台湾はWHO専門家調査チームより1ヵ月以上も前に武漢を調査

 世界保険機関(WHO)から排除されている台湾が武漢肺炎の封じ込めに成功していることが世界から高く評価されている。その迅速かつ的確な対応ができた要因の一つに人材が挙げられる。陳時中・衛生福利部長をはじめ公衆衛生専門家の陳建仁・副総統や陳其邁・行政院副院長、マスク・アプリを開発したオードリー・タン(唐鳳)・デジタル担当政務委員(大臣)などの人材が注目されてきた。

 産経新聞の矢板明夫・台北支局長は、台湾の調査チームが武漢を訪れたのは総統選挙翌日の1月12日だったと伝え、調査チームの一員だった感染症専門家の荘銀清医師にインタビューしている。

 WHOは1月22日と23日に緊急委員会を開催したものの、緊急事態と判断するのは早すぎるとして宣言を見送り、テドロス事務局長が北京を訪問し習近平・国家主席と会談して中国の防疫態勢を称賛したのは1月28日のことだ。それから2日後、ようやく緊急事態宣言を出している。

 また、WHOが中国に多国籍の専門家調査チームを派遣すると発表したのは緊急事態宣言後の2月3日のことで、先遣隊が中国に入ったのは2月10日、専門家調査チームが武漢に入ったのは2月22日だったから、なんと台湾は1ヵ月以上も早く武漢の状況を調査していたことになる。

 中国も1月2日、8日、18日の3回、政府派遣の専門家チームが武漢に入っていて、18日の調査で地元政府が感染封じ込めに手を焼いていることを隠蔽しようとしていることを確認したという。この調査から約1週間後の1月23日午前2時、武漢の都市封鎖(ロックダウン)を発令し、午前10時に実施している。

 しかし、産経新聞は、台湾の調査チームは1月12日の調査で「中国側の責任者らしき人の口から『人・人感染の可能性は否定できない』との言質を引き出した。中国が公式に『人・人感染』を発表するより一週間以上も前のことだった」と伝えている。

 そこで、中央感染症指揮センターを設置したのは早くも1月20日のことだった。翌21日に台湾で初の感染者を確認(武漢からの輸入症例)し、武漢が都市封鎖された23日には陳時中・衛生福利部長を指揮官に任命するとともに、武漢からの旅行者の入境を禁止し、併せて武漢との直行便の運航を停止した。

 その後、医療用マスクの輸出禁止(1月24日)、台湾内で生産された全ての医療用マスクの買い上げ開始(1月31日)など矢継ぎ早に感染防疫態勢をつくり上げていった。

 産経新聞の記事は、台湾の迅速かつ的確な防疫態勢がどのように始められたのかを伝えている。下記に「コロナ 台湾に学ぶ」第1回の全文を紹介したい。

—————————————————————————————–中国側の不自然な説明に疑念 「人・人感染」引き出す【産経新聞「コロナ 台湾に学ぶ」:2020年5月31日】https://www.sankei.com/article/20200531-HKYD64TZNBLITDOVRTHVRRYBRY/

 世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの危険性をいち早く察知し、台湾の「先手防疫」に大きく貢献した台湾の感染症専門家、荘銀清医師が、31日までに台湾・台南市内で産経新聞のインタビューに応じ、1月中旬に中国・武漢市を現地調査した際に察知したさまざまな疑問点や、重要な情報を隠そうとした中国当局に迫った当時の様子などを詳しく語った。(台南 矢板明夫)

 荘氏が現地調査のため武漢を訪れたのは1月12日。国際社会がまだ新型コロナにほとんど関心を持っていなかった時期だった。その理由について、荘氏は「世界保健機関(WHO)から排除されている台湾は、情報不足のため世界各地の感染症に非常に敏感になっている。どこかで広がっているという噂があれば、すぐに臨戦態勢をとる習慣ができていた」と説明し、早期の武漢入りは「偶然ではなかった」と強調した。

 荘氏は昨年12月から武漢在住の台湾人とともに中国国内のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を精査して情報を収集。今回の感染症には深刻な側面があるのではないかと気づき、12月末から1月初旬にかけて関係者と何度も対策会議を重ねた。

 早めに人を派遣した方がよいという結論になり、1月6日に中国側に現地調査の要望を伝えると5日後に承諾の返事があった。

 台湾の別の感染症の専門家らと臨んだ中国側との専門家会合では、「人・人感染はない」と強調されたが、専門家なら当然示す感染者数の推移グラフをみせようとしないことなどから、「何かを隠していることに気付いた」という。

 荘氏は「感染者の具体的なケースをひとつずつしつこく聞き続けた」結果、ようやく中国側の責任者らしき人の口から「人・人感染の可能性は否定できない」との言質を引き出した。中国が公式に「人・人感染」を発表するより一週間以上も前のことだった。

 荘氏はその後、武漢市内の病院を視察し感染病棟が担当の医療スタッフ以外は完全立ち入り禁止となっている状況を見て、「病院側もウイルスの危険性を認知している」と判断、「『人・人感染』を確信した」という。

 荘氏は、「当時の武漢はかなり危険な町だと感じたが、現地の一般スタッフは何も知らされていないので、マスクもせず緊張感はなかった」と振り返った。荘氏自身は「宴会ではできるだけ人と距離をとり、会話を少なめにし、市内観光を断るなど、感染しないように気を付けた」という。台湾に戻ったあと、荘氏が提出した報告書が重要視され、台湾当局はすぐに対策本部を立ち上げる準備を始めたという。

 米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、31日現在、台湾の新型コロナの感染者は442人、死者は7人と周辺の国や地域と比べて少ない。域内での新規感染者は40日以上も確認されていないため、市民は普段と変わらない生活を送れるようになった。コロナ対策に成功した「台湾の経験」を紹介する。

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