尖閣への漁船侵入を呼んだ台湾外交の空白  山田周平(日経新聞アジア部次長)

尖閣諸島をめぐって、台湾の馬英九政権は未だに「鼻息」が荒い。10日には、中国と同
じくアメリカの主要紙に尖閣諸島は中華民国に主権があるとする広告を打ち、台湾の立法
院(国会に相当)は19日、尖閣諸島の領有を宣言する決議を行った。報道によれば、これ
は野党である親民党の提案で、与党の国民党や野党の民進党も賛成し、台湾団結連盟は反
対したという。

 台湾側の目的は日本との漁業協定の締結にある。それを有利に運びたいという思惑が見
え隠れしているが、この道筋を引いているのは馬英九の「懐刀」と言われる金溥聰・駐米
代表だろう。

 この金溥聰氏と、側近中の側近だった馮寄台・前台北駐日経済文化代表処代表が尖閣を
巡って対立し、馮氏の外交部長(外務大臣に相当)就任に歯止めをかけたと言われてい
る。そのあたりの事情を日経新聞の山田周平氏が記しているので下記に紹介したい。

 金溥聰氏が馮寄台氏を追い落としたことにより、支持率低迷にあえぐ馬英九政権は国内
向けに、せめて尖閣ではと「鼻息」が荒いようだ。しかし、台湾も中国も、尖閣領有の根
拠は薄弱で、歴史から見ても国際法から見ても日本に主権があることは揺るがない。

 馬英九政権が国内向けパフォーマンスで尖閣の主権にこだわりすぎると、日台漁業交渉
どころか、中国に利用されかねない。日台離間を虎視眈々と狙っている中国に付け入る隙
を与えることになり、東シナ海の安定も危うくなる。結果、困るのは台湾の漁民だ。


尖閣への漁船侵入を呼んだ台湾外交の空白  山田周平(日経新聞アジア部次長)
【日経新聞:2012年10月16日】

 台湾の漁船や巡視船が9月下旬、沖縄県・尖閣諸島沖の日本の領海に約50隻も侵入する事
件があった。尖閣の国有化を巡って中国との緊張が高まるなか、親日的なはずの台湾まで
が抗議行動に出たことは驚きを呼んだ。騒ぎが大きくなった裏には、馬英九政権が直前に
外交分野で大型人事を行い、結果として対日外交に空白ができていた事情がある。

 「釣魚台(尖閣の台湾名)は台湾に付属した島しょであり、その海域は伝統的な漁場
だ」。馬総統は10日、台湾当局が名乗る「中華民国」の建国記念日に当たる「双十節」の
式典でこう演説した。経済政策などを詳細に語った後だったものの、尖閣の領有権を主張
する台湾の立場は譲らなかった。

 台湾側で今回、強硬な動きが出た最大の火種は、漁民が抱いてきた不満だ。台湾の漁民
は日本の植民地支配が終わった後も、尖閣周辺で自由に漁をしてきた。しかし、1972年の
沖縄返還後は日本が警備を強め、操業しにくくなったと訴える。

 中国との急進的な統一を主張する反日的な勢力が、そこに油を注いだ。台湾では現在、
急進統一派は人口の1%にも満たない異端な存在だが、行動は過激だ。台湾北東部・宜蘭
県の漁民らを組織し、9月25日に日本の領海に侵入した。

 与党・国民党は中国大陸時代に日中戦争で日本と対峙した歴史があり、馬総統自身も米
留学時の博士論文で台湾による尖閣領有の正当性を取り上げた過去がある。ただ、08年5月
の総統就任後は日本重視を掲げ、投資協定や航空自由化(オープンスカイ)協定の締結な
どの実務外交を推進した。5月20日の2期目の就任演説では、「日本とは(日台断交以降
の)40年間で最も友好的な関係にある」と宣言したばかりだった。この4か月ほどで何が変
わったのか。

 「先輩方が築いた台日関係の良好な基礎の上に、新たな局面を切り開きたい」。台北駐
日経済文化代表処の沈斯淳代表は5日、都内のホテルで開いた双十節の祝賀式でこう挨拶し
た。沈氏は日本と正式な外交関係がない台湾当局の駐日大使に当たる人物で、5月30日に着
任。日本による尖閣国有化の直後、抗議のため台湾に戻っていたが、4日夜に帰任していた。

 沈代表は直前まで外交部常務次長(外務次官)を務め、職業外交官としては大物だ。し
かし、欧米での勤務歴が長く、日本との縁は薄い。複数の台湾外交筋は「馮寄台氏が駐日
代表に留任していれば、抗議船団が出港するほど事態は大きくならなかったはずだ」と認
める。

 沈氏の前任の馮氏は08年9月に着任。外交官だった父親とともに小学校時代を東京で過ご
した経験があり、流暢な日本語を話した。馬総統が初当選した同3月の総統選挙に選対幹部
として臨み、同5月の1期目の就任式の責任者を務めた側近の一人だ。馮氏の在任中、馬総
統が誇るほどに日台の実務関係が前進したのは、この2人が電話一本で意思疎通できる間柄
だったことが大きい。

 台湾当局は国際社会で中国と外交承認を競う状態が続き、正式な外交関係がある中南米
や大洋州の23カ国以外とは、外交部長(外相)が往来できない。このため、日米など主要
国との外交は事実上、総統府が直接取り仕切ることが多い。馮代表時代の日台関係はその
好例だ。

 台湾では尖閣での騒ぎの直前の9月20日、外交に関する馬政権の大型人事が明らかになっ
た。注目は駐米代表に金溥聡・国民党国際事務主席顧問が内定したことだ。金氏は馬総統
の台北市長時代に副市長を務めるなど、長年の側近として知られる。馮氏よりも関係は深
い。

 「金溥聡は(馮代表時代の)東京経験をコピーできるか」。台湾有力紙の中国時報(電
子版)は金氏の駐米代表起用について、こんな評論を載せた。米台関係はここ数年、台湾
がBSE(牛海綿状脳症)問題で禁止していた牛肉の輸入再開を巡り、ぎくしゃくしてい
た。馬総統が直前までの日台間と同様、総統府とワシントンにホットラインをつくろうと
したと分析している。

 一方で台湾メディアは、この人事で馮氏の外交部長起用が最有力だったものの、「馬総
統への影響力が強い人物が賛成せず、職業外交官の中から選ぶことになった」と一斉に報
じた。結局は、アフリカや中米での駐在歴が長い林永楽氏が就任した。中国時報は「馮外
交部長」に横やりを入れた人物について、「金氏との見方がある」と指摘している。

 両者は10年に尖閣に関する政策を巡り対立を深めたという。駐米代表に就く金氏が、馮
外交部長では自らが対米外交を主導しにくいと判断し、馬総統に排除を働きかけたとの見
立てだ。側近どうしの争いの真偽は不明だが、馬政権は対米関係を重視するあまり、結果
的に最も微妙なかじ取りが必要な時期に知日派を欠いていた格好だ。

 今回の騒ぎは、正式な外交ルートがない日台関係が個人の人脈や力量に左右されがちな
ことを示したのではないか。もちろん、台湾の総統府や外交部にも日本専門家はいるが、
対日外交全般を取り仕切る実力者は見当たらない。植民地時代に日本語を身に付けた世代
が現役に残っていた十数年前までに比べ、日台の政治のパイプが脆弱になったのは否定で
きない。

 玄葉光一郎外相は5日、日台の実務外交の窓口機関である交流協会のホームページに09年
から中断し、台湾側の望んでいた日台漁業交渉の再開などを提案するメッセージを載せ
た。日本の外相が台湾に直接呼びかけるのは異例だ。尖閣を巡っては、中国が台湾側に重
ねて連携を働きかけている。日本が主権を損なわない範囲で台湾に善意を示し続けること
は、中国への対抗上も欠かせない。


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