去る5月8日、民進党が8月28日を「台湾人民抗日記念日」として制定すべく検討を始めた
と表明した件で、本会の柚原正敬常務理事が機関誌『日台共栄』6月号の「巻頭言」におい
て、高砂義勇隊慰霊碑撤去問題、「学務官僚遭難之碑」移設問題とからめて論じている。
民進党の「抗日記念日」制定に関しては、すでに許世楷・駐日台湾大使が台湾最大手紙
「自由時報」のインタビューに「目下、台日関係は72年の断行以来、最良の状況にあり、
抗日記念日の制定には必要性はない」と語ったことを、メルマガ「台湾の声」が紹介して
いる。同感である。併せて紹介したい。
その後の「抗日記念日」制定に関する動きは不明であるが、李登輝前総統も陳水扁総統
も、現在の日台関係は断行後「最良の状態」にあるという認識に立っている。「もし台日
関係の記念日を制定するなら、抗日記念日ではなく、台日友好記念日でなければならない
はずだ」と述べる許世楷大使の言に賛意を評したい。 (編集部)
日本の無策が招いた台湾の反日化
本会常務理事・事務局長 柚原 正敬
今年に入り、「世界一の親日国」と言われる台湾の雲行きがおかしい。反日的様相が濃
くなってきている。
今年二月十八日、台北県政府は烏来の高砂義勇隊慰霊碑の撤去を一方的に命じ、二十四
日、周りの日本語記念碑を撤去した。慰霊碑はベニヤ板で蔽われ、李登輝前総統の揮毫に
なる「霊安故郷」の碑文は封印された。
また三月下旬には、国民党主席の馬英九氏が市長の台北市が、日本時代に「台湾教育の
聖地」と言われた芝山巌の「学務官僚遭難之碑」を移設する方針を固めたと報道された。
さらに、五月八日には陳水扁総統の与党・民進党が、日本の台湾割譲時に台湾住民が日
本軍と戦った歴史に光をあてるためだとして、八月二十八日を「台湾人民抗日記念日」と
して制定すべく検討を始めたと表明した。
尖閣諸島は中華民国の領土だと強調する馬英九氏率いる国民党は、抗日英雄を顕彰する
反日キャンペーンを展開している。国民党所属の台北県知事は馬主席の強い影響下にあり
、高砂義勇隊慰霊碑撤去は国民党の反日政策を反映した動きと理解できる。
台北市の学務官僚遭難之碑撤去方針も、その流れにある。だが、高砂義勇隊慰霊碑撤去
の強引な手法が住民の強い反発を買ったことが影響したのか、この移設方針は元々なかっ
たものとされた。そのまま残されるという。
腑に落ちないのは民進党の「抗日記念日」制定方針である。民進党は、盧溝橋事件勃発
の七月七日を抗日記念日としている国民党と趣旨は違うと抗弁するが、今、なぜ中国の日
台離間策にも乗ずるような方針を取ろうとしているのか。反日世代が多い党内事情もある
が、支持率が低迷する与党の人気取り政策であろう。
だが、総じて台湾の反日化は日本の対台湾政策の無策が招いたと言える。台湾は日本の
生命線であり、台湾の将来は台湾人が決めるべきを、日本は今こそ世界に向けて表明し、
明確な台湾政策を打ち出すべきである。
(機関誌『日台共栄』6月号「巻頭言」より)
【5月26日付「台湾の声」より転載】
許世楷駐日代表「台湾に抗日記念日は必要ない」
日本の官民は最近、台湾与党が「抗日記念日」制定の動きを見せているとの報道を受け
て憂慮を深めているが、台湾の許世楷駐日代表は23日、本紙記者とのインタビューで「記
念日とは何かしらの社会的背景があって制定されるもの。目下、台日関係は72年の断行以
来、最良の状況にあり、抗日記念日の制定には必要性はない」と語った。
許氏は「この問題は民進党が国定記念日を検討している中で、ある人が台湾の主体性に
基づく抗日記念日が必要かどうかと提議したことで発生した。これは一つの建議に過ぎず
、具体的な結論ではない」と説明した。
また「李登輝前総統も再三述べているように、目下の台日関係は72年の断交以来、最良
の状況にある。もし台日関係の記念日を制定するなら、抗日記念日ではなく、台日友好記
念日でなければならないはずだ」と述べた。
日本の多くの人が国民党の反日体質が台日関係を変質するのではないかと懸念している
ことについて許氏は「国民党にいわせれば、8年間の抗日戦争は一つの重要な歴史であり、
反日情緒は避けがたい。しかし過去の国府時代でも、積極的に日本と仲良くしていた。万
一将来国民党が政権をとったとしても、やはり日本との交流は必要で、台日関係を断ち切
ることなどできはしない」と述べた。
そして許氏は、「陳水扁総統も言ったことだが、台日間には国交はないが、どの側面か
ら見ても精神上の同盟関係にあることは否定できない。台日米が共同で中国の軍拡の脅威
に対抗することは、どのようなことよりも重要なのであり、これは民進党の基本政策でも
ある。台日間での国民の相互往来は昨年、230万人を突破した。日本側は台湾観光客へのノ
ービザを実施し、国際免許証も承認しようとしているなど、台日関係は明らかに進展し続
けている。そのため目下の対日政策では、いかなる失策も許されないのだ」と強調した。
(インタビュー・駐日特派員張茂森)
台湾紙「自由時報」(2006.5.25)より ※翻訳=台湾の声編集部