*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。
◆明確なアイデンティティを示す蔡英文政権
6月18日震度6弱の地震が大阪を襲いました。死傷者が続々と出る中、蔡英文総統の反応は早かった。地震当日に、ツイッターで支援の意思を日本語で表明したのです。以下、報道を引用します。
<ツイートは午後1時半ごろ、安倍晋三首相の投稿を引用リツイートする形であった。
“日本の近畿地方で発生した地震で被害に遭われた日本国民の皆様に謹んでお見舞い申し上げます。また、被害に遭われた方々の速やかな回復と被災地の早期復旧を心からお祈り申し上げます。台湾は震災後の動向に注目していくとともに、日本に対して出来る限り必要な支援を行う用意をしています。“
蔡総統は、日本の被災者を気遣い、必要になれば国をあげて支援をする考えを表明。直後には、この日本語のツイートを英訳して、世界に向けてメッセージを発信した。>
東日本大震災以来、すでに日台間における支援の応酬は、互いに習慣化した感があり、今回も蔡英文総統の発信を受け、ネットでも台湾の人々からの応援メッセージは数多く寄せられました。
【編集部:註】
蔡英文総統からの日本語と英語によるお見舞いツイートに対し、安倍総理は昨日(6月20日)、日本語と繁体字による漢文で次のようにツイートしました。
<心温まるお見舞いの言葉、ありがとうございます。古くからの友人である台湾の皆さんから、本当にたくさんの応援メッセージをいただいていることにも、感謝したいと思います。「まさかの時の友は真の友」、これからも、困難な時に助け合える関係を続けていくことを希望します。>
<非常感謝温暖的慰問,也感謝台灣許多老朋友的聲援。「患難見真情」。 希望今後將繼續作為友人在面臨困難時互相幫助。>
そうした蜜月状態にある日台関係ですが、同時に台湾の外交部が日本のJALとANAに台湾の表記を「中国台湾」としたことに対して抗議をしました。
これは、中国側からの強要で、それに従わない場合は中国の法律違反として処分する構えを見せていました。
これを受けて、5月下旬までに、エア・カナダなど世界の航空各社18社がホームページを修正し、JALやANAも対応を検討した結果、両社の広報部は共に「中国側、台湾側、それぞれの利用者が閲覧する画面において、分かりやすく、受け入れやすい表示に切り替えた」と表明しました。これを受けて台湾の外交部は、日本の航空会社への抗議を表明する一方で、国際社会に対して、「中国の無理な要求を拒む道徳と勇気を発揮してほしい」と呼びかけたということです。
蔡英文政権の立場ははっきりとしていてブレていません。日台関係を重視する一方で、親交国であろうと抗議すべきは抗議する。台湾はどういう立場でありたいかをしっかりと国内外に示しています。そうした政府の態度は、台湾の人々に明確なアイデンティティを示し、安心感を与えるに違いありません。
◆中国への反感よりも好感のほうが上回った調査結果の理由
そのせいか、もうひとつ気になるニュースがありました。以下、報道を一部引用します。
<民間団体の台湾民意教育基金会が17日に公表した最新の世論調査の結果によると、台湾人からの好感度が最も高い国・地域はシンガポールだった。日本は2位に入り、3位以下にはカナダ、欧州連合(EU)、米国などが続いた。
調査は回答者に対し、台湾近隣諸国や地域、世界の主要国など10の国・地域について「良い印象を持っているかどうか」と質問する形式で実施。シンガポールに対して好感を持っていると答えた人は88.2%に上った。日本84.6%、カナダ82.3%、EU74.8%、米国70.6%だった。
一方、反感を覚えると答えた人が最も多かったのは、北朝鮮で70.9%。2位以下はフィリピン52.9%、中国大陸43.9%など。
中国大陸に対して好感を抱いている人の割合は48.8%に達し、反感を持っている人の割合を上回った。>
台湾人が好感を持つ国は、シンガポールが1位で日本が2位というのは、まあ妥当なところでしょう。シンガポールは華人も多く、中国語が通じる割合も高いため、台湾人にとっても安心して訪れることのできる地域のひとつなのでしょう。注目すべきは、中国に対する好感度です。反感よりも好感を持つ人のほうが多かったという結果が出たようです。これに対して、上記の記事では、以下のように報じています。
<同基金会の游盈隆董事長(会長)は、中国大陸による外交圧力や航空会社に対する台湾表記の変更要求などについて多くの台湾人は不当な行為だと考えていることに言及し、結果に対する驚きを示した。この調査結果には、中国大陸は対外宣伝でイメージアップを図っている一方で、台湾には経済的閉塞感が漂っていることなどが影響しているのかもしれないと指摘した 。>
しかし、私はこう考えます。蔡英文は総統になって以来ずっと、台湾の立場を明確に国内外に示し、台湾とはどうあるべきかを台湾の人々に明確に示してきました。これを受けて、台湾の人々も台湾人は中国人と違っていいし、中国と統一の道しかないわけではないことを知りました。そして、胸を張って自分たちは「台湾人」だと言っていいんだという帰属意識と安心感を持つことができた。
それによって、これまでは中国人とは違うと知っていながらも、近い将来中国人として生きなければならないだろうと思うと、その不条理と不快感が、嫌中意識となって現れていたのに対し、今では中国と少し距離をおいて余裕を持って接することができるようになった。その余裕が、反感よりも好感のほうが上回るという調査結果となって現れたのではないかと推測します。
中国の妨害によって親交国が減っても、台湾は中国の一部ではないとする毅然とした蔡英文政権の態度が、台湾人全体の意識をも変えたのではないでしょうか。リーダーのあり方が重要なのは、国家に限らず、企業でも教育の場でも、どこでも同じです。そういう意味では、台湾は素晴らしいリーダーを得ることができたと言えるでしょう。
東日本大震災以来、地震や洪水など、日台のみならず世界各国での自然災害が起こっています。そして、それら自然災害への支援に対して台湾は積極的です。特に仏教系諸団体はかなり行動的です。義援金を集めて世界各地の救済活動にあてるといった行動は、日本時代の第三代乃木希典台湾総督がじつに熱心に行っていたことでした。
それが今の台湾人に受け継がれているのかどうかはわかりませんが、少なくともこの点においては、中国人と大きく違うことは確かです。中国人の発想は「辛災楽禍」の中華思想であり、他人の不幸を喜ぶのが中国人です。台湾人とはもともとの「心性」が違うのです。
◆確実に変わったアメリカの対中政策
アメリカの大統領がトランプ氏になってから、アメリカの対中政策は確実に変わってきています。オバマ時代に成立した「国防権限法案」(法案には、米台間における軍高官などの交流推進を米国防総省に促す内容が含まれている)に続き、「台湾旅行法」が成立しました。
これは、閣僚級の安全保障関連の高官や将官、行政機関職員など全ての地位の米政府当局者が台湾に渡航し、台湾側の同等の役職の者と会談することや、台湾高官が米国に入国し、国防総省や国務省を含む当局者と会談することを認める法案で、成立後、米国務省のウォン次官補代理がさっそく台湾を訪問しました。
また、今年5月には、アメリカの対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)台北事務所が新しく建設され、落成式には蔡英文総統も出席しました。この新庁舎の土地の貸借期間は99年、つまり「半永久的なもの」と推察できます。トランプ政権は、台湾との距離を縮める一方で、中国とは関税問題などでせめぎ合いを繰り広げています。
トランプは北朝鮮とも会談を実現させました。日本は、この機会を利用して世界の難しい課題に目を向けるべきです。少なくとも近隣諸国の変化には目を向けるべきでしょう。
台湾は、中国がいくら台湾つぶしのために様々な面で妨害をしてきても、民族と国家の生き残りをかけて闘っています。台湾の約20%は中国人です。しかし、彼らは総体的には少数でも、彼らは70年以上も「華僑王国」を統治してきました。そのため、台湾人は、「華僑支配」については身にしみるほどよく知っています。そろそろ「華僑支配」から脱するときなのかもしれません。