本会が「2020政策提言」を公表

 日本李登輝友の会では平成24年(2012年)からほぼ毎年、「政策提言」を発表してきており、今年もこの3月に今年度の政策提言として「自由で開かれたインド太平洋を守るため日本は米豪と共に台湾の国交国を支援せよ」を作成し、理事会と総会の承認を得、会長の渡辺利夫、副会長の加瀬英明、川村純彦、黄文雄、田久保忠衛、辻井正房によって発表いたしました。

 その趣旨は、昨年9月、台湾の中華民国と国交を結んでいた太平洋島嶼国家のソロモン諸島とキリバス共和国が相次いで国交を断絶し、中国と国交を樹立したことから、これは安倍首相が提言し、米国のトランプ大統領が国際戦略とし、インド、オーストラリアと共有する「自由で開かれたインド太平洋構想(戦略)」に対する中国による露骨な挑戦であり、日本と米国、そしてオーストラリアの分断を謀ろうとしていると考えられることから、太平洋島嶼国へのこれ以上の中国の浸透や勢力拡張を押しとどめ、日本は米国やオーストラリアなどとともに、台湾の国交国の維持に全力を傾注すべきとする提言です。

 河野太郎・防衛大臣は4月上旬、習近平・中国国家主席の来日直前に日本初となる「日・太平洋島嶼国国防大臣会合」の開催を進めておりました。これは、私どもの提言内容とマッチする画期的な企画と注目しておりましたが、折からの新型コロナウイルスの影響で延期となったことは誠に残念です。早々の再開を心待ちにしております。

 すでに安倍晋三・内閣総理大臣や菅義偉・内閣官房長官はじめ茂木敏充・外務大臣や河野太郎・防衛大臣などの政府要人や国会議員、また李登輝元総統や蔡英文・総統、呉[金リ]燮・外交部長などの台湾要人、日本や海外の有識者にお送りしています。

 つきましては、ここに「2020政策提言」を公表いたします。お目通しの上、実現にお力添えいただきますようお願い申し上げます。

 なお、2012年からの「政策提言」はホームページ「本会の提言」に掲載し、中国語と英語に翻訳した「2020政策提言」も掲載しています 。

 令和2年(2020年)6月9日

                                         日本李登輝友の会

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日本李登輝友の会「2020政策提言」

自由で開かれたインド太平洋を守るため日本は米豪と共に台湾の国交国を支援せよ

令和2年(2020年)3月29日

会長渡辺利夫

副会長加瀬英明 川村純彦 黄文雄 田久保忠衛 辻井正房

【中文】確保自由開放的印度太平洋日本應與美澳攜手支援台灣邦交國

【英文】For the Protection of a Free and Open Indo-Pacific, Japan Together with the US and Australia Should Support Nations that Have Diplomatic Relations with Taiwan

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趣旨:

 2019年9月16日と20日、台湾の中華民国と正式な国交を維持してきた太平洋島嶼国家のソロモン諸島とキリバスが、相次いでその国交を断絶し、間もなく中華人民共和国との国交を樹立した。台湾の国交国が減少して国際生存空間が狭まったというにとどまらず、安倍首相が提言し、トランプ大統領が国際戦略とした「自由で開かれたインド太平洋構想(戦略)」に対する中国による露骨な挑戦であり、日米、そして豪州を分断するために振り下ろされた斧である。

 中国は日米豪を相手に太平洋島嶼国を舞台にした「オセロゲーム」を挑んでいる。台湾の国交国を一枚一枚裏返し、戦局を決定づける隅(すみ)の一枚の台湾に手をかけようとしている。太平洋を中国の海にしようとする習近平・国家主席の「中国の夢」を阻止して、太平洋を自由と民主と法の支配の海として維持するために、日本は米豪などとともに、台湾の国交国を支援し、中国の魔手が台湾に及ぶことを未然に防がなければならない。日米豪は「オセロゲーム」の一枚、台湾を守り、台湾との国交国を支援し、さらに中国の影響を一掃して、太平洋全域を自由と民主と法の支配の色に染め上げなければならない。

提案:

 安倍晋三首相は、2016年8月27日のアフリカ開発会議での基調演説で、「自由で開かれたインド太平洋構想」を打ち出した。そこで安倍首相は「日本は、太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧と無縁で、自由と、法の支配、市場経済を重んじる場として育て、豊かにする責任をにないます」と力強く誓った。

 この声に応えるかのように2017年11月10日、ベトナムで開かれたAPECの場で、トランプ大統領は、独立主権国家の協力によりすべての国が繁栄するヴィジョンとして「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げた。

 アメリカは、自由市場、公正な取り扱い、法の支配の恩恵を受けて発展してきた中国こそが、ルールに沿った国際システムを破壊しているとの認識を示した[2019年6月1日、国防総省「インド太平洋戦略レポート(Indo-Pacific Strategy Report)」。

 アメリカ政府と議会は、インド太平洋地域の安全保障と安定のために、台湾とのより強力なパートナーシップの実現と台湾関係法の誠実な履行を追求している。またトランプ政権は、当初、いささか引き気味であった太平洋島嶼国への関与を再び高める意思を表明している。こうしてアメリカは、日本や豪州を主軸とする域内同盟国との協力関係の強化とともに、太平洋島嶼国や台湾との諸課題の解決に取り組むことを明らかにしている(2019年11月4日、国務省「自由で開かれたインド太平洋─共通の構想を進めるために(A Free and Open Indo-Pacific- Advancing a Shared Vision)」)。

 中国は、「遼寧」に続いて三隻の国産空母を建造し、外洋海軍の構築を目指して周辺海域を勢力圏に収め、彼らのいわゆる第一列島線を超えて西太平洋へと進出しつつある。さらにソロモン諸島、キリバスを台湾と切り離し、自国の勢力圏に取り込もうとしている。いわゆる第二列島線をも超え、第三列島線に到達しようとする中国共産党政府の明確な意思の表れである。

 ハワイの西側で太平洋を二分し、西半分を中国の勢力圏に収めようという中国海軍関係者の妄言が現実のものとなりつつある。今日までの趨勢からすれば、中国の次の太平洋島嶼国のターゲットはマーシャル諸島とパラオとなるだろう。残るは小国のナウルとツバルのみ。これらの僅かに残された台湾の国交国は、ハワイ、オセアニア、グァム、サイパンから沖縄、台湾を結ぶ地域海洋安全保障面での重要なシーレーン上にあり、日米豪と台湾の絆を維持するための生命線である。[註1、註2]

 2019年1月2日、「台湾同胞に告げる書40周年式典」の重要演説で、習近平主席は「一国二制度」の香港方式での台湾併合を宣言した。あからさまにアメリカなどを名指しはしなかったものの「武力の使用を放棄することを約束せず、あらゆる必要な措置を取る選択肢を保有する」と述べた。実際には多数派である台湾の人々の独立主権を求める行動と、アメリカその他の外部からの支援に対して、中国は武力の発動を否定していない。そればかりか、中国の目標は台湾の併呑にとどまるものではなく、太平洋の半分を手中に収めることである。

 今日のトランプ政権の行動は、「国家安全保障戦略」(National Security Strategy of the United States of America, December 2017)に示された「中国がインド太平洋地域で米国に取って代わろうとしている」との認識に基づき、危機感をもって対処しようとしていることを示す。日本政府も、太平洋をめぐる「オセロゲーム」が中国優位に着々と進められていることを如実に示すものだと、厳しく受け止めなければならない。

 中国の野望を阻止し、「自由で開かれたインド太平洋」を維持するためには、太平洋島嶼国へのこれ以上の中国の浸透、圧力増大、勢力拡張を押しとどめなければならない。そのためには、日本は米豪などとともに、台湾の国交国の維持に全力を傾注する一方、全ての太平洋島嶼国が自由、民主、法の支配を享受する国として発展するよう、今以上のエネルギーを注ぎ、最大限の努力を注がなければならない。

 折しも本年は、防衛省が太平洋島嶼国で軍を持つパプアニューギニア、フィジー、トンガの国防大臣や米豪英仏など太平洋島嶼国と関係の深い国の実務者を東京に招き、安全保障上の課題に関する意見交換を行う「日・太平洋島嶼国国防大臣会合」[Japan Pacific Islands Defense Dialogue 2020:Bridging the Blue Continent 略称:JPIDD(ジェイピッド)]を初主催するとのことであるが、こういった視点をもって臨むことを切に期待する。

註1 2016年5月現在(蔡英文政権発足時)の台湾との国交国=22ヵ国

 大 洋 州:ソロモン諸島、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバル アフリカ:サントメ・プリシンペ、ブルキナファソ、スワジランド(エスワティニ) 中 南 米:エルサルバドル、ベリーズ、ニカラグア、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ、ドミニカ共和国、ハ      イチ、セントクリストファー・ネービス、セントルシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、      パラグアイ 欧  州:バチカン

註2 2020年3月現在の台湾との国交国:15ヵ国

 大 洋 州:マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバル アフリカ:エスワティニ 中 南 米:ベリーズ、ニカラグア、グアテマラ、ホンジュラス、ハイチ、セントクリストファー・ネービス、セン      トルシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、パラグアイ 欧  州:バチカン

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【参考資料】自由で開かれたインド太平洋構想と各国の認識、法令

 安倍晋三首相が「自由で開かれたインド太平洋」という「構想」を公にしたのは、2016年8月の第6回「アフリカ開発会議」の基調演説だった。すなわち、世界に安定,繁栄を与えるのは,自由で開かれた2つの大洋,2つの大陸の結合(インド太平洋)が生む,偉大な躍動であるとし、日本は,太平洋とインド洋,アジアとアフリカの交わりを,力や威圧と無縁で,自由と,法の支配,市場経済を重んじる場として育て,豊かにする責任を担う、と宣言した。(1)

 翌年のASEAN首脳会議では、他国の首脳もこれに言及し、さらに、2017年11月のAPEC首脳会議では、アメリカのトランプ大統領もこの構想に同調した。

 安倍首相の「構想」では、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するためには、1)法の支配,航行の自由,自由貿易等の普及・定着、2)経済的繁栄の追求(連結性,EPA/FTAや投資協定を含む経済連携の強化)、3)平和と安定の確保(海上法執行能力の構築,人道支援・災害救援等)が3本の柱とされている。このうち3)の平和と安定の確保のための具体化策として、海上法執行能力や海洋状況把握(MDA)能力の強化、人材育成等におけるインド太平洋沿岸国への能力構築支援と、人道支援・災害救援,海賊対策,テロ対策,不拡散分野等での協力を掲げている。(2)

 この安倍構想に対し、台湾では、蔡英文総統が2019年10月10日、「中華民国中枢及各界慶祝108年国慶大会」において「堅靭之国 前進世界」(強靭な国 世界へ前進)と題した演説を行い、自らの立場を明確にした。すなわち、「我々は中国が台頭し、拡張しつつあることを目にしています。中国は権威主義体制で民族主義と経済力を結びつけ、自由民主の価値と世界秩序に挑戦しています。だからこそ、インド太平洋戦略の一角に位置する台湾は民主の価値を守る最初の防衛ラインとなるのです」と述べ、インド太平洋「戦略」における台湾の地政学的重要性に言及した。さらに、「中国はシャープパワーを用いて一歩一歩迫ってきます。しかし我々は、台湾が地域の重要なメンバーとして国際的な責任を果たしていかねばならないことを知っています。ですから我々は挑発も冒険もしません。理念の近い国々と協力し、台湾海峡が平和で安定している現状を確保し、一方的にそれが損なわれることを防ぎます」と、自由、民主、法の支配を共有する国々との協力の方向性を明示した。(3)

 また、アメリカは、2019年6月1日に国防省が「インド太平洋戦略報告(Indo-Pacific Strategy Report)」(4)を、11月4日には国務省が「自由で開かれたインド太平洋(A FREE AND OPEN INDO-PACIFIC)」(5)を発表している。

 国防省の報告においては、アメリカを太平洋国家と規定し、インド太平洋地域をアメリカにとって最優先の地域であるとしている。また、域内の大小の国家が主権を維持し、国際ルールと義務に従い、公正な競争原理に沿って経済成長を果たせるよう、アメリカはこの地域を、自由で開かれた地域として維持するとしている。

 同「報告」には、以下の認識が示されている。すなわち、第二次大戦後のアメリカは、この地域で支配のためではなく友好関係の促進のため、日本とは同盟関係を締結して経済成長を促し、台湾に対しては開かれた民主的な社会の創出を支援してきた。他方、1979年にアメリカは、中国との正式の国交を結び、アメリカ流の自由で開かれた市場、平等な貿易機会を実現しようとしてきた。それは経済の自由化によって中国がアメリカや自由世界の有力なパートナーとなると信じていたからであるが、中国は、自国のために自由な市場、正義と法の支配を求める一方で、世界の経済システムを内部から破壊し、ルールに立脚した秩序の価値と原則を侵食してきた。さらに、中国は、自国の国益に沿わない相手には、経済的および政治的手段で圧迫し、非軍事的な手段をもって圧力を加えてきた。

 その上で同「報告」は、アメリカにとって、強くて繁栄する民主主義の台湾を含む、この地域における、ルールに立脚した国際秩序の維持が最も大切な利益である、と宣言している。それゆえアメリカは、インド太平洋の安全と安定に対する関与の一環として、台湾関係法の誠実な履行を通して、台湾との強力なパートナーシップの実現を追求している。

 更に、インド太平洋における民主国として、シンガポール、台湾、ニュージーランドおよびモンゴルを信頼できるパートナーとして列挙し、これら4つの国(countries)は、アメリカの世界的な使命の実践に貢献し、世界における自由で開かれた秩序の維持に積極的に協力していると評価し、これら諸国との関係の強化を求めている。

 対する中国は、台湾との平和的統一を標榜してはいるが、軍事力の使用を放棄せず、人民解放軍は、台湾を軍事的に統一するための態勢整備を進めている。さらに中国は、台湾に対して第三国が関与することを阻止し、延引させ、拒否するための準備を進めている。これに対してアメリカは、台湾の防衛に関与し、台湾が十分な自衛力を持てるだけの防衛のための武器とサービスを供与することとしている。

 こういった動きに対し、アメリカ議会は上下両院で共和党、民主党の二大政党の圧倒的多数の賛成、もしくは全会一致をもって台湾旅行法(2018年3月16日)、アジア再保障推進法(2018年12月31日)や、2018年、2019年、2020年の国防授権法を可決させ、さらに台湾支援法[略称、タイペイ法、Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative (TAIPEI) Act of 2019]をトランプ大統領の署名をもって成立させている。(6)

──────────────────────────────────────(1) 外務省のwebサイト:  https://www.mofa.go.jp/mofaj/afr/af2/page4_002268.html(2) 外務省のwebサイト:  https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000430631.pdf(3) 台北駐日経済文化代表処のwebサイト:  https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/60273.html(4) Indo-Pacific Strategy Report  https://media.defense.gov/2019/Jul/01/2002152311/-1/-1/1/DEPARTMENT-OF-DEFENSE-INDO-PACIFIC-STRATEGY-REPORT-2019.PDF (5) A FREE AND OPEN INDO-PACIFIC  https://www.state.gov/wp-content/uploads/2019/11/Free-and-Open-Indo-Pacific-4Nov2019.pdf(6) Taiwan Travel Act,   https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/535,   Asia Reassurance Initiative Act of 2018,   https://www.congress.gov/bill/115th-congress/senate-bill/2736/text,   National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2018,   https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/2810,   John S. McCain National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019,  https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/5515/text,   National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2020,  https://www.congress.gov/bill/116th-congress/senate-bill/1790,  Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative (TAIPEI) Act of 2019,  https://www.congress.gov/bill/116th-congress/senate-bill/1678/text

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