文を総統候補に確定。一方の国民党は、昨年の統一地方選挙の大敗で自信喪失したのか、主席の朱
立倫を含め、いまだに誰も名乗りをあげない。党内からは「国民党は死を待っているのか(就等死
[口巴])!」との声も。このままでは蔡英文独走かと思えるが、舞台裏はそう単純ではない。
◆同日選挙、民進党の票減る
総統の任期は4年で、来年5月20日に新総統が就任する。現職の馬英九は2期目。規定で3選はでき
ない。総統選は通常は3月だが、早くやるのは一向に構わない。そこで馬政権は、前回2012年は1月
14日に立法委員と初の同日選挙を敢行。総統と立法委員の相乗効果で同日選挙は与党に有利ともい
う。
加えて1月14日という日も国民党に有利という見方も。この時期は大学の期末試験。遠方出身で
下宿や寮生活の学生が投票するには戸籍のある実家に戻らなければならない。試験か、投票かの選
択。学生は試験に合格しなければ、進級も卒業もできないから、投票を諦めざるを得ない。若者は
民進党贔屓が多いから、民進党の票が減ることになる。
そんな目論見が当たったせいか前回は、蔡英文が子豚の貯金箱で優勢と思われていたのが、年明
け、相次ぐ大企業トップの馬英九支持表明もあって、馬英九が約80万票もの差をつけて逆転勝利し
た。2匹目の泥鰌を、というわけか、国民党政府は今回も学生にとっては期末試験と重なる同日選
挙を設定。野党側は期末試験の日程変更を教育部に求めている。
◆陳水扁の献金問題の裏は?
民進党の蔡英文はそんな国民党の策略を見て「早くから準備したほうがいい」と春節(旧正月)
前に党内予備選を決めた。これには前主席の蘇貞昌が「俺は聞いてない!」と不満表明。自ら主席
選挙にも立候補したことがある独立派の長老、辜寛敏は人気ナンバー1の台南市長・頼清徳を強力
に推薦したが、結局、頼清徳も蘇貞昌も立候補見送り。蔡英文だけが立候補表明し、4月に正式に
公認候補として決める。
これで党内一丸─とならないのが民進党。民進党の女性市議会議員が陳水扁の企業献金問題を暴
露し、大騒ぎになった。蔡英文は女性議員を弾劾するとしたが、消息筋は、実はやらせと見る。女
性議員は蔡英文に近い。陳水扁の息子、陳致中は立法委員選挙に立候補の動き。陳水扁支持勢力の
巻き返しになる。
民進党内に陳勢力が広がるのはクリーン蔡英文・民進党にとってはイメージダウン。蔡英文にす
れば、陳水扁には大人しく自宅療養していてほしい。そこで献金問題暴露で圧力? 筋書き通り
か、陳致中は立候補を辞退した。
党内団結がなかなかできないのは民進党の宿痾だ。陳水扁時代の四天王のうち謝長廷は息子が昨
年、台北市議会議員に当選。それに刺激されたか、蘇貞昌は娘を新北市から立法委員選に出す。そ
れを見て游錫●も息子の出馬を検討、呂秀蓮も陳水扁問題で蔡英文批判と、4人ともそれなりの存
在感を示す。蔡英文は自分の選挙だけでない。立法委員選挙も含め党内をどうまとめるか力量を問
われている。
●=[方方の下に土]
◆朱習会談後に立候補表明?
そんなざわざわ民進党と対照的に国民党は静まりかっている。前副主席で立法院副院長の洪秀柱
は「だれも名乗りを挙げたくないなら、国民は死を待つだけじゃないか!」と訴える。神輿を担ぐ
人はいるが、神輿とされる朱立倫も立法院長・王金平も副総統・呉敦義も「……」。洪秀柱は「4
月末までに決めないと…」と言う。
しかし実は静かなのは表面だけ。大方は朱立倫を最有力候補とみている。朱立倫周辺では署名運
動の動きがあり、とくに元台湾省議会議長の岳父、高育仁が激しくあちこち回っている。朱立倫自
身、相変わらず「新北市長の仕事を精一杯やるだけ」というだけだが、台湾の外ではシンガポール
のリー・シェンロン首相、香港の梁振英行政長官と相次いで会談。華人圏でお披露目か。いわば国
際的お墨付きをもらいに回っているのだろうか。
その総仕上げが、中国共産党総書記、習近平との会談。中国側も前向きのシグナルを送る。一部
では5月開催の可能性も囁かれる。朱習会談実現なら、台湾海峡の平和を象徴することになり、多
くの台湾人も、米国も歓迎だろう。そのうえで総統選に名乗りを上げれば、朱立倫の支持率は大幅
アップ確実。国民党は1月に照準を当てて動いている。蔡英文は痩せ馬の先走りにならない手綱捌
きが必要だ。(敬称略)
【「透視台湾」(EconoTaiwan 速報掲載)3月号より】