を発信し続けている。ガイドブックの執筆や日本統治時代の遺構調査、老人たちへの聞き
取り、そして講演活動など、幅広い取材活動を展開し「台湾の達人」とも称される。
本会関係では、今年5月に「台湾の達人・片倉佳史さんと行く台湾200%満喫の旅」を行
い大好評だった。
その片倉氏が、急増する中国人観光客が台湾にもたらす“光と影”について書かれてい
る。経済効果は欲しいものの、デメリットもあり、確かに悩ましい。
ただ、中国人観光客は台湾に来ると必ずテレビを見るという。政府批判も堂々とできる
その自由な言論の様子を確かめるためだという。観光そっちのけでテレビにかじりついて
いる中国人もいるという。
悩ましい中国人観光客より、日本人観光客をもっと歓迎したいというのが台湾の“本
音”だという声も漏れ聞く。
台湾の悩ましい“中国人特需”─旺盛な購買力と際立つ傍若無人ぶり 片倉 佳史
【SANKEI Biz:2012年10月16日】
日本と台湾の結びつきは年々強まっており、日本から台湾への訪問者は昨年、約129万人
を記録した。毎月10万人程度が訪台している計算となり、日本の地方都市から台湾に乗り
入れる定期便就航や増便も、相次いで決まっている。
台湾から日本を訪れる旅客にも注目したい。日本への台湾人渡航者は2004年に100万人を
突破し、10年は138万人となった。昨年は東日本大震災の影響で114万人にとどまったが、
今年は9月時点で前年レベルにほぼ達しており、通年では130万人突破は必至とみられている。
台湾の総人口は約2300万人だが、海外渡航者総数は延べ958万人に達している。つまり、
半数近くが海外に渡っていることになり、そのうち8人に1人が日本を訪れている。この数
字だけからも、台湾には親日家が多く、頻繁に日本を訪れ、理解を深めている姿が見えて
くる。
◆消費5000億円を突破
台湾で今、最も注目されているのは中国から訪れる旅行者である。中国人旅行客の解禁
は08年7月18日からとその歴史は浅い。しかし、昨年上期までの台湾訪問者は延べ350万人
に達している。
観光客は当初、1日当たり300人程度だったが、10年には約10倍の3199人に拡大。昨年か
ら受け入れ上限は1日当たり4000人にまで引き上げられた。
消費動向も気になるところだが、解禁以降、昨年上期までに中国人訪問客の総消費額は
約2033億台湾元(約5450億円)に達している。旅行客に限ってみても約1197億台湾元の外
貨収入を台湾に与えており、移動や滞在に伴う周辺利益や観光産業以外の波及効果も含め
ると、やはり経済効果は大きい。
中国人の旺盛な購買欲は日本でも注目されるが、台湾でも土産物のパイナップルケーキ
を一度に20箱以上も買い込む人も珍しくない。こうした中国人の消費力に押され、台湾に
おけるパイナップルケーキの製造高は、解禁の前後を比べると10倍以上に成長したとも言
われ、その“特需”ぶりが理解できる。
◆政治的利用への不安
中国からの旅行者を積極的に受け入れ、経済の活性化を図るというプランは、台湾の馬
英九政権が発足した当時から打ち出されていた。昨年は約178万人もの中国人が台湾を訪れ
ている。このうち観光目的の来訪者は129万人で、すでに日本からの渡航者数を超えている。
もちろん、弊害と言えるものも少なくはないようだ。「粗暴な振る舞い、大声で話す、
試食品や試供品を大量に持ち去る」と、急増する中国人観光客に批判的な世論があるのも
事実だ。
また、渡航解禁によって利益を得られるのは観光業者などの特定業界に限られており、
社会的全体が受けるメリットは大きくないという声や、景観の破壊や社会不安の増長とい
った否定的な側面も指摘されている。
激増する中国人訪問客によって、台湾の市場そのものが変容を強いられる危惧もある
が、中国が台湾への渡航者数を意図的に制御して、これを政治的な武器として利用される
ことへの不安もある。
例えば、09年に台湾南部の高雄市がチベット仏教の最高指導者、ダライラマ14世を招い
た際、中国からの団体旅行者のキャンセルが相次ぎ、その直後にホテルで3000室もの空室
が出るというケースがあった。
日本と台湾、そして中国の動きは、旅行業界ひとつ取り上げても、東アジアの情勢を見
ていく上で実に興味深いものがある。今後、台湾の地で繰り広げられる旅行者の動きから
は目が離せそうにない。
(台湾在住作家 片倉佳史)