台湾高雄の「戦争と平和記念公園」  上田 真弓(千葉県成田市)

【稲毛新聞(242号):2016年11月4日「読者論壇」】

 台湾の高雄の旗津半島に「戦争と平和記念公園」がある。2007年12月、私は知り合いの紹介で初
めてお会いした許昭栄さんに、ここを案内してもらった。

 許昭栄さんは昭和3年の生まれで、お父さんが「昭和の日本が栄えるように」と願って昭栄と名
付けた。許昭栄さんは戦争中に志願して日本海軍の兵士になった。

 日本が戦争に負けて台湾から引き揚げた後、大陸からやってきた国民党の中国人が台湾を支配し
たため、敵であった元日本兵の台湾人は国民党の兵士にされた。

 そして大陸での共産党との戦争に駆り出され、その多くが戦死した。国民党が共産党との戦争に
負けた後、国民党の中国人は台湾に逃げたが、生き残った台湾人の元日本兵はそのまま大陸に残さ
れ、共産党に捕まって共産党の兵士にされた。そしてその後の朝鮮戦争に送り出され、ほとんどが
戦死した。

 運よく台湾に帰ってくることができた許昭栄さんは、大陸で亡くなった元日本兵台湾人のため
に、私財をなげうってこの地に慰霊碑を建てた。

 理解を示さない市と何度も交渉して、やっと手に入れた海沿いのこの広い土地を「戦争と平和記
念公園」と名付け、私財を投じて慰霊のための公園を造営中だった。

 慰霊碑に案内してくれた許昭栄さんは「戦争で亡くなった兵士たちの慰霊は、本来は国がやるこ
とです。しかし日本の政府も台湾の政府も、台湾人の元日本兵に対して無関心で、何もしてくれま
せん」と言って嘆いていた。

 それから半年後の2008年5月20日、その許昭栄さんが自ら建てた慰霊碑の前でガソリンをかぶっ
て焼身自殺した。あまりにも衝撃的すぎて、私はなかなか信じることができなかった。許昭栄さん
の活動に批判的な国民党の議員などに、国民党の中国人兵士も慰霊しろと圧力をかけられたり、公
園の名前を変更しろと迫られたりして、許昭栄さんが造りたい公園の建設が困難になったことに抗
議する自決だった。許昭栄さんの焼身自殺を伝えた日本のマスコミは、ほとんどなかった。

 日本を愛する元日本兵の嘆きと叫びが日本に伝わってこない現実に、私は憤りと悔しさでやりき
れない気持ちになった。

 許昭栄さんの命を賭けた訴えが高雄の人々の胸を打ち、その後、高雄市によって工事が続けら
れ、許昭栄さんの思いがこもった公園が完成した。

 公園内には立派な資料館もできて、高雄市によって運営されている。私は3年前に再び訪れ、許
昭栄さんのご冥福をお祈りした。台湾の高雄に行く機会があれば、ぜひ旗津半島の「戦争と平和記
念公園」を訪れてください。 (つづく)

*編集部註:「戦争と平和記念公園」には大東亜戦争で戦歿された台湾出身戦歿者も祀られています。


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