米国は、今年1月3日にベネズエラ大統領を拘束する斬首作戦を成功させ、台湾では2・28事件を記念して設けられた「和平記念日」だった2月28日には、イスラエルとともにイランを攻撃し、最高指導者ハメネイ師を含む政府の主要な指導者約50人を排除する文字通りの斬首作戦を行った。
ベネズエラとイランはともに中国とロシアの関係が深い。
中国とロシアにとって、ベネズエラは南米における主要パートナーであり、イランは中東におけるもっとも緊密な友好国で、3ヵ国で海軍の合同演習も定期的に行っている。
中国はベネズエラに9兆円を超える巨額の支援を行って石油を輸入し、レーダーや兵器を供給する最大の経済・軍事支援国家だった。
ロシアもまたベネズエラの原油輸出を支援し、金融や食糧などの経済支援と技術支援を行う同盟国だった。
イランは、2001年に中国とロシアが主導して設立した上海協力機構の加盟国だ。
イランにとって中国はイラン産原油の最大の輸入国であり、石油やガス開発の資金と技術の支援国家でもあり、いわば相互補完関係だと言われている。
ロシアもまたイランと「包括的戦略パートナーシップ」を結び、イランはロシアへドローンを提供、国際南北輸送回廊を整備することで経済制裁下でも石油やガスの安定した貿易ルートを確保しているという。
米国にとって、ベネズエラとイランへの斬首作戦は中国とロシアの影響力を抑止するということが最大の狙いだったと言えるようだ。
台湾に武力攻撃を辞さないと公言する中国は、このほど開かれた全国人民代表大会(全人代)でも、李強首相は3月5日の政府活動報告で「台湾独立の分裂勢力に断固として打撃を与える」と表明してまたもや台湾を威嚇した。
では、今回のイラン攻撃で中国の台湾への矛先は鈍ったのかと言えば、全人代発言のように先鋭化しているように見える。
とは言え、台湾には有利に働きそうな観点がいろいろある。
産経新聞は3月10日付の「グローバルビュー」に「中国は『最大の敗者』か イラン攻撃 台湾・頼政権に有利な要因」という見出しで、原油、親中政権、中国製防空システム、中国をにらんだ米国という観点から台湾に有利という見方を報じている。
同感することも少なくない。
下記に紹介したい。
それにしても、政敵や戦場経験を持つ軍人を次々と粛清して習近平氏の独裁化が進む中国は、米国によってベネズエラとイランという南米と中東の手足を鮮やかな切口を見せて切り取られた。
米国はニクソン訪中のように手の平返しの外交を行うこともあるが、斬首作戦はビンラディン暗殺など数えるほどしか成功していない。
2ヵ月という短期間で立て続けに成功させたのはトランプ大統領が初めてだ。
習近平氏はこの事態をどのように見ているのか。
習氏に与えた影響は、3月末に行われるというトランプ・習近平首脳会談で見られるだろう。
米国のイラン攻撃で中国は「最大の敗者」か 台湾・頼清徳政権に有利な要因が多数【産経新聞:2026年3月10日】https://www.sankei.com/article/20260310-JW7XAA5VLNLFRI6ANY5GM5RVZQ/?661448
米国とイスラエルによるイラン攻撃は、中国の対台湾戦略にも影響を与える。
中国から軍事、外交面などで複合的な統一圧力を受ける台湾の頼清徳政権にとっては、有利な方向に働く要因が多い。
◆原油輸入コストの上昇
第1は、原油である。
中国は世界最大のエネルギー輸入国であり、原油確保は喫緊の課題だ。
ロイター通信によると、中国が昨年、海上ルートで輸入した原油のうち13・4%がイラン産だった。
米国の対イラン制裁を産地偽装ですり抜けてきた。
中国はイランが輸出する原油の8割を購入して経済的にイランを延命させたが、その見返りに「1バレルあたり相場より8〜10ドル安い価格」でイラン産原油を買いたたいてきた。
1月に米軍の奇襲作戦でマドゥロ政権が崩壊したベネズエラとイランだけで、中国の原油輸入量の2割を占めた。
台湾のシンクタンク「アジア太平洋平和研究基金会」の董立文執行長は「原油輸入コストの上昇は中国国内のインフレを招く」と予測する。
第2に、中国は「ドミノ倒し」(董氏)のように親中政権を失いつつある。
中国にとってイランは中東の、ベネズエラは中南米の戦略的支柱だった。
2024年12月に崩壊したシリアのアサド政権も同様だ。
相次ぐ橋頭堡(きょうとうほ)の喪失により、中国の地政学的な立場は弱まっている。
台湾ではトランプ米大統領が対中ディール(取引)で台湾を売り渡すとの「疑米論」がくすぶるが、董氏は否定的だ。
中国は戦略的に追い込まれており、習近平指導部にとっては「経済の健全な発展や対米関係の安定の方が台湾問題よりも重要だ」と董氏はみる。
◆無力の防空システム
第3に、イラン攻撃は中国製防空システムの無力ぶりをまたも露呈した。
「三者凡退だ」。
台湾の国防部(国防省)系シンクタンク「国防安全研究院」の蘇紫雲研究員は、18年のイスラエルによるシリア攻撃、今年1月の米国によるベネズエラ攻撃に続いて3度、中国製レーダーが役割を果たさなかったと指摘する。
イランでは中国製防空ミサイル「紅旗(HQ)7」や「HQ9」のほかレーザー兵器も機能しなかった。
蘇氏は「米国の強大な電子戦能力が証明された」とし、「中国が台湾に侵攻した場合の戦場は科学技術が重要な海空戦だ。
こうした状況は中国への抑止力になる」と話す。
◆インド太平洋に注力期す
第4に、そもそも米国によるイラン攻撃は中国をにらんだ動きだとの見方がある。
イランの中東での影響力を排除できれば、米軍はインド太平洋地域に注力できるからだ。
中国が支援するイランと親イラン武装組織は中東の不安定化をもたらし、米国の戦略資源を現地に縛り付けてきた。
近年は米同盟国である湾岸諸国が中国に接近する動きも強めていた。
これらは台湾侵攻の成功を下支えする要因だったが、米国がイランの脅威を除去すれば、中国の歯車は逆回転を始める。
「イランを方程式から外せば、中国は台湾有事における手ごまを失う」。
米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」のジネブ・リボア研究員は、最近の論評でこう指摘した。
むろんイラン情勢の着地点はまだ見えず、「中国が最大の敗者という推論は希望的観測だ。
軍事行動がどのような結末を迎えるのか誰もわからない」(英誌エコノミスト)との評価もある。
それでもリボア氏は、米国がイランの体制転換など目的を「完遂」することが必要だと訴えつつ、「冷戦後、こうした戦略的な打撃を中国に与える機会は他になかった」と強調している。
(台北支局長 西見由章)
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