米国本土の防衛と中国の台湾制圧の抑止を最大重点とする米の「国家防衛戦略」

トランプ大統領は、今年1月に発足した第二次政権下では一度も「台湾防衛」について発言していない。

明言しないことを捉え、これまでの米国の戦略である「曖昧戦略(Strategic Ambiguity)」を踏襲しているのではないかと評したり、台湾防衛のために軍事力を行使しないのではないかという憶測も生んでいる。

それに輪をかけるように、3月29日付の米紙ワシントン・ポスト電子版はトランプ米大統領が台湾に対する4億米ドル(約590億円)以上の軍事支援を承認しなかったと報じた。

確かに、前政権のバイデン大統領は4回にわたって「台湾有事への米軍の介入」に言及し、バイデン政権下では第一次トランプ政権の11回をはるかに上回る19回に及ぶ台湾への武器供与を承認するなど、バイデン政権の積極的な台湾支援と比べて、トランプ第二次政権ではこれまで一度も武器供与を承認してきていないことから、台湾を見捨てるのではないかという見方が浮上していた。

しかし、あまり顧みられないようだが、今年3月中旬、ヘグセス国防長官署名の「暫定国防戦略指導指針」が国防総省内に配布され、そこには「中国による台湾占領の既成事実化を阻止し、同時に米本土を防衛することが国防総省にとって唯一のシナリオ」(共同通信)とあった。

つまり、米国国防総省の唯一のシナリオは「中国による台湾侵攻の阻止と米本土防衛」だというのである。

国家国防の根幹にかかわる重要文書で、指針とはいえ国防長官が大統領の承諾を得ないで署名文書を公表するとは考えられない。

トランプ大統領の台湾防衛の意思が固いことを推測できる文書だった。

その後に発表される正式な「国家防衛戦略」(NDS:National Defense Strategic)においても、この「中国による台湾侵攻の阻止と米本土防衛」というシナリオは変わるまいとも予想された。

本日の産経新聞は、近く発表される「国家防衛戦略」において「『米国本土の防衛』と『中国の台湾制圧の抑止』を最大重点とした」と、元国防総省政策顧問のトシ・ヨシハラ氏がインタビューで指摘していることを報じている。

第二次トランプ政権でこれから発表される「国家防衛戦略」は、もちろん米国の国益に合致していることは言うまでもないが、必ずや台湾にいまだにはびこる「台湾有事の際にアメリカは助けてくれないのではないか」などという、米国に対する不信や疑念を煽っている「偽米論」から解き放たれる一助となるに違いない。


トランプ政権の新国防戦略は中国の台湾制圧阻止が前面 近く公表、米軍介入のシナリオ含む【産経新聞:2025年9月24日】https://www.sankei.com/article/20250923-KYC34N2RQZL4ZLJ23VXSBGWQZM/?460912

【ワシントン=古森義久】トランプ米政権がまもなく公表する新たな「国家防衛戦略(NDS)」が中国による台湾制圧を防ぐ抑止策を前面に打ち出すことが分かった。

元国防総省政策顧問のトシ・ヨシハラ氏が産経新聞のインタビューで明らかにした。

台湾に防衛努力を強化するよう求める方針も盛り込むという。

◆米本土防衛へ「ゴールデン・ドーム」構築

国家防衛戦略は米国の各政権の国家防衛と対外戦略の基本方針をまとめた重要文書。

同戦略を基礎に毎年の国防予算も組み立てられる。

第1次トランプ政権は2018年に同戦略を発表した。

第2次政権では国防総省がヘグセス長官の下で最終草案をまとめ、近く発表される。

ヨシハラ氏の解説によると、新国家防衛戦略はまず「米国第一」と「力による平和」という2つの概念を基本とし、トランプ政権の具体的な国防政策として、「米国本土の防衛」と「中国の台湾制圧の抑止」を最大重点とした。

米国本土の防衛としては、ミサイル防衛網の大幅強化による「ゴールデン・ドーム」の構築を目指す。

◆中国が台湾侵攻なら「米軍が軍事介入」シナリオも

対外戦略面では「中国による台湾の軍事制圧の抑止」を最優先課題としていることが注目される。

この「抑止」は単に対中軍事能力を強化するだけでなく、中国が実際に大規模な台湾への侵攻、上陸作戦を開始した場合に米軍が介入し、その目標達成を阻むという軍事介入策の具体的なシナリオを含むという。

米国の台湾関係法は、台湾有事への米軍の介入の有無を明記しておらず、トランプ政権もそれに従い、「戦略的曖昧性」の姿勢を保ってきた。

だが、新たな国防戦略では介入を前提とし、中国軍の台湾制覇の防止を打ち出す点で第2次トランプ政権の新たな対中姿勢を示すことになるという。

◆台湾の防衛努力には「大幅増強」を期待

ヨシハラ氏はさらに、トランプ政権が台湾自身の国防強化の現状に不満を抱いており、台湾の防衛努力の大幅増強への期待を同戦略にも盛り込むと指摘した。

また、中国の台湾攻略は正面からの上陸作戦だけでなく、海上封鎖や台湾内部での軍事、政治の攪乱(かくらん)工作も予想されるため、同戦略ではそれらへの対処も述べている。

対中抑止の強化は、潜水艦発射の巡航核ミサイルの開発継続や米領グアムのミサイル防衛強化など新たな軍事強化策が必要となり、日本など同盟国・有志国の防衛協力もさらに重要となる。


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