東大教授の台湾産パイナップル寄稿文への違和感と疑問

 いささか前のことだが、東京大学社会科学研究所教授だという丸川知雄氏が8月24日付の「Newsweek日本版」に寄稿した「台湾産パイナップル、来年も買いますか?」を読んだとき、かなりの違和感を覚えた。

 いわく「役所のレベルでは輸入停止は大した問題ではないとみていたものを、蔡総統が大げさに取り上げることで政治利用しようとした疑いがある」「台湾経済にとってパイナップルの輸出はまったく微々たる存在でしかない」、果ては「台湾が可愛いから『あばたもえくぼ』に見え、コナカイガラムシも粉砂糖に見えるらしい」「日本は、害虫がついていたパイナップルを台湾側の宣伝に体よく踊らされて大量に買ったお人好しだった、ということになる」。

 そして最後に「筆者自身は台湾産パイナップルの半値で買えるフィリピン産パイナップルが十分すぎるほどおいしいと思うので台湾産を試すことはなかったが、もしフィリピン産の2倍おいしいというのであれば次の機会に買ってみたい」と述べる。

 台湾産パイナップルを食べずに「フィリピン産パイナップルが十分すぎるほどおいしいと思う」と書く筆者の感性にまず驚かされた。

 また、日本が台湾産パイナップルを輸入するのは今年で2年目ということに触れず、中国が輸入を禁止した理由が破綻しているにもかかわらず、中国がなぜ輸入を禁止したのかにも触れず、日本は「台湾側の宣伝に体よく踊らされて大量に買ったお人好し」と決めつける一方的な書き方に違和感を覚えた。

 台湾が中国に理由にならない理由でパイナップルの輸入を禁止されて困っている、と受け止めたのが大方の日本人だったかと思う。「またか」と受け止めたのではなかったか。その時点で「台湾経済にとってパイナップルの輸出はまったく微々たる存在でしかない」と分かっていた人は多くはないはずだ。

 台湾が中国にいじめられて困っているなら助けたい、ツイッターで台湾産パイナップルを紹介した安倍晋三・前首相をはじめ日本人の多くはそう思ったはずだ。困っているという台湾を見れば助けたいと思うのが日本人の心情であり、特に東日本大震災以降の日本と台湾の間柄なのではないだろうか。

 その点で、単なる売り買いではなく、台湾の受けている災難に対して義捐金を送るような思いで台湾産パイナップルを買った日本人は多かったと思われる。また、初めて食べた台湾産パイナップルが美味しかったと思えば、来年も買ってみようと思うだろうし、輸入2年目にして全国的に知られるようになり、今年はその意味で「台湾産パイナップル元年」ともいうべき年だった。

 それにしても、台湾側の内情はどうあれ、義捐金を送るような思いで台湾産パイナップルを買った日本人が「体よく踊らされて大量に買ったお人好し」と非難されなければならない理由はない。それも、上から目線で日本人が愚弄され腐される謂われはない。

 台湾に住む李登輝元総統秘書の早川友久氏も丸川氏に同じような違和感を覚えたようで、「意図的なのか、あるいは認識不足なのか」と2つの疑問を投げかけている。下記に早川氏のフェイスブックから紹介したい。

◆丸川知雄(東京大学社会科学研究所教授)「台湾産パイナップル、来年も買いますか?」 【Newsweek日本版:2021年8月24日】https://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2021/08/post-73.php?fbclid=IwAR0xN2BwFMqSkPzZ7adBlmP7ouhW8ryRRHsIq3Qv1_1gsZ_6dv7M1jhdOM8

—————————————————————————————–早川友久氏フェイスブック「台湾民主化の父 李登輝元総統の日本人秘書 早川友久」2021年8月24日https://m.facebook.com/ritoukitaiwan?_rdr

 意図的なのか、あるいは認識不足なのか。

 今年春、中国は台湾から輸入したパイナップルに害虫のカイガラムシが検出されたとして輸入禁止措置をとった。その後、行き場を失った台湾パイナップルに日本の消費者が手を差し伸べ、結果的に日本における市場拡大につながったわけだが、その一連の騒動を東京大学社会科学研究所の丸川知雄教授が振り返った記事だ。

 丸川教授はいう。

「日本の消費者は食の安全性に対する意識が高く、とりわけ海外からの輸入品には厳しい目を注いでいるのだと思っていたが、相手が台湾となると話が別のようだ。台湾が可愛いから『あばたもえくぼ』に見え、コナカイガラムシも粉砂糖に見えるらしい。あるいは、害虫がいるという中国税関の発表などはなからウソに決まっていると思っていたのだろう」

 カイガラムシそのものは決して強力な害虫ではなく、輸入時に発見された場合には倉庫内でガスによる燻蒸を行い、害虫を死滅させてから市場に流通させる。この方法はパイナップルに限らず、輸入青果に広く行われており、ガスは非常に揮発性が高いため青果には残らない。

 たとえば、財務省の貿易統計によると、日本のパイナップル輸入元はフィリピンが9割以上を占めるが、2020年の統計によれば輸入量約15万5千トンのうち消毒(燻蒸)処理されたのは実に85%にあたる13万3千トンだった。輸入量が多いのと、管理体制が甘いために、もはや燻蒸処理するのを前提として、タンカーで輸送してくるのだという。

 台湾産パイナップルの場合、2019年は輸入量のおよそ25%が、2020年はおよそ18%が燻蒸処理されてから市場に流通している。これらのデータは農林水産省の地方出先機関である植物防疫所のHPで公開されている数字であり、処理方法については実際に台湾から日本への青果輸出商社に勤務する人物に直接インタビューして確認した内容だ。

私は、オピニオン誌『WiLL』の5月号に次のように書いた。

「台湾の青果輸出業者が『日本に輸出できる基準をクリアしたパイナップルは間違いなく中国にも出せる。でも中国に輸出できるパイナップルが日本にも出せるとは限らない』と発言するのも検疫基準の高さを物語っている。 つまり、中国以上に厳格な基準を設ける日本でさえ、消毒(燻蒸)処理を済ませればそのまま輸入を認める程度のものに、中国は明確な根拠もきちんとした説明もなく、即時かつ全面的な輸入禁止措置をとったわけだ」

 丸川教授は「今回の台湾産パイナップル輸入停止は結局当初中国の税関が発表した内容以上のものではなかった可能性が大である。もしそうだとすると、日本は、害虫がついていたパイナップルを台湾側の宣伝に体よく踊らされて大量に買ったお人好しだった、ということになる」と結論づけている。

 この結論には二つの点で疑問が残る。

 まず、中国以上に厳しい輸入基準を持つ日本でさえ燻蒸処理して市場に流通させる程度の害虫(カイガラムシ)の検出が、なぜ全面禁輸措置になるかという疑問に答えていないこと。

 続いて、前述の通りカイガラムシは青果業界では「強力な害虫」とは認識されておらず、それゆえに燻蒸処理を経れば市場に流通させることが可能と判断されているにもかかわらず、なぜ丸川教授は「害虫がついていたパイナップル」を買った日本人はお人好しだった、とわざわざ腐すのだろうか。

 日本からのワクチンが寄贈され、台湾が感謝を表明すると「日本が不要なAZ製ワクチンを台湾に贈ったことで暴動寸前になっている」などと書き散らかす「売文家」たる人物が登場した。このパイナップル記事もその類なのだろうか。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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