11月15日、昨年11月のインドネシア・バリ島以来ほぼ1年ぶりに米国のバイデン大統領と中国の習近平・国家主席がサンフランシスコにおいて首脳会談した。このとき習近平は「アメリカでは2027年や2035年に中国が軍事作戦を計画しているとの報道があるが、そのような計画はない。誰からも私は聞いていない」と語ったことが波紋を広げている。
中国の台湾侵攻はないと短絡的に受け止めた向きもあるが、習近平はこの発言に続けて「平和がもとより非常に良いが、ときに必要であればより広い解決方法が必要だ」と語り、「アメリカは『台湾独立』を支持しないという態度をはっきりと具体的な行動で示し、台湾を武装することをやめ、中国の平和的な統一を支持すべきだ。中国は最終的に統一される。統一は必然だ」と強調したと伝えられている。
つまり、中国は台湾を平和的に統一しようと言っているのだから、米国は台湾への武器供与はやめろ、中国はなんとしても台湾を統一するのだから、必要なら武力行使も辞さない広い解決方法が必要だ、と言ったのだろう。
何のことはない。武力統一の選択肢は捨てず、台湾を統一する時期はまだ決まっていないと述べたに過ぎない。習近平は、バイデン大統領が首脳会談で、米国は台湾独立を支持しないと言わず、武器供与を続けていることがよほど気に入らないようだ。
台湾の蔡英文総統も11月29日、米国の日刊紙「ニューヨーク・タイムズ」 からオンラインでインタビューを受け、習近平発言について「現在、中国の指導部は内部の大きな課題への対応に追われているため、今はおそらく、中国は台湾に大規模な侵攻を考える時期ではないだろう」と述べるとともに「台湾の人々は現状を十分に理解しており、引き続き最大限の努力を払い、防衛能力と社会の強靭性を強化していく」と述べ、中国の台湾への武力侵攻はありうると受け止めた。
総統選のさなかの台湾ではこの習近平発言が取り沙汰され、産経新聞の矢板明夫・台北支局長は「与野党攻防の新しい焦点になった」と伝え、習発言の真意を探る記事を発表した。台湾の識者も蔡総統とほぼ同じ受け止め方で「中国からいつ攻められても対応できるように台湾は常に準備する必要がある」と指摘したという。
—————————————————————————————–本当にない!?台湾侵攻計画 矢板明夫【産経新聞:2023年12月1日】https://www.sankei.com/article/20231201-TKHZGS5RIVOQ3BYNMFIS3FCO6M/
米西部カリフォルニア州で11月15日に行われた約1年ぶりの米中首脳会談で、中国の習近平国家主席は2027年、または35年に中国が台湾に侵攻する可能性について「基本的にそのような軍事計画はなく、それについて誰かが私に話したこともない」とバイデン米大統領に語った。侵攻計画を事実上否定した習氏の発言は、台湾で大いに注目された。
台湾では来年1月の総統選挙に向けて選挙戦が本格化しており、「台湾海峡での中国との軍事的緊張をいかに緩和させるか」は関心の高い話題の一つ。与党、民主進歩党の総統候補、頼清徳副総統は早速、演説で習氏の発言を取り上げた。
南部屏東県で19日に行われた支持者集会で、頼氏は「習氏すら台湾侵攻計画を否定している。国民党はいつも不安をあおってばかりいる」と野党、中国国民党を批判した。
国民党はそれまで民進党の強硬な対中政策が「戦争を誘発する可能性がある」と批判し、「民進党に票を投じれば、若者たちが戦場にいく」というスローガンを繰り返していた。
頼氏の批判に対し、国民党側は「『習氏は信用できない』といつも強調する頼氏はこの発言だけ信じるのか」と反論。習氏発言の解釈は、与野党攻防の新しい焦点になった。
習氏が言及した27年と35年はこれまで、国際社会で「台湾侵攻の可能性が最も高い」とされる時期だった。27年は中国人民解放軍建軍100年にあたる節目であるほか、5年に1度開かれる共産党大会の開催年でもある。「重要な年に重要なことを行う」という慣習がある共産党は、同年に台湾侵攻に踏み切ると考えてもおかしくない。
「35年台湾侵攻」説は、中国政府の「交通ネットワーク整備計画」の中で、35年までに中国福建省と台湾が高速鉄道と高速道路で直接結ばれると記されていることに由来する。
習氏の発言を素直に解すれば「現時点で中国に台湾に侵攻する具体的計画はない」ということになる。しかし、米中首脳会談を成功させるためのバイデン氏への「リップサービス」だったとの見方もある。
政治評論家の黄澎孝(こうほうこう)氏は「軍事問題で習氏はこれまで何度も嘘をついた前例がある」と指摘する。例えば15年9月、訪米した習氏はオバマ米大統領(当時)に対し、南シナ海を軍事化する「意図」はないと約束した。しかし、その後、中国は南シナ海の人工島に軍事施設を次々と建設した。
同じく15年11月、習氏はシンガポールで会談した台湾の馬英九総統(同)から、中国南東部沿岸に設置されている台湾向けの弾道ミサイルの撤去を求められ、「あれは台湾に向けたものではない」と応じた。しかし、昨年8月、ペロシ米下院議長(同)が台湾を訪問した後、中国は台湾海峡で大規模な軍事演習を行い、台湾周辺海域に弾道ミサイル11発を発射した。そのミサイルは南東部沿岸から発射されていた。
黄氏は「習氏が訪米した最大目的は、米国の力を借りて中国経済を助けてもらうためだ。バイデン氏が聞きたいことをとりあえず口にしてみたが、おそらく本音ではないだろう」と分析した。そのうえで「ロシアによるウクライナ侵攻も、(イスラム原理主義組織)ハマスによるイスラエルへの攻撃も突然始まった。中国からいつ攻められても対応できるように台湾は常に準備する必要がある」と指摘した。(台北支局長)
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