リトアニアの「台湾代表処」名に続くか、台湾の2024年パリ五輪参加名

 本誌8月18日号で、「チャイニーズ・タイペイ(中華台北)」の名称で参加した台湾の参加名称問題が再び浮上していることを取り上げました。

 このような機運が再浮上してきた理由や背景について、台湾人アイデンティティの高まりや、蔡英文総統が「#TeamTaiwan」というハッシュタグ付きで祝福していたこと、頼清徳副総統もツイッターで「台湾代表チーム頑張れ」と呼び掛けていたことなどを挙げるとともに、「日米のみならず、英国や北欧を含むヨーロッパ諸国、オーストラリアやニュージーランド、インドに及ぶ国々で、安全保障の面から中国への『深い懸念』と『台湾海峡の安定と平和』がセットで共有され、世界が台湾を認識しはじめたということも大きな一因かと思います」という国際情勢の変化も挙げました。

 産経新聞もこの問題について、田中靖人・元台北支局長が自由時報や聯合報の記事を中心に分析した記事を「東京五輪入場『台湾です』で再燃する『正名』論」と題して掲載しました。下記に紹介します。

 気になったのは「民進党の游錫●(ゆう・しゃくこん)立法院長(国会議長に相当)が『選手の権益が守られること』という条件付きながら賛意を示した」と紹介していることです。(●=方方の下に土)

 本誌で紹介した中央通信社記事の游立法院長のインターネット番組での発言とは、いささかニュアンスが違い、違和感を覚えました。中央通信社の記事では「名称変更に向けた取り組みは必ずやらなければならないとしつつ、その過程では代表選手の権益を確保しなければならないとの立場を示した」となっていて、游院長はまず「名称変更に向けた取り組みは必ずやらなければならない」と発言し、ただし「選手の権益を確保しなければならない」と発言したことになっています。田中記者の紹介とは順番が逆です。それでニュアンスの違いが出てきたようです。

 游院長のオリンピック参加名称についての考え方を紹介するなら「必ずやらなければならない」という、名称変更への積極的な姿勢を示すのが先ではないかと思われます。また、このような積極的姿勢を単なる「賛意」の一語に止め、先に「選手の権益が守られること」を持ってきたのでは、游院長はまず第一に「選手の権益」を優先した考え方をしていると受け取られかねません。

 さらに、結語に近い箇所で「リトアニアに代表機関を設置する方針を発表した際、名称に慣例の『台北』を用いず『台湾代表処』を採用した」と紹介するも、結語を「蔡政権が五輪参加の名称変更にまで踏み込むかは不明だ」で締めくくっています。

 なんだか読んでいて水を浴びせられたような気分に陥りました。

 蔡政権がリトアニアの公館に初めて「台湾代表処」という名称を採用したという画期的なことを紹介しているにもかかわらず、それに続く一文が「五輪参加の名称変更にまで踏み込むかは不明だ」では、画期的なことを打ち消す作用をもたらしてしまう感じなのです。

 ましてや、五輪参加の名称変更にまで踏み込むかどうかは不明なのは、現時点では自明のことです。蛇足とも言える結語ではないでしょうか。

 「台湾代表処」という名称を在外公館で採用したという画期的なことに続く結語であれば、せめて「蔡政権が五輪参加の名称変更にまで踏み込むかに注目したい」くらいで締めくくった方が収まりがよかったように思います。

 2024年パリ五輪に台湾は「台湾」名で参加できるよう、本会も引き続き「台湾正名運動」の一環として、台湾が「台湾」としてオリンピックに参加できるよう微力ながら力を尽くしたいと思います。

—————————————————————————————–東京五輪入場「台湾です」で再燃する「正名」論田中靖人(産経新聞・元台北支局長)【産経新聞「国際情勢分析」:2021年8月23日】

 台湾で東京五輪を機に、現在の「チャイニーズ・タイペイ」名義ではなく「台湾」での五輪参加を求める声が再浮上している。開会式のNHKなどの中継で「台湾」と紹介されたことや、中国選手を破って金メダルを獲得したことなどが後押ししている。ただ、名称問題は外交・内政ともに政治論争に直結する上、台湾内部の慎重論も根強く、実現は容易ではない。

 NHKは7月23日の開会式の中継で、アナウンサーが台湾の選手団を「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台湾です」と紹介した。バドミントン男子ダブルス決勝では、台湾の選手が中国を破った。獲得したメダルは過去最多だった2004年アテネ五輪(5個)の倍以上の12個となり、蔡英文総統は、台湾に戻る選手団のチャーター機を空軍の戦闘機で出迎えさせ礼遇した。

 NHKは開会式の中継について、「通常のニュースや番組で『台湾』の表記と呼称で伝えている」(広報部)ためだと産経新聞の取材に回答した。だが、「台湾独立」志向で与党、民主進歩党寄りの自由時報(電子版)は8月3日の社説で、NHKや韓国MBC放送が「台湾」と紹介したことは「『チャイニーズ・タイペイ』(の名称)が事実を歪曲(わいきょく)していることを示した」と主張。五輪の試合でも「台湾は中国を破った。双方は別々の国だ」とした上で、現在の名称は「中国の圧力と国際オリンピック委員会(IOC)の妥協」に加え、中国国民党一党独裁時代の「誤った政策の結果だ」として「正名(名を正す)」を求めた。

 7月下旬には、元五輪メダリストが2024年パリ五輪に「台湾」で参加することの是非を問う住民投票の実施を目指すと表明。民進党の游錫?(ゆう・しゃくこん)立法院長(国会議長に相当)が「選手の権益が守られること」という条件付きながら賛意を示した。

 一方、野党、国民党寄りの聯合報(同)は8月5日付の社説で、名称よりも「選手の出場が台湾社会の最大のコンセンサスだ」と主張。五輪での名称変更運動は、与党陣営が支持層の「(台湾)独立派を満足させるための政治的なゆすりだ」と批判した。

 台湾のオリンピック委員会は国民党政権下の1981年、IOCと協定を結び、「チャイニーズ・タイペイ」名義と五輪用の「梅花旗」の使用などによる参加で合意している。聯合報の主張は表向き、名称に固執して五輪出場権を失っては元も子もないという論理だが、その背景には「台湾独立」派への反感もうかがえる。

 台湾では2018年11月、今回と同じ元メダリストらが発議した「台湾」での東京五輪参加を求める住民投票が行われ、反対577万票、賛成476万票で否決されている。IOCが投票前の同年5月に「台湾」での参加は認めないと決議したことが影響したとされたが、蔡政権が投票運動から距離を置いたことも無縁ではない。

 民進党の陳水扁総統(00〜08年)は政権末期、公営企業などの名称にある「中国」や「中華」を「台湾」に変更する「正名」運動を展開。「台湾独立」に向けた中台関係の「現状変更」の動きとみなした米国から不興を買う一因となった経緯がある。蔡政権はこの反省から中台の「現状維持」を掲げ、米国との関係を改善し強化してきた。

 蔡政権は今年7月、バルト三国のリトアニアに代表機関を設置する方針を発表した際、名称に慣例の「台北」を用いず「台湾代表処」を採用した。中国が駐リトアニア大使召還で抗議したのに対し、米国は中国側を非難した。米国の反応は「台湾」の名称を許容する動きともとれるが、蔡政権が五輪参加の名称変更にまで踏み込むかは不明だ。

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