5月4日の立法院(国会)外交国防委員会で「リムパックへの参加を目指し働き掛けている」と明らかにしていたことから「いよいよ台湾参加の可能性が高まった」と記した。

 もう一つの背景として、中国が2018年から招待されていないこともあった。

 中国は2012年にオブザーバーとして人員のみ参加し、2014年と2016年に艦船参加していたが、2018年5月23日、米海軍は中国に対する参加招請を撤回すると表明、それ以降、中国は招待されていない。

 中国は、参加艦艇以外に情報収集艦も派遣して他国艦艇の情報収集活動を行ったことで、他の参加国に警戒感を抱かせ、米国内だけでなく参加国からも中国参加に異論が出ていたことや、南シナ海で軍事化を進めていることへの危惧が背景にあったようだ。

 台湾の参加に反対すると目されていた中国が招待されず、台湾も参加をめざして働きかけていることから「いよいよ台湾参加の可能性が高まった」と記したのだが、「ニューズウィーク日本版」によると、6月23日に公表された米上院軍事委員会の2020年度国防権限法(NDAA:National Defense Authorization Act)の草案に「リムパックに台湾を招待することが盛り込まれた」という。

 朗報である。いよいよリムパックへの台湾参加が現実味を帯びてきた。

 ちなみに、本会が2018年3月に発表した政策提言「台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ」では、日米共催、豪印協催による「環西太平洋多国間海洋安保共同訓練」(ウエストリムパック)のメンバー国として、東南アジア諸国などとともに、台湾を招待することを提案している。

 これは、先述したように中国がリムパックに参加しているため、台湾参加に反対することを予測してのより現実的な提案で、まず「日本はこのような米国の台湾重視の機運を見逃すべきではない。日本政府は、この機運をさらに高めるべく、米国政府にリムパックなど米国主導の多国間演習に台湾を招待するよう働きかけるべきである。と同時に、『主要な脅威』をわざわざ招待し、米国や同盟・友好国の軍事対応力の手の内を見せるという愚を冒すことのないよう、強く勧告すべきである」と提案している。

 すでに本会の提言から2ヵ月後、中国の招待は取り消された。日本が米国側にリムパックへの台湾招待を働きかけたかどうかは詳らかではないものの、今年のリムパック実施を働きかけ、米上院軍事委員会が台湾参加を要請することとなった。

 艦船参加まで至らずとも、人員のオブザーバー参加でも、台湾がリムパックに招待されることを大いに期待したい。

—————————————————————————————–アメリカ、今年の環太平洋合同演習に中国ではなく台湾を招待かトム・オコナー(外交・軍事担当)【ニューズウィーク日本版:2020年6月29日】https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/post-93815_2.php

<南シナ海や台湾をめぐる米中対立が激しさを増す中、世界最大の海軍演習には台湾を招くよう米上院軍事委が要請>

 台湾外務省は6月26日、米上院軍事委員会に所属する議員らに対し謝意を表した。台湾の英字紙タイワン・ニュースが伝えた。今年の米国防権限法の草案に、世界最大の海軍演習である環太平洋合同演習(リムパック)に台湾を招待することが盛り込まれたからだ。

 23日に公表されたこの草案では、「必要に応じてリムパックや(カリフォルニア州)フォートアーウィンの国立訓練センターにおける合同訓練や2カ国の海軍演習や訓練など、実用的な訓練や軍事演習を行う」など、台湾との軍事関係の強化が掲げられている。

 正式な外交関係のない米台のこうした動きは議論を呼ぶかも知れない。中国政府は一貫して、台湾を中国の一部だと主張している。

 かつては中国もリムパックに参加したことがあり、前回2018年のリムパック(26カ国が参加)にも招待されていた。ところが中国が南シナ海の小島やサンゴ礁の軍事化を進め、ミサイルシステムや電波妨害設備を配備したため、アメリカは招待を取り消した。以来、戦略的に重要な南シナ海などの海域における(そして台湾の主権の問題をめぐる)米中間の緊張は劇的に高まっている。

◆台湾海峡で米中の緊張高まる

 台湾国防省の報道官は26日、国営中央通訊社に対し、台湾南西の防空識別圏に中国軍機が短時間侵入したと明らかにした。同じニュースは中国共産党機関紙人民日報系の新聞、環球時報でも、周辺での米台の軍事行動を妨害するための行動だとする専門家の発言とともに伝えられた。

 一方、北京大学海洋研究所の台湾周辺の米軍機の動きを記録するプロジェクト「南シナ海調査イニシアティブ」は25日、米軍のEP-3EエアリーズII偵察機がP-8A対潜哨戒機とKC-135給油機を伴って台湾の南上空を飛行していたと明らかにした。

 また同イニシアティブでは、米軍のP-8AとP3-C対潜哨戒機およびRC-135偵察機が台湾とフィリピンの間のバシー海峡近くを飛行する動きも監視したという。こうした米軍の作戦行動は中国政府の怒りを招いている。

 中国人民解放軍の報道官は24日の記者会見で「台湾は中国の不可分の一部だ。台湾問題は純粋に中国の内政問題であり、外国からの干渉は一切認められない」と述べた。

「アメリカは中国の国家主権そして領土の一体性を少しずつ侵害し、最後は全体を制圧する『サラミ戦術』を展開し、いわゆる『台湾カード』を頻繁に切っているが、まさに幻想だ」と報道官は述べた。「人民解放軍は厳戒態勢に入っている。また、人民解放軍には国家主権と領土の一体性を守るとともに台湾海峡を挟んだ平和と安定を維持するための強い決意と完全な自信、十分な能力がある」

 今年のリムパックは8月17〜21日の日程で、対潜水艦戦や海上阻止行動、実弾演習の他、共同訓練が行われる。だが米太平洋艦隊によれば、新型コロナウイルスの影響で海上での訓練に限定されるという。

「われわれはインド太平洋地域全体の同盟国やパートナーの防衛への関与を続けるし、その力もある」と、米太平洋艦隊のジョン・アキリーノ司令官は声明で述べた。今年のリムパックは「未来の敵との戦いと新型コロナウイルスの脅威の中で折り合いをつけた」結果、柔軟なやり方で実施することになったという。

(翻訳:村井裕美)

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