◆台湾の新世代「天然独」を代表する林昶佐(フレディ・リム)
2016年の立法院選挙で初当選を果たした林昶佐(フレディ・リム)氏は、みなさんもご存じように、「ひまわり学生運動」を機に立ち上げられた新党「時代力量」から立法委員に立候補して、みごと当選を果たした人物です。2018年11月の選挙でも再選を果たしました。
彼は、台湾のヘビーメタルバンド「ソニック」のボーカルとしても知られ、その音楽性は高く評価され、2013年には台湾金音賞を受賞しています。日本はもちろん北米や欧州などでもライブを行う人気バンドです。ヘビーメタルというジャンルは、私は正直言ってよくわかりませんが、熱狂的なファンが世界各地にいることからも、その音楽性の高さは証明されています。林昶佐氏はボーカルと二胡を担当しており、二胡の演奏が入るのも、「ソニック」の大きな特徴の一つと言えます。
彼らの音楽を創作しているのは主にフレディ氏ですが、その音楽の中核にギラギラと表現されているのは揺るぎない彼の信念です。彼らのミュージックビデオを見ればよく分かりますが、独裁者に虐げられた人々や、人権を蹂躙された人々などがよく登場します。
フレディ氏は、モデルのような長身でスラリとした体格の好青年であり、その場にいるだけでロックスターのオーラを感じさせる魅力の持ち主です。その彼が政治の成果に進出したのは、数多くの報道を見る限り、台湾の主権を守りたいから、その一言に尽きるでしょう。
フレディ氏とは、アメリカ、台湾、日本などで数度お目にかかったことがあり、様々な意見交換をしてきました。彼は、音楽界から政界に進出するために哲学を学び、そこから台湾社会における様々な問題について考えをめぐらせてきたと言っていました。
また、彼はチベット関係の運動をするために、日本の有名な芸能人の巨大看板を作って台湾民衆にアピールしたいから、日本側と交渉をしてほしいと頼まれたこともありました。もちろん私は、人脈をたどってフレディ氏の依頼にこたえるべく動きましたが、日本の芸能人は「政治には介入したくない」という理由で誰も協力してくれませんでした。
一方で、台湾や香港には政府の悪を堂々と批判する芸能人は多くいます。日本が思考停止になっているのは政界だけでなく芸能界もだったということを、私はこのとき実感したものです。
林昶佐氏は、立法委員に当選して以来、政治家としても注目を浴びており、当選から間もない立法院での質疑では、台湾の国際的呼称である「中華台北」の正当性について立法院長に詰め寄るパフォーマンスも見せました。
林昶佐氏は李登輝学校の第一期生でもあり、アムネスティ・インタナショナル台湾支部の支部長を務めたこともあります。政治家として活躍するかなり前から、人権活動には熱心で、音楽を通してそのメッセージを世界に発信するだけでなく、自身が路上で直接的にチベットやウイグルの解放を訴えるといった活動もしてき人物です。
ダライラマには2度会いに行っているそうです。「台独」を自称する独立派でもあります。ただ、彼の主張や手法は、前回このメルマガでお伝えしたような、戦後の「日本語世代」とは違い、新世代の「天然独」のものです。と言っても彼はもう40代ですが、さらに若い人を政治の世界に参加させ、台湾政治を活性化させたいという情熱があり、「時代力量」という政党から若者をどんどん政治の世界に排出していきたいと語っています。
また、若者が政界に進出し活躍できるようなプラットフォームを作っていくのが自分の仕事だという自負があり、政治家としても精力的に活動しています。
◆ソニックが2月13日・東京、14日・大阪で公演
政治家になった後も、音楽活動を休止することなく、こちらも精力的に活動しています。2018年12月には、香港の歌手である何韻詩(デニス・ホー)が主催するコンサートに「ソニック」が参加しようとしたところ、香港への入境が許可されなかったという出来事もありました。今でも中国という国は、独立を声高に叫んでいるような人物はブラックリストなのです。かく言う私もブラックリストです。
「ソニック」は久しぶりに新譜を発表しました。その新譜発売を機に日本でもライブを予定しています。2月13日東京、14日大阪のスケジュールとなっています。ご興味のある方はぜひ足を運んでみてください。
実際、彼の言動は過激だとの批判も多くあります。また、すべての台湾人が彼を支持しているわけではありません。ただし、彼には理想と決断力と行動力があります。それは、誰にでもできることではないし、こういう人物がいることで周囲は変わっていきます。
◆フレディが描く台湾の未来像
彼が描く台湾の未来については、今春、日本で発売予定の林昶佐氏と津田大介氏の対談本に詳述されるようですが、彼の描く台湾の未来はじつに単純です。
中国との関わり方は重要ではなく、人権、尊厳、言論の自由、行動の自由など、民主主義社会の根幹をなすものを台湾が有することが最も重要だという主張です。
これらを自分たちの手にできる主権さえ確約できれば、台湾の未来は明るい。そのために、今、彼は政治家として、ミュージシャンとして若者との交流に情熱を注いでいるのではないでしょうか。
彼のような人物が台湾政界に変革をもたらし、それを機に「天然独」(生まれたときから独立派)といわれる台湾の若者が、台湾をもっと素晴らしい国にしていってほしいと願っていますし、応援しています。
◆これからの台湾を担う「天然独」ならではの感性とは?
2018年11月の「九合一地方選挙」で、民進党が大敗したことはこのメルマガでも詳しくご報告させて頂きました。一方で、新しい潮流もありました。それは、二大政党の戦い以外に次世代政党が議席数を伸ばして善戦したということです。当時の報道もそのことを次のように言っています。
<地方議会の総議席数を見ると、与党・民進党が70議席減らして238議席に。一方、野党・国民党は20議席増えて394議席となった。また、無所属は42議席増えて234議席となった。2015年に誕生した時代力量は、初めて迎えた地方選挙で16議席を獲得した。その他の政党の議席数は29議席から30議席に増えた。このことから、国民党と民進党の二大政党以外の勢力が台頭していることが分かる。>
この二大政党以外の勢力の中には、「時代力量」や「基進党」など、これから台湾を担っていく次世代の青年たちが大勢います。「基進党」はまだ立法院の議席を取っていませんが、天然独といわれる若者世代の集まりです。
時代力量や基進党といった「天然独」世代の考え方は、正直言って私の年代では理解しがたい部分もありますが、彼らはそういう年寄り世代を厭わず、むしろ尊重しています。国民党時代を経験してきた人々の苦しみや悲哀に理解を示し、年寄り世代の苦しみの上に今の台湾があることをわかっているのです。その点が「天然独」ならではの感性ではないかと私は思っています。
◆今後の台湾問題は中台関係から日米台中の関係へ
基進党も、今後台湾政界に進出して、どんどん台湾を変えていってほしいと期待しています。2018年11月の選挙で民進党が負けたことは、それほど大きなことではありません。負けたことに対して反省はすべきですが、負けたからといってすぐに台湾が中国に売られるわけではありません。
しかし、2020年の総統選挙は違います。総統選挙の結果が台湾の未来の選択を決めるので、勝たなければすべてを失うと私は思っています。だからこそ、多くの政党や政治家たちは今から2020年の選挙にどうすれば勝てるのかを考えています。台北では、すでに2020年の選挙に向けた宣伝の看板などが出ています。
台湾に対する中国の圧力が日に日に強化されるなか、これからの台湾は南シナ海をはじめとするシーレーン問題をめぐって日米関係が重要になります。今後の台湾問題は、中台関係だけでなく、日米台中問題となるのです。
さらに、インド、太平洋諸国とのつながりも重要になってきます。そうした時代の変化に機敏に対応できる若い世代が、これからの台湾の政界には必要なのです。そして台湾の若者たちは、その期待に応えようと必死に戦っています。この点は日本の若者にぜひ学んでほしいと思います。
日本の政界はいつまでも、絶滅生物のような老獪した議員たちが占領しています。日本の若者たちが、新しい風を日本の政界にもたらし、日本をアジアのリーダーたる毅然とした国に生まれかわらせる日が来ることを願っています。
もしも、政治の世界で自分の信念を実現したいけれどどうしたらいいのか分からないという志高い若者がいるならば、方法はいくらでもあります。まずは行動してください。行動して、自分の道を切り開き、明るい日本の未来を切り開いて下さい。