本日付の読売新聞が、台湾の与党である民進党が昨8日、「台湾人民抗日記念日」制定の
検討を始めたことを表明したことを伝えている。
なんとも得心しかねる面妖な発表だ。
活字版は下記に掲載した通りだが、昨夜、配信されたインターネット版ではさらに詳し
く掲載され、「記念日としての候補は、下関条約で台湾割譲が決まった翌年の1896年、台
湾各地で起きた対日ゲリラ戦のうち、中部彰化県で発生し犠牲者が最も多かったとされる8
月28日の八卦山戦役」が有力視されていることを伝え、また、抗日記念日制定の視点は
「(1937年の)盧溝橋事件を抗日出発点とする従来の外省人(中国出身者)の視点ではな
い」と語った楊長鎮・民進党族群事務部主任の発言も紹介している。
さらに、インターネット版記事の最後には「民進党は戦後60年の昨年、台湾人の視点か
ら歴史認識を整理した内部文書『対日関係論述』をまとめ、日本の台湾統治の功罪を併記
した。台湾では、中国の歴史認識と同じ親中派と、日本統治を美化する一部親日派の対立
があり、政権政党として、バランスを取る必要に迫られている」と結ばれ、発表の背景に
ついて石井支局長の視点が書かれていた。
台湾では、本年2月には台北県(国民党知事)による高砂義勇隊慰霊碑の撤去が行われ
、また、3月には国民党主席を兼任する馬英九が市長をつとめる台北市の文化局長が芝山
巌にある「学務官僚遭難之碑」(伊藤博文揮毫)撤去方針を打ち出している。
それに続く民進党の「台湾人民抗日記念日」制定の発表だ。
なぜ今さら台湾与党が「抗日記念日」を設けなければならないのか、真意はよく分から
ないものの、台湾をどこへ導くつもりなのか、明確な政策を取りえない陳水扁総統の求心
力が急速に落ち、それに伴い少数与党である民進党の求心力も落ちている現状に鑑み、国
民党を支持する台湾人支持の回復を狙った措置であり、民進党の生き残り策として反日を
掲げたのであろう。もちろん、年末の台北・高雄市長選、来年の立法委員選挙、そして20
08年の総統選挙を視野に入れた発表であろうから、民進党の反日色は今後ますます強まっ
ていくと見た方がよい。
確かに、民進党は世情言われているほどの親日政権ではないし、陳水扁総統自身にも親
日感情は希薄だと指摘されている。実際、歴史教科書問題などでの発言を見れば、李登輝
前総統との違いは明らかだ。それ故、いずれ陳水扁総統及び民進党がこのような反日政策
を出すことは予想されていた。
しかし、これは一種の賭けだ。日米同盟を結ぶアメリカが12月7日を「パールハーバー記
念日」としたのとは事情がまったく違う。これまで李登輝前総統を中心に進められてきた
台湾の台湾化(本土化)の方向性と今回の民進党の措置はまったく逆方向であり、異質と
言ってよい。
台湾の日本語世代からの反発はもちろんのこと、日本の台湾支持者から反発が起こるの
は必至だ。民進党が政党としての生き残り策として掲げた「抗日記念日」が吉と出るか凶
と出るか、その行く末を見守りたい。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原正敬)
台湾・民進党が「抗日記念日」検討−日本統治を見直し
【5月9日付 読売新聞 朝刊2面】
【台北=石井利尚】台湾の陳水扁総統の与党・民進党は8日、日本の植民統治時代に台
湾住民が日本軍と戦った歴史に光をあてるため、「台湾人民抗日記念日」制定の検討を始
めたことを表明した。
民進党は親日的な政党として知られ、反日色が残る野党・国民党と歴史認識が異なるが
、台湾本省人(戦前からの台湾住民)の視点から、日本統治を見直す動きとして注目され
る。
楊長鎮・民進党族群事務部主任は本紙に対し、「植民地時代の抗日運動は台湾人主体で
行われた事実を示すためだ」と述べ、反日が目的ではない点を強調した。