5月13日の朝、産経新聞の1面を見て驚いた。トップ記事は7都府県の合計死者数が3月以降に初めて減少に転じたことを伝える武漢肺炎のことだったが、二番手の記事の大見出しは「環太平洋演習 日本が要望」と打たれ、なんと日本の強い要望で中止予定だった米海軍主催の「リムパックが実施されることになったというのだ。日本が説得してリムパック中止をひっくり返して実施されるようになるなど前代未聞のことだ。
リムパックは「環太平洋合同演習」(Rim of the Pacific Exercise)のことで、アメリカ海軍主催により1971年にカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの海軍が参加して始められ、西暦の偶数年にハワイの周辺海域で実施される世界最大の多国間海軍共同訓練で、日本は1980年から招待されて参加している。
今年は米海軍でも原子力空母「セオドア・ルーズベルト」で約1000人の武漢肺炎の感染者が出ており、フランス海軍の空母「シャルル・ドゴール」と随伴艦でも1000人以上の感染者が出ているため、リムパックの実施が危ぶまれていた。
産経新聞は「米側が新型コロナの影響で中止する方針を伝えたところ、日本側は『こんな時だからこそ、どんな形でもやるべきだ』と説得したという」と報じている。河野太郎氏が防衛大臣に就任してから、防衛省はいい方向に変わってきている。今回の米側を説得したのも河野大臣の意向だったかもしれない。
この記事では触れられていないが、台湾の厳徳発・国防部長は5月4日の立法院(国会)外交国防委員会で「リムパックへの参加を目指し働き掛けている」と明らかにしている。
実は、前回のリムパック実施年の2018年5月、米国防総省は中国の参加招請を撤回している。そこで、台湾の参加が取り沙汰されていた。今年は8月17日から31日の約2週間に短縮実施されることが決まり、いよいよ台湾参加の可能性が高まった。
また、米国の太平洋空軍が主催して4月29日に開いたテレビ会議には、日本からは丸茂吉成(まるも・よしなり)航空幕僚長が参加し、インド太平洋地域の空軍参謀総長らが武漢肺炎の感染状況や対応について意見交換していたが、ここに台湾も参加している。
さらに、5月14日には「海上幕僚監部防衛部長と在日米海軍司令官との間で、電話会談が行われました。多様な議題について率直な意見交換を行うとともに、新型コロナウイルス感染症への対応について、海上自衛隊と米海軍との間で今後とも緊密に協力し、情報交換を行っていくことを確認」(海上自衛隊ホームページ)したという。
—————————————————————————————–環太平洋演習 日本が要望 8月ハワイ 活発な中国軍を牽制【産経新聞:5月13日】https://www.sankei.com/article/20200512-BZCAR2ITYVI6ZNOOPEPAK4QV5E/*新型コロナウイルス流行後も活発な米中の動き
8月に米ハワイで行われる米海軍主催のリムパック(環太平洋合同演習)が、日本政府の強い働きかけで実現することが12日、分かった。米側は当初、新型コロナウイルスの世界的大流行を踏まえ中止する意向だったが、中国軍の活発な動きを念頭に日本側が開催を要望した。期間や規模は縮小され、自衛隊は予定していた固定翼哨戒機の派遣を見送る方針を固めた。
リムパックは2年に1回行われる世界最大規模の多国間海上演習で、今年が開催年にあたり、前回は26カ国が参加した。日米関係筋によると、米側が新型コロナの影響で中止する方針を伝えたところ、日本側は「こんな時だからこそ、どんな形でもやるべきだ」と説得したという。世界各国が新型コロナ対策に苦しむ中、中国軍が活発な動きを見せているためだ。
中国海軍は空母「遼寧」が4月11日と28日に初めて宮古海峡(沖縄本島−宮古島間)を通過したほか、南シナ海では独自の行政区を設定した。米海軍の空母やミサイル駆逐艦で新型コロナの大量感染が発生しており、中国軍の行動は米側の状況をうかがう狙いもあったとみられる。
こうした中でリムパックを中止すれば、新型コロナが米軍の態勢に深刻な影響を及ぼしていると中国側が解釈し、現場レベルで不測の事態が発生する恐れもある。日米両政府は、新型コロナ収束後を見据えた政治的メッセージを発する上でも、リムパックを開催すべきだという点で一致した。
リムパックの期間は通常1カ月以上だが、今回は8月17〜31日の約2週間に短縮。水上訓練や対潜水艦訓練は行うが、地上訓練などは見合わせる。自衛隊は水上艦を派遣する一方、固定翼哨戒機は中東海域での情報収集などで負担が増しており、参加を見合わせる。
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