日台間の国家的関係強化の方策  浅野 和生(平成国際大学副学長)

【産経新聞:2024年9月26日】https://www.sankei.com/article/20240926-C3B54PFIZBNXVCF7T2TL64GOAI/?286307

中国による台湾武力統一への圧力が強まり、「台湾有事は日本の有事」といわれる運命共同体の日台関係で国家レベルの交流・協力の必要性が急速に高まっている。

◆日中共同声明を読み返す

今日の日台関係の基礎は1972年9月29日の日中共同声明第3項「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。

日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」である。

72年10月28日、田中角栄首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で、日中共同声明により「わが国は、中華人民共和国との国交の正常化を実現」と宣言した。

続いて大平正芳外相が「日中国交正常化の結果として、日華平和条約は、その存続の意義を失い、終了したものと認められる」と台湾との断交を伝えた。

また同30日、自民党の桜内義雄議員の質問に答え、田中首相は「日中国交正常化の結果わが国は台湾との間の外交関係を維持できなくなりましたが、わが国と台湾との間に民間レベルで人の往来、貿易、経済等の実務関係が存続していくことは、いわば自然の流れ」と述べた。

これが今日も続く日本と台湾の「非政府間の実務的関係」の始まりである。

ところでこの前年71年7月19日に佐藤栄作首相は臨時国会で「政府はこれまで2つの中国という考え方をとったことは一度もない」「わが国は1952年、日華平和条約を締結し、自来、中華民国政府を中国の正統政府として認めております。

この態度はいまも変わりはありません」と「一つの中国」政策と、台湾の中華民国を中国の正統政府とみなす立場を明確にしていた。

◆「二重代表権」求めた佐藤内閣

しかし、その秋の国連総会で中華人民共和国の国連加盟が実現しそうになると、10月19日の臨時国会で佐藤首相は「中華人民共和国政府に対し国連代表権を確認するとともに、同政府が安全保障理事会常任理事国の議席を占めることを勧告し、経過的な措置として中華民国政府もまた国連において議席を維持できるように措置する方針を決めた」と重大な政策転換を発表した。

すなわち、現実に合わせ中華人民共和国を中国の正統政府と認め、台湾の中華民国との併存を公式に認めた。

「いずれにしても、政府は、あくまでも中国は一つであるとの基本的認識に立っております」と付言し、元来「一つの中国」が国民党と共産党の内戦で分裂状態になったのだから「当事者間の話し合いによって円満に解決されることを強く期待する」と述べて、2つの国家の並立を認めるのは「経過的措置」だと説明した。

経過的措置の期間について佐藤首相は同20日、「今後当事者間の話し合いによって、円満かつ妥当な方法で解決されるまでの間」だとし、「いつの時点までという性質のものではない」と述べた。

以上、71年10月の衆院本会議で対中、対台湾政策転換が表明されたが、同25日に国連総会決議により、中華民国は国連を脱退、中華人民共和国が加盟して安全保障理事会の常任理事国となった。

この1年後、北京での日中共同声明署名の翌日9月30日の自民党両院議員総会で大平外相が「第3項目は、台湾の領土権の問題で、中国側は『中華人民共和国の領土の不可分の一部』と主張したが、日本側はこれを『理解し尊重する』とし、承認する立場をとらなかった。

つまり、従来の自民党政府の態度をそのまま書き込んだわけで、両国が永久に一致できない立場を表した」と述べた。

これは田中内閣が2つの国家の並立を認めた佐藤内閣の「経過的措置」を継承したことを意味する。

◆知恵と胆力で積極交流を

つまり日本政府は、中華人民共和国と中華民国がともに国家として存在する現実を率直に認めているが、中国との国交正常化を実現させるために、中華人民共和国政府の台湾に関する主張を「十分に理解し尊重」することにした。

この結果、日本政府は、台湾の中華民国を公式には国家として取り扱えなくなった。

ところでその後、台湾では民主化が進み、政権交代が繰り返され、中国共産党との内戦に敗れ台湾に移転した国民党政府ではなくなった。

今や平和的話し合いであっても、台湾政府が中台統一に同意することは考えられない。

今日、中国による武力その他のあらゆる手段を用いた台湾統一への圧力が急速に高まっている。

中国の覇権的動きの拡大の中で日本と台湾の国家レベルの交流・協力強化が喫緊の課題となっている。

新たに発足する自民党内閣は、今こそ、大胆に政策転換した佐藤内閣の知恵と政権党としての胆力に学んで、「経過的措置」として政府が定義する日台関係を、「非政府間の実務的関係」から「非政府間」の枠を外し「外交関係のない実務的関係」へと変更し、日台間で必要な交流・協力を積極的に進めるべきである。

(あさの かずお)。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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