省庁横断の調整役を担う公衆衛生専門家の陳其邁・行政院副院長

 今回の武漢肺炎(COVID-19)問題で、台湾には人物がそろっていると指摘したのは、王明理・台湾独立建国聯盟日本本部委員長だった。

 2月18日発行の「台湾の声」で、優れた手腕を発揮している台湾政府の取り組みについて紹介したいとして「防疫対策の初動の早さ」の次に「対策本部にはSARS対策に尽力した経験ある閣僚が多い」として、蔡英文総統など4人を挙げていた。

・蔡英文(総統):SARS当時、大陸委員会主任委員として中国対策担当。・陳建仁(副総統):もともと医師であり、SARS当時、衛生福利部部長(日本の厚労省大臣)として、 対策全般を担当し、WHOからの情報を得られないにも関わらず、対策を考案し、封じ込めに成功し た当時の立役者。・蘇貞昌(行政院長):SARS当時、台北県長として、普通の病院をわずか10日で感染症対策病院に作り 替えて機能させたことでWHOを驚かせた。・陳其邁(行政院副院長):SARS当時、立法委員かつ公衆衛生の専門家として活躍。

 産経新聞は2月27日付でキーマンの一人である陳建仁・副総統への単独インタビューを掲載し「武漢市での感染が『噂』程度だった同(1月)2日、台湾の衛生福利部(厚生労働省に相当)が専門家会合を開き検疫や医療機関からの通報を強化した」という発言を紹介、台湾がいかに早く武漢肺炎(COVID-19)に対処していたかをうかがい知ることができる。

 台湾の中央通信社は、台湾大医学部で公衆衛生の修士号を取得し医師として働いた経験もある陳其邁・行政院副院長をキーマンとして取り上げ、「陳氏が新型コロナウイルスによる肺炎について蘇貞昌行政院長(首相)に報告したのは昨年12月31日だった」ことや、迅速な対応のための省庁横断システムの構築については、陳氏自ら「機関に連絡し調整。24時間以内で稼働を実現させた」ことなどを伝えている。

 蔡英文政権の武漢肺炎(COVID-19)への対応が台湾の人々に支持されているからこその記事だ。行政の表と裏がかみあっていることの証左でもあろう。

—————————————————————————————–台湾、省庁横断でコロナ対策 行政院副院長が橋渡し役に【中央通信社:2020年3月10日】https://japan.cna.com.tw/news/apol/202003100007.aspx

 (台北中央社)新型コロナウイルス感染症で省庁横断的な対策が行われている台湾。第一線でかじを取るのは中央感染症指揮センターだが、その裏で医師出身の陳其邁行政院副院長(副首相)が省庁間の連絡に奔走し、調整役として大事な役割を担っている。「何かあれば責任を取る」──この一言で迅速な対応を実現させたこともある。

 陳氏は中央社のインタビューにこのほど応じた。台湾大医学部で公衆衛生の修士号を取得しており、医師として働いた経験も持つ陳氏は、今回の感染対策で高官や専門家を集めた会議を数多く招集してきた。同センターの指揮官、陳時中衛生福利部長(保健相)やデジタル政策を担当する唐鳳行政院政務委員(無任所大臣に相当)らとの話し合いが深夜まで続くのも日常茶飯事だという。

 陳氏が新型コロナウイルスによる肺炎について蘇貞昌行政院長(首相)に報告したのは昨年12月31日だった。翌月11日には総統・立法委員(国会議員)選が迫っていたが、蘇氏の指示で省庁横断の会議を開き、水際対策の強化を決めた。選挙後には中国に学者を派遣したものの具体的な発見はなく、不安は一層深まった。

 1月下旬、健康保険証で中国への渡航歴の有無が分かるようにした。衛生福利部(保健省)中央健康保険署や内政部(内務省)移民署などをまたいだシステムの構築が必要だったが、これらの機関に連絡し調整。24時間以内で稼働を実現させた。「何かあれば、私が責任を取る」。会議を終えた後、まるで脅迫だなと自嘲気味に笑った。

 感染者の接触者の追跡にはビックデータが活用された。内政部警政署や通信会社などに協力を仰ぎ、監視カメラの映像や通信記録で感染者の足取りを調べた。死亡した白タク運転手は当初、感染源が不明とされていたが、この方法で接触者が絞り込まれ、さらに保険署のシステムを活用することで運転手が感染したと思われる時期に呼吸器症状で病院を受診していた接触者を特定できた。運転手が空港で乗せた中国からの帰国者だった。

 陳氏のフェイスブックには、感染対策に当たる日々の様子が細かくつづられており、各機関の首長や専門家と真剣な表情で議論を交わす写真も添えられている。総統や行政院、疾病管制署など、それぞれの役割分担が明確で、迅速に決定が下されているのだと陳氏は語った。

(王承中、温貴香、顧セン/編集:楊千慧)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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