日台関係は、第二次安倍晋三政権が発足した2012年12月26日以降に深化したと言って過言ではない。
その1ヵ月後の2013年1月31日、当時の岸田文雄・外務大臣が交流協会「交流」1月号の交流協会設立40周年特別号に祝辞を寄せ「台湾は基本的価値観を共有する重要なパートナー」と記した。これには驚かされた。日本政府が台湾を「重要なパートナー」と表現したのは初めてだったからだ。
台湾と断交した1972年9月29日以降の日本政府の台湾に関する見解は「非政府間の実務関係」という立場にとどまっていた。ただ、民主党政権時代の2012年 10月、当時の玄葉光一郎・外務大臣が日台漁業協議の再開に際し、交流協会を通じて発表した「台湾の皆様へ」というメッセージで「民主、平和、法治といった共通の基本的価値観を有する日台間」と表現したことがあったが、それでもこれが精一杯だった。
だから、岸田外務大臣の「台湾は基本的価値観を共有する重要なパートナー」という表現がいかに一歩踏み込んだものかわかるのではないだろうか。
そもそも安倍総理自身、下野していた2011年9月、台湾安保協会(羅福全理事長)が主催する国際シンポジウムで基調講演し「日本と台湾はともに共通の価値観を持つ重要なパートナー」と述べており、岸田外相の表現は安倍総理の考え方を踏襲したものだった。「交流」に寄稿する際に安倍総理自ら目を通して手を入れた可能性もある。
その後の安倍総理の台湾に関する発言を追っていくと、2013年3月11日の東日本大震災2周年追悼式では「台湾は世界のどの国よりも多額の200億円を超える義援金を贈ってくれた大切な日本の友人」と述べ、同年4月10日には李登輝政権時代からの懸案だった「日台民間漁業取決め」を政治主導で締結させている。まだ第二次政権が発足してから5ヵ月も経っていなかった。同年5月31日の日台観光サミットでは「台湾は日本の重要なパートナー」と述べるビデオメッセージを送っている。
2015年4月29日に行った米国の連邦議会上下両院合同会議演説では「1980年代以降、韓国が、台湾が、ASEAN諸国が、やがて中国が勃興」と、台湾と中国を並べて述べ、同年7月29日の参議院の平和安全法制に関する特別委員会ではついに「基本的な価値観を共有する重要なパートナーであり、大切な友人」と答弁、これがその後に続く安倍政権の基本的な台湾認識となる。
それは安倍総理の「答弁書」にも明確に残されている。2016年5月20日、台湾の蔡英文氏が総統に就任する就任式当日の発出された答弁書だ。まるで蔡英文総統に祝意を表するかのように、下記のように記されていた。
<台湾との関係に関する我が国の基本的立場は、昭和47年の日中共同声明第3項を踏まえ、非政府間の実務関係として維持するというものである。政府としては、このような基本的立場に基づき、我が国との間で緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーである台湾との間においてこのような実務関係が着実に発展していくことを期待している。>
もちろん、この台湾に関する政府見解は、安倍政権を踏襲するとして本年9月16日に発足した現在の菅義偉政権にも受け継がれている。
現在の台湾に関する政府見解は、2011年9月の台湾での安倍前総理の講演に由来していたことを振り返れば、総理を退任した現在、台湾において安倍氏の台湾訪問を望む声が一段と高くなるのは当たり前といえば当り前のことかもしれない。
中央通信社が「安倍晋三前首相の台湾訪問について、民間から大きな期待が寄せられているとし、同部としても『(実現を)期待しているし、歓迎する』と述べた。安倍氏の訪台が実現する可能性は『ある』との見解も示した」と、民間ばかりでなく、外交部すなわち台湾政府の歓迎の声を伝えている。ぜひ実現して欲しいものだ。
—————————————————————————————–安倍前首相の台湾訪問「実現に期待」=外交部【中央通信社:2020年12月9日】
(台北中央社)外交部(外務省)の田中光・政務次長は9日、安倍晋三前首相の台湾訪問について、民間から大きな期待が寄せられているとし、同部としても「(実現を)期待しているし、歓迎する」と述べた。安倍氏の訪台が実現する可能性は「ある」との見解も示した。
超党派の立法委員(国会議員)連盟「亜東国会議員友好協会」が安倍氏の訪台を目指し動いている。会長を務める郭国文委員(民進党)が8日、安倍氏が招待を受ける意向だとの情報があると立法院(国会)で明かした。早ければ来年にも実現するとの考えを示し、台湾が安倍氏とTPP(環太平洋経済連携協定)参加に向けた話し合いを進めることに期待を寄せた。
これを受け、9日の立法院外交および国防、経済委員会の会合では、複数の立法委員が田次長に関連の質問を投げかけた。田次長は安倍氏から正式な回答を政府は受け取っていないとしつつ、実現すれば台日関係の長足の進歩となるとした。
(王揚宇、林育?/編集:楊千慧)
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