台湾総統選 謝長廷候補に「逆転」の可能性

謝長廷陣営が本日100万人デモ

 台湾の総統選挙が終盤戦を迎え、中国国民党所属の立法委員の不適切な行動や中国政
府によるチベット人への武力弾圧などが起こり、支持率で中国国民党の馬英九候補に引
き離されていた民進党の謝長廷候補に「逆転勝利」の可能性が出てきた。

 本日午後3時14分には、謝長廷陣営は台湾全土で時計の反対回りで「逆転」を熱望す
る百万人デモを実施する。3時14分は、中国が3年前に、台湾独立の動きに対して非平和
的手段をも辞さないとする「反国家分裂法」を制定した3月14日にちなみ、この法に抗
議するためデモ行進を行う。

 この終盤になって謝長廷候補にとって有利な状況が次々と出てきている。一つは中国
国民党所属の立法委員による不適切な行動だ。

 3月12日、謝長廷の選挙事務所が不適切な便宜供与を受けているという告発を受け、
中国国民党の立法委員が4人、ビル管理最高責任者の財政部長(財務相に相当)を連れ、
捜査令状もなく乗り込む事件が発生した。結果、そのような便宜供与はなく、中国国民
党議員による完全な勇み足となった。

 これで呉伯雄主席が謝罪会見し、馬英九候補も謝罪するという事態になり、4人の立
法委員の党員権利を1年間停止する処分も発表することとなった。独裁イメージを払拭
しようと努めてきた中国国民党にとっては大きな痛手となった。

 さらに追い討ちをかけるように、中国政府がチベットのラサで起こった暴動を武力鎮
圧した。中国国営の新華社は「ダライラマ一派による分裂主義者の策動」であり、暴徒
が罪のない市民を殺害したとして死者10人と発表したが、ダライ・ラマ政府は30人、ラ
ジオ自由アジア報道では「80人以上の可能性がある」との住民証言を伝える事態になっ
ている。

 これは、2000年の総統選挙のとき、中国の朱鎔基首相が投票日の直前の全人代最終日、
「どんな形の台湾独立も許されない」と強調し「台湾同胞よ、警戒せよ」と鬼のような
形相で叫んだことを彷彿させる事件であり、案の定、台湾政府は「1989年の天安門事件
から、人権を弾圧する姿勢は全く変わっていない」と非難声明を発表している。

 謝長廷候補も馬英九候補もそれぞれ中国政府を非難しているが、台中宥和政策を掲げ
る馬英九候補にとって不利な状況となったのは言うまでもない。

 13日に中央選挙委員会が発表した有権者数は1732万5508人(帰国する海外有権者数に
より国民投票の有権者数は1731万7738人)。前回の投票率は80.28%、前々回は82.69%。
専門家の分析によれば、投票率が明暗を分けるとされている。投票率が83%を超えれば
謝長廷候補が当選するという予測も出ている。

 もし謝長廷候補が当選したとすれば、3・12家宅侵入事件と中国政府によるチベット弾
圧事件、そして本日の100万人デモがターニングポイントとなるだろう。

 日本の命運にも関わる台湾の総統選挙だ。日本李登輝友の会はこの20日から23日まで、
約50名が参加して「台湾総統選挙見学ツアー」を行う。
                                  (編集部)


台湾総統選 世論二分の終盤戦
【3月15日 産経新聞】

 22日投開票の台湾総統選まで1週間となり、与党・民主進歩党の追い上げが際立ち始
めた。14日は台湾独立阻止を狙った中国の反国家分裂法の採択からまる3年となり、こ
れに合わせて今週末、両陣営が全土で大規模集会の開催を計画している。「台湾人意識」
による結束か、対中融和による経済振興か──。台湾の将来を大きく左右する総統選は、
世論を二分したまま、最終局面に突入する。
                              (台北 長谷川周人)

▽猛追

 「やはり国民党に対する南部の不信感は根強い」。台湾南部の高雄市内にある最大野
党、中国国民党の馬英九候補の選対事務所。関係者はこう言って肩を落とした。国民党
独裁下で台湾住民が弾圧された「2・28事件」の61周年記念日以降、民進党が基盤を持つ
南部から、風向きが微妙に変わり始めたというのだ。

 世論調査の支持率で優位に立ってきた馬氏に対し、じりじりと追い上げる民進党の謝
長廷氏。同じ高雄にある謝氏の選対事務所では「国民党が、基盤を持つ北部を制するの
は必至。問題は南部票が北部票をどこまで補充できるかだ。最終的には10万〜20万票差
で逆転勝利したい」と楽観的な見方も出ている。

▽衝突

 このような状況の下、台北市内にある謝氏の選対事務所前で12日夕、衝突事件が発生
した。4人の国民党立法委員(議員)が同事務所の賃貸契約に不正があるとし、何志欽
財政部長(財政相)が同行して事務所に乗り込み、反発した民進党支持者と小競り合い
となった。

 現場の様子はテレビ各局が伝え、制止に入った警官隊に羽交い締めにされ、泣き叫ぶ
民進党支持の女性が大写しとなった。4人の立法委員は警察に保護されたが、浮かべた
薄笑いを外省系(中国大陸籍)の「傲慢(ごうまん)さ」と見る本省系(台湾出身者)
の人々。かつての国民党独裁体制に台湾人が抱く反感が一気に噴き出す可能性も指摘さ
れる。

 事態を重く受け止めた国民党は一夜明けた13日、呉伯雄党主席が立法委員4人をとも
なって緊急会見。馬氏自身も14日午前、謝罪会見を行ったが、党内外には「対応が遅す
ぎる」と選挙結果への波及を危惧(きぐ)する声もある。

▽100万人デモ

 馬氏が支持率で謝氏をリードするのは、「台湾再建」を求める民意をくみ取り、特に
経済分野で具体的な目標数値を掲げた選挙戦術が効果を上げているためだ。特に若者や
ビジネスマンなどで占める4割近い中間層は、陳水扁政権の「経済失政」に失望感を抱
いており、馬陣営はこれを巧みに利用して選挙戦を有利に戦ってきた。

 これに対し謝氏は、世論の7割が支持するといわれる「台湾人意識」を後ろ盾とし、
対中融和色を強める馬氏を批判。高雄市長時代の実績を掲げて南部から票の掘り起こし
を進め、世論調査で一時は30ポイント前後まで開いた支持率は、徐々に縮まりつつある。

 14日は反国家分裂法の採択からまる3年。謝陣営は16日に全土で100万人を集め、同
法に抗議するデモ行進を展開する。国民党もこれに対抗して馬氏が陳総統の出身地の南
部・台南で支持拡大を図るなど全土でデモ行進を繰り広げる計画で、選挙戦は今週末、
大きな山場を迎える。


民進党選挙本部への乱入『強権政治』との批判 国民党 火消し躍起 台湾総統選
【3月15日 東京新聞】

 台湾の総統選は二十二日の投開票まで一週間。八年ぶりの政権復帰を目指す国民党陣
営は、同党立法委員(国会議員に相当)が民進党の選挙本部に入り込んだ騒動による“
一党独裁”批判の沈静化に躍起となっている。     (台北 野崎雅敏)

 騒動は十二日起きた。民進党の選挙本部のあるビルは、政府も出資する銀行の持ち株
会社が所有する。このため国民党立法委員四人が同日夕、民進党陣営への不適切な便宜
供与がないかを調べるとして現場へ到着。民進党支持者は「家宅侵入事件だ」と猛反発、
警察も出動する事態になった。

 国民党は圧勝した一月の立法委員選以降、一党独裁時代の強権政治のイメージが復活
し、総統選に悪影響を与えるのを警戒。呉伯雄主席らが「少数意見を尊重する」と強調
してきた。それだけに、民進党側は早速「やはり一党独裁のおごり」と攻撃を開始。国
民党は翌十三日に呉主席が「適切でない時期に、適切でない所へ行き社会に不安を与え
た」と謝罪会見した。

 しかし、民進党が矛を収めるはずもなく、国民党は十四日、総統選候補の馬英九氏が
記者会見し頭を下げ、さらに四人の党員権利を一年間停止する処分を決めた。うち一人
は同党立法委員団書記長を辞職、離党した。


チベット暴動を「武力で鎮圧」、台湾が中国を非難
【3月16日 読売新聞】

 台湾の行政院(内閣)大陸委員会は15日、チベット暴動について、「中国当局が武力
で鎮圧した」と、中国を強く非難した。

 大陸委員会は、「中国は平和的なデモを行ったチベット人民に軍や警察力で対応し、
多くの死傷者を出した。1989年の天安門事件から、人権を弾圧する姿勢は全く変わって
いない」と指摘、中国を厳しく非難するように国際社会に求めた。

 さらに同委員会は、「中国は台湾に対して、武力などの強硬手段で対応する考えを放
棄することはない。国際社会は、中国が平和的な方法で両岸(中台)問題を処理するな
どという甘い期待を抱くべきではない」と訴えた。