台湾の「駐グアム台北経済文化弁事処」再開設と米国の戦略

 台湾は蔡英文政権発足時の2016年5月には、ソロモン諸島、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの6つの太平洋島嶼国家と国交を保っていた。ところが、2019年9月、ソロモン諸島とキリバス共和国が立て続けに台湾との国交を断絶した。中国が自国の勢力圏に取り込もうとして両国に働きかけた結果だった。残るはマーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの4カ国となっている。

 ところが、蔡英文政権は今年6月初旬、断交したソロモン諸島のマライタ州にサージカルマスクや石鹸、検温設備、白米等の医療・民生物資を無償提供した。国交を断った国に無償で支援物資を提供するなどありえない話ではないかと首をかしげながらも、これはなにかあるぞと思いながら「Taiwan Today」誌の記事を読んだ。

 次に出てきたのは、台湾は7月3日、「2017年に閉鎖した事実上の在米領グアム領事館『駐グアム台北経済文化弁事処』を再び開設する」(ロイター通信)と発表した。なるほど、と合点がいった。

 なぜ台湾が駐グアム台北経済文化弁事処を再開設するようになったのか。ロイター通信が伝えるように「台湾外交部は米台関係の緊密化や太平洋地域の戦略的重要性に対応したもの」だ。

 つまり、米国が展開している「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとって、太平洋島嶼国は戦略的にとても重要であることから、駐グアム台北経済文化弁事処の再開設に踏み切ったということのようだ。ソロモン諸島への医療・民生物資の無償提供も、この戦略上にあるとみれば納得がゆく。

 実は、米国国務省は去る6月3日、疾病対策センター(CDC)とともに、台湾の外交部などとテレビ会議を開き、太平洋島嶼国への支援強化に向けて意見交換している。テーマは太平洋島嶼国への武漢肺炎対応をめぐってだったが、駐グアム台北経済文化弁事処の再開設の決定は、安全保障を中軸とする米国の「自由で開かれたインド太平洋戦略」が背景にあるようだ。

 今後、台湾はマーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの4カ国への支援態勢を強化するとともに、他の太平洋島嶼国への医療支援も行ってゆくものと思われる。

 日本も米国とともに「自由で開かれたインド太平洋戦略」を取り、インドとオーストラリアとこの戦略を共有している。日本やインド、オーストラリアの動きも注視していきたい。

—————————————————————————————–台湾、事実上の在グアム領事館を再び開設へ【Newsweak日本版:2020年7月3日】*ロイター通信の記事転載https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-93860.php

 台湾当局は3日、予算面の理由で2017年に閉鎖した事実上の在米領グアム領事館「駐グアム台北経済文化弁事処」を再び開設すると発表した。

 台湾外交部(外務省)は米台関係の緊密化や太平洋地域の戦略的重要性に対応したものだと説明。「駐グアム台北経済文化弁事処の再開設により、台湾と西太平洋広域圏の間の経済および通商の協力・交流が促進されるほか、台湾と太平洋の同盟相手との関係が深まり、多角的な交流が増すだろう」とした。

 台湾が外交関係を維持している15カ国のうち、4カ国(パラオ、ナウル、ツバル、マーシャル諸島)が太平洋にある。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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