台湾の潜水艦自主建造とトランプ政権下における台湾への武器供与

 現在、台湾の海軍は潜水艦4隻を保有している。しかし、米国製の2隻は1940年代に建造されたもので、2隻はオランダ製。いずれも老朽化している。そこで、4年ほど前から国産潜水艦の建造に取り組みはじめ、昨年11月24日、蔡英文総統も出席して高雄市にある台湾国際造船において8隻の建造に向けた起工式を行い正式に始動した。

 潜水艦はディーゼルエンジンを使った通常動力型の潜水艦で、「設計・デザインは、日本の海上自衛隊の主力潜水艦で、世界有数の高性能ディーゼル潜水艦『そうりゅう型』などを参考にしているともされる」(日本経済新聞)と伝えられ、1隻目は2024年の完成、25年の就役を目指しているという。

 インド太平洋の平和と安定のためには米国や日本にとってもその完成が待たれるところで、米国はすでに2017年6月29日、トランプ政権発足後、初めて台湾に対し対水上艦艇・対潜水艦攻撃用の大型で長射程の魚雷「Mk-48Mod6型高性能重魚雷」46発の供与を決め、昨年5月20日、蔡英文氏の総統就任式の当日にはやはり「Mk-48Mod6型高性能重魚雷」18発とその関連部品などの供与を決めている。

 この高性能大型魚雷は1個大隊を乗せる大型の兵員輸送艦を沈めるほどの破壊力があるそうで、新しい潜水艦が就役すればその可能性はよりいっそう高まり、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性が出てくるとCNNニュースが伝えている。

 制空権を中国に握られている台湾にとって、潜水艦は中国に対する抑止力を高めるための枢要な武器であり、老朽化している潜水艦とは言え高性能大型魚雷の搭載は抑止力となる。

 CNNニュースは、対艦巡航ミサイル「ハープーン」を含む各種の対艦ミサイルや機雷、特殊潜航艇なども中国の軍事行動に対抗する重要な防衛手段だと指摘している。米国はこの対艦巡航ミサイル「ハープーン」もまた台湾に供与している。

 周知のように、トランプ政権は11回にわたって台湾への武器供与を決定してきた。ご参考までに11回の発表年月日と供与武器の主な内容を下記に紹介したい。

◆トランプ政権の台湾への武器供与

・2017年6月29日(1回目) 国務省の承認を経て国防総省は、トランプ政権発足後初めて台湾に対し対水上艦艇・対潜水艦攻撃用の大型で 長射程の魚雷「Mk-48Mod6型高性能重魚雷」46発やSM2艦対空ミサイル部品、早期警戒用レーダーの技術支 援など7項目にわたる総額約14億ドル(約1600億円)の武器売却を議会に通知と発表。

・2018年9月24日(2回目) 台湾へF16戦闘機やC130輸送機などの交換部品など総額3億3000万ドル(約373億円)を売却。

・2019年4月15日(3回目) 台湾からの要請に応じ、F16戦闘機のパイロットの訓練プログラムや機材支援を約5億ドル(約560億円)をか けて実施する方針を承認して議会に通知。訓練は同戦闘機が配備されている米アリゾナ州のルーク空軍基地で 実施。

・2019年7月8日(4回目) 台湾へ携帯型地対空ミサイル「スティンガー」250発とM1A2エイブラムス戦車(米国が開発した世界最高 水準の戦車)108輛など計約22億ドル(約2400億円)相当の武器売却を承認して米議会に通知。国防安全保障 協力局は「台湾の安全向上に役立つ上、地域の政治的な安定や軍事的な均衡、経済発展に寄与する」と声明。

・2019年8月20日(5回目) 台湾政府からの要請に基づき、国務省はF16V戦闘機66機の売却を議会に正式通知。関連装備や部品を含めた 売却総額は80億ドル(約8500億円)。米台間の武器売買としては最大規模で、台湾に戦闘機を売るのは1992年 にブッシュ(父)政権がF16を150機売却して以来27年ぶり。

・2020年5月20日(6回目) 台湾へ米海軍が開発した対水上艦艇・対潜水艦攻撃用の大型で長射程の魚雷「Mk-48Mod6型高性能重魚雷」18 発とその関連部品など総額1億8000万ドル(約190億円)にのぼる武器売却を決め、米議会に通知。

・2020年7月9日(7回目) 台湾へ地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を更新するための関連装備を売却することを承認して議会に通 知。総額は6億2000万米ドル(約663億円)に上る見通し。台湾のPAC3配備は、ブッシュ政権下の2008年に 台湾へ初めての売却を議会に通知し、オバマ政権下の10年に輸出を正式決定している。

・2020年10月21日(8回目) 台湾へロッキード・マーティン製のトラック型高機動ロケットランチャー(HIMARS)11基、ボーイング製の空 対地ミサイル(SLAM─ER)135発と関連機器、コリ ンズ・エアロスペース製のF16戦闘機用の機外携行型セン サーポッド(MS110)6台、総額約18億ドル(約1880億円)の武器売却計画を承認して議会へ通知。

・2020年10月26日(9回目) 台湾へ対艦巡航ミサイル「ハープーン」(Harpoon)400発とハープーンを搭載する「沿岸防衛システム」(HCDS) 100基、総額23億7,000万ドル(約2500億円)の大型売却を連邦議会に通知。

・2020年11月3日(10回目) 台湾にゼネラル・アトミックス製のドローン「MQ-9」、約6億ドル(約627億円)の売却を承認して議会に通知。

・2020年12月8日(11回目) 台湾へ軍事用の野外通信システムや関連装備(ノード154個、通信用リレー24個、ネットワーク管理システム8つ、 プログラム管理支援、人材育成など)で総額2億8000万ドル(約290億円)武器売却を承認して議会に通知。

—————————————————————————————–台湾が建造開始の潜水艦隊、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性【CNNニュース:2021年1月16日】https://www.cnn.co.jp/world/35165133.html

 香港(CNN)  台湾が防衛力の強化を目指し、最新鋭の潜水艦隊の建造に着手した。この動きについて専門家は、中国軍による台湾侵攻や海上封鎖の計画を複雑化させる可能性があると指摘している。

 新造艦8隻のうち最初の艦の建造は昨年11月、南部の港湾都市・高雄の施設で開始された。同艦の試験航行は2025年に始まるとみられている。台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は着工式で、建造計画を「台湾の強い意思を世界に示す歴史的な節目」と呼んだ。

 台湾と中国は過去70年以上にわたり別々の政府によって統治されてきたが、中国政府は台湾に対する完全な主権を主張している。

 中国の習近平(シーチンピン)国家主席は台湾独立を決して容認しないと言明し、必要なら武力行使も排除しないと主張。一方の蔡氏も屈しない姿勢を示し、台湾はアジアで「権威主義体制による侵略から民主主義を守る」取り組みの先頭にいると述べた。

 中国の人民解放軍(PLA)はここ数カ月、台湾に対する軍事的圧力を強めており、台湾の防空識別圏に軍用機を派遣したり、付近の島で軍事演習を強化したりしている。台湾政府に対する威嚇との見方が多い。

 ただ、侵攻を試みるPLAの艦隊はいずれも、台湾と中国本土を隔てる狭い台湾海峡を通過する必要がある。

 専門家によれば、まさにこの場所において、台湾が建造を計画する潜水艦は大きな違いを生む可能性がある。新造艦は第2次世界大戦にさかのぼる現有4艦の後継となる。

◆隠密性の高い兵器プラットフォーム

 潜水艦は今なお世界屈指の隠密性を誇る兵器プラットフォームで、相手がどのような艦隊であっても大打撃を与えることができる。

 台湾の潜水艦にはディーゼル・エレクトリック方式が採用される見通し。水上ではディーゼルエンジンを動力源とする一方、潜航中は寿命の長いリチウムイオン電池で駆動する超静粛な電気モーターを使用するという。

 米海軍や中国が配備を進める原子力潜水艦ではなく、ディーゼル・エレクトリック艦を選んだのは、台湾政府にとって簡単な選択だった。ディーゼル・エレクトリック艦は建造がより容易で、コストも低い。潜航時の騒音も電気モーターのほうが原子炉より少ない。

 専門家は、こうした静かな潜水艦なら中国軍の対潜戦(ASW)部隊による探知が難しいとの見方を示す。台湾海峡の海底付近にひそみ、そこから浮上して台湾に向かう中国の兵員輸送艦を狙い撃ちにできる可能性もある。

 新造艦にどんな技術が搭載されるのか正確なところはまだ不明だが、米政府は昨年、台湾にMk48魚雷の取得を許可した。

「大型の兵員輸送艦に魚雷が命中した場合、特にそれが米国のMk48のような現代型の魚雷であれば、侵攻する軍は1個大隊を失うことになる。従って、潜水艦がいないことを確信できるまでは、いかなる国も台湾海峡に強襲揚陸艦を派遣しないだろう」。

 元米海軍大佐で、現在はハワイ太平洋大学のアナリストを務めるカール・シュスター氏はそう指摘する。

◆未知の領域

 台湾が大型潜水艦(排水量は2500〜3000トンとなる見通し)の建造に乗り出すのは初めて。専門家の間では、台湾の造船産業にその能力があるか現時点では未知数との見方もある。

 台湾は海外の供給業者を確保しようとしたものの奏功せず、台湾の造船企業「台湾国際造船(CSBC)」と自前潜水艦の開発契約を結ぶことになった。

「もし台湾がこうした潜水艦の建造に成功すれば、非常に先進的で有効な艦隊になる可能性がある。ただ、台湾に先進的な潜水艦の製造経験が全くないことを踏まえると、これが大きな『もし』であることは確かだ」(米シンクタンク「ランド研究所」の上級国際防衛研究員を務めるティモシー・ヒース氏)

 シュスター氏は、台湾はまだ潜水艦建造技術を学習途上だと説明。8隻全てを実戦投入できるのは2030年以降になる可能性もある。

 ただ、潜水艦の開発に失敗したり遅れが出たりしても、台湾には中国の軍事行動に対抗する重要な防衛手段が他にもあると専門家は指摘する。

 英ロンドンの王立防衛安全保障研究所で海軍力を研究するシドハース・カウシャル氏によれば、台湾は米国製の「ハープーン」を含む各種の対艦ミサイルや機雷、特殊潜航艇を保有しているという。

◆パワーバランスでは中国が依然有利

 専門家によると、長期的に見れば中国はまだ軍事面で優位を保っている。紛争になった場合、中国は潜水艦や水上艦、地上発射ミサイル、空軍の爆撃機および攻撃機を大量投入できる。

 たとえば米国防省は中国の潜水艦隊について、近い将来に65〜70隻規模になるとの見通しを示す。

 その上、中国は猛烈なペースで軍備増強を進めており、すでに世界最大の規模を誇る艦隊に絶えず戦力を追加している。

 この点を強調するように、台湾の潜水艦計画が高雄で始動したわずか1週間後、中国は潜水艦への対抗手段を見せつけた。

 中国の環球時報は「PLAの対潜戦用航空機が爆雷攻撃演習を実施、台湾分離主義者への抑止力になるとの見方」という見出しで報道。記事の上にはY8対潜哨戒機が演習中に爆雷を投下する写真も掲載した。中国の対潜戦能力について報道が出るのは「異例」という。

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