卓氏は蔡英文派で、日本経済新聞は「勝利は蔡氏が党内の主導権を握り続けることを意味する」と指摘し、蔡英文総統が1月5日に行った海外メディアとの記者会見と併せて報じている。下記にその記事をご紹介したい。
一方、産経新聞(1月6日付)は総統選挙と絡めて主席選挙について報じ「再選出馬を目指す蔡氏にとって追い風となる」と伝えつつ、1月3日に台湾独立派長老といわれる彭明敏、呉●培、高俊明、李遠哲の4氏が「国家のかじ取りを担う能力が蔡総統にはまだあるのか」と蔡氏に再選放棄を迫るメッセージを「自由時報」に公表したことを伝え、「独立派が好感する頼清徳行政院長(首相に相当)は予算が成立する月内に辞任する見込みで、総統選出馬への布石と見る向きが絶えない」と、頼清徳氏の動きも伝えている。(●=サンズイに豊)
朝日新聞(1月6日付)もまた主席選挙の結果もそこそこに、総統選挙をメイン記事に「次期総統選への期待度を調べた先月の世論調査で、蔡氏は民進党のホープとされる行政院長(首相)の頼清徳(ライチントー)氏(59)を下回った。前回総統選で蔡氏に敗れ、雪辱を期す野党国民党の朱立倫(チューリールン)氏(57)にも今回は大きく差を付けられている。ただ、もうひとり意欲があるとされる国民党の呉敦義(ウートゥンイー)主席(70)が相手なら、蔡氏にも勝機はあり、両党は互いの出方をうかがう。2大政党を尻目に無所属の台北市長、柯文哲(コーウェンチョー)氏(59)への期待も高い」と伝え、頼清徳・行政院長の動向について「蔡氏は慰留しているが、辞任すれば党内で頼氏を担ぐ声が高まる可能性がある」と伝えている。
2019年が明け、2月5日に迎える春節を前に、台湾は総統選挙モードに切り替わって事実上の選挙戦に突入した感が強い。
————————————————————————————-台湾与党党首に蔡派の卓氏 中国は統一圧力を強化 【日本経済新聞:2019年1月6日】https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39686740W9A100C1FF8000/
【台北=伊原健作】台湾与党の民主進歩党(民進党)は6日、蔡英文総統の主席(党首)辞任にともなう主席選挙を実施した。蔡氏に近い卓栄泰前行政院(内閣)秘書長(59)が、蔡政権に批判的なシンクタンク台湾民意基金会の游盈隆董事長(62)を大差で破って勝利した。中国共産党が独立志向の民進党への圧力を強めるなか、卓氏は2020年1月の総統選に向けた党勢立て直しが最大の課題となる。
党主席選挙は18年の統一地方選の大敗で蔡氏が引責辞任したことにともなって実施した。有力者が出馬を見合わせるなか、行政院で蔡政権を支えてきた親蔡派の卓氏と、反蔡派の游氏の一騎打ちとなり、党内主流派の支持を集めた卓氏が7割強の票を得た。9日に就任する。
卓氏は当選後の6日夜「今後のあらゆる選挙での勝利」が最優先課題だと記者団に説明した。中台関係は「党内で議論する」と述べるにとどめた。
卓氏の勝利は蔡氏が党内の主導権を握り続けることを意味する。蔡氏は5日、一部海外メディアとの記者会見で「どの総統もやるべきことをやり切る十分な時間が必要だ」と述べ、総統選出馬に意欲を示した。ただ中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は民進党への統一圧力を一段と強めるとみられる。
習指導部と距離を置く蔡氏の政策に変化は見られない。習氏が2日の演説で台湾への武力使用も選択肢だとした点について、蔡氏は5日「防衛をしっかりしたものにしなければならない」と対抗姿勢を強調。「防衛力強化に協力してくれる国々と一緒に取り組みたい」とも述べ、台湾への武器供与を続ける方針のトランプ米政権などとの連携に意欲を示した。
習氏が平和統一に向けて香港で実施している「一国二制度」の台湾版を検討するとした点には「中国は民主的な体制が不十分で、人権状況も良くなく、台湾への武力使用を放棄していないので受け入れられない」と拒絶した。習指導部が統一推進への圧力を強めていることは台湾世論の警戒を呼び起こし、民進党や蔡政権に追い風となる可能性がある。
一方で、習氏は統一に向けて「両岸の各政党や各界」との「民主的な話し合い」を提唱している。江沢民(ジアン・ズォーミン)、胡錦濤(フー・ジンタオ)両元国家主席が過去に実施した台湾演説では協議相手として念頭に置いた「台湾当局」という表現があったが、今回は消えた。民進党や蔡政権が独立志向を改めない限りは相手にせず、他の勢力を切り崩していくとみられる。
中台の経済協力が貿易や投資の拡大だけでなくインフラ整備にも広がっていけば、経済界などからは習指導部との溝が深い蔡政権への懸念が出てくる可能性もある。台湾内には中国大陸との距離をめぐり温度差がある。習指導部はそこを突いて分断を図り、統一の機運を築く構えだ。