目覚めよニッポン!  陳 銘俊(台北駐福岡経済文化弁事処長)

【産経新聞「陳銘俊の一筆両断」:2022年6月27日】https://www.sankei.com/article/20220627-Q7YTFRZLZZMLFKLBXCBJHAGHLA/

 アメリカのバイデン大統領が5月22日に来日し、翌23日に岸田文雄首相と会談した。

 両首脳はロシアのウクライナ侵攻を受け「東アジアにおいては力による現状変更を許さない」という方針を表明し、覇権主義的な動きを強める中国や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対処することを確認した。また、会談後の共同記者会見で、大統領は「台湾有事に際しては米国が軍事的に関与する」ことを明言した。私にすれば「やっとここまで来たか」と、ひとしおの感慨がある。

 覇権主義の中国をここまでにした責任の一端は戦後の日米の政策にもあると思っている。中国が豊かになれば、民主的で国際秩序を守る状況が生まれるのではないかと期待して、最近まで中国に対する政府開発援助(ODA)を続けたり、「一つの中国」という言葉にとらわれて自らの行動を縛ったり、14億人という巨大なマーケットから生まれる経済的利益に目を奪われて安全保障を重視してこなかったツケがいま突きつけられているとしか思えない。

 これから先も、日本は台湾を軽視して、中国にすり寄り、技術を盗まれ、経済安全保障の不安を抱えながら「おわび外交」を続けるのだろうか。

 われわれは日本と台湾が特別な関係にあることを忘れてはならない。台湾はオランダ、スペイン、中国、日本など、いろいろな国の統治を経験してきたが、日本の統治がなければ、台湾の近代化はなかったと思われる。日本のおかげで台湾の基礎が築かれたと言っても過言ではない。

 一例をあげれば、私の出身地は花蓮県吉野村であるが、田舎ながらに碁盤の目の都市計画がされている。これは日本の手によるものだ。

 台北など大都市の都市計画、台北駅、総督府(現総統府)などの建築物や、当時東洋一といわれ、台湾南部を穀倉地帯に変えた烏山頭ダム、日月潭の水力発電所、南北を貫く鉄道や道路なども日本統治時代に作られた。戸籍台帳も日本時代に整備され、台北帝国大学(現台湾大学)が大阪帝国大学(1931年)、名古屋帝国大学(1939年)より早く1928年に設立されるなど、高等教育制度も日本の手で整えられた。

 このようなことを経て、いまや台湾と日本は友人の域を越えて家族であると言っても過言ではない。どちらも義理人情の国であり、人々の考え方や生活の同質性も高い。一番信頼できるパートナーである。それにもかかわらず「国交がないから」と距離を置き、私たち台北駐福岡経済文化弁事処(領事館に相当)の電話に応答しようともしない自治体があり、情けなく悔しい思いをすることもある。

 一方、最近では、日台の地域交流・提携を進めようという動きがあり、九州・山口の市町村から台湾の自治体と姉妹提携をしたいとの希望が寄せられることも増えてきた。そのとき、私は「あなたの市町村は台湾に何をアピールできますか?」「台湾の自治体と何か一緒にできるものをお持ちですか?」と聞くことにしている。例えば台南市と友好協定を結んでいる長崎県平戸市では、地元の菓子店が台南産マンゴーを材料にしたケーキやカヌレなどのスイーツを作り、それを台湾に輸出し、台湾の人々を楽しませている。このようなことができて初めて交流・提携の実が上がるものと考えられる。

 また、高校生の修学旅行先に台湾を選ぶことによって、自分たちの先輩がしたことに誇りを感じ、自信を持つことができたという話も聞く。これは反日の国に修学旅行で行って、自虐的な気持ちを持って帰国するより、よほど若い人のためになることだと思われる。

 日本語を習っている人が多いのも台湾であり、年配者だけでなく、最近は若者にも日本語学習者が増えている。台湾は日本を信頼しており、日本の技術や知的所有権を盗むこともない。半導体、ワクチン開発(バイオテック)、ドローン、精密工業、水素自動車、脱炭素社会を実現するためのクリーンエネルギー開発など、多くの分野における日台協力が期待される。

 中国などから毎日500万回ものサイバー攻撃を受けている台湾は、そのやり方に精通している。小さな国に多額の資金を貸し付け、重要施設をわが物にしたり、実質的な軍事基地を広げたりしているやり方も分かっている。多くの国が台湾との親交を深め、協力すれば、このような覇権リスクを排除して、自由、民主、法の支配といった価値観を共有し、身を守ることが可能である。

 日本が台湾とともに、これらの行動の先頭に立って世界に貢献することこそ、私の願いとするところであり「目覚めよニッポン!」と大きい声で叫びたい。

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陳銘俊(ちん・めいしゅん)台北駐福岡経済文化弁事処長(総領事)。1964年3月、台湾東部、花蓮県生まれ。台北市の中国文化大韓国語学科を卒業後、台湾外交部入り。大阪外国語大(現大阪大)や慶応大への留学経験がある。カリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学客員研究員。許世楷・台湾駐日代表(当時)の補佐官や台北駐ボストン経済文化弁事処の副処長などを歴任し、2018年7月から日本の内閣官房にあたる台湾総統府で機要室長を務めた。2021年10月1日、台湾の総領事館に相当する台北駐福岡経済文化弁事処処長(総領事)として着任。趣味は語学研究。

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