昨日(6月9日)発行の「Taiwan Today」誌が「ソロモン諸島マライタ州、台湾からの物資無償提供に感謝」と題し、ソロモン諸島のマライタ州が、台湾からサージカルマスク、石鹸、検温設備、白米等の医療・民生物資の無償提供を受け、州都アウキで感謝の儀式を行ったと報じていた。
まさかと思って記事を読んだ。ソロモン諸島は昨年9月16日に台湾と断交した国であり、国交を断った国に台湾が無償で支援物資を提供するなどありえない話ではないかと思いつつ記事を読んだ。そこで思い出したことがいくつかある。
ソロモン諸島はオーストラリアの北東に位置するメラネシアにあり、1978年にイギリスから独立したもののいまだに英連邦王国の一国で、人口は約65万人を擁する南太平洋の要衝にある。首都ホニアラがあるガダルカナル島は、大東亜戦争のときに日本が占領した激戦の島で、日本との縁も深い。
ソロモン諸島は1983年から台湾と国交を結んでいた。しかし、2018年4月に3度目の首相に就いたソガバレ首相は「国益に基づく対外関係の全面見直し」を表明して諮問委員会を設置し、委員会は中国との国交樹立を提言して台湾と9月16日に断交した。そして、その日のうちに中国と国交を結んでいた。
中国は南太平洋の要衝であるこのソロモン諸島にまず目を付け、断交当時「インフラ整備で5億ドル(約535億円)の資金提供の提案があったとの情報もある」(産経新聞)とか「台湾の呉[金リ]燮・外交部長は中国がソロモンの国会議員を買収して断交を手引きしたとし『強く非難する』と述べた」(日本経済新聞)などと報じられ、中国の手段を択ばぬ金銭外交だと非難されたものの、まんまと断交させることに成功した。
しかし、日本は菅義偉・内閣官房長官が「今後の影響を含め大きな関心を持って注視をしている」と述べて懸念を表明し、米国に至っては「米国の長期的な関与よりも、中国との目先の利益を優先させた」と批判し、ペンス副大統領は予定されていたソガバレ首相との会談を取り止めている。
ソロモン諸島内でも台湾との断交に多くの住民が反対し、マライタ州の州都アウキでは台湾との断交に抗議活動が起こり、政府に対して台湾との国交断絶を見直すべきと要求していた。
今回、台湾が医療・民生物資を無償提供したのがこのマライタ州だ。台湾はすでに武漢肺炎の感染予防のためのマスクやフェイスシールドなどの医療物資を戦略物資と位置づけ、欧米や日本をはじめ太平洋の国交4ヵ国(マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバル)にもマスクを2万枚ずつ計8万枚と額式体温計などを提供している。
国交のないソロモン諸島への今般の医療・民生物資の無償提供も、もちろん台湾の戦略だったと考えられる。
州知事は「今日の式典は、台湾の政府及び住民のマライタ州への支援に心から感謝するためのものだ。この取り組みは、マライタ州の人々と台湾の人々との長く続く友情に再び火をつけることになった」と述べ、また「マライタ州の人々と台湾の人々が共有する価値観と原則が、これ(国交断絶)によって損なわれることは少しもない」(Taiwan Today)とも述べたというから、台湾が意図していたとおりの展開になったようだ。
周知のように、中国はこのソロモン諸島に続き、4日後の9月20日に南太平洋のミクロネシアにあるキリバス共和国と台湾を断交させている。
台湾政府によれば、断交の直接のきっかけは、キリバス側からの民間航空機購入の資金援助だったという。台湾側が贈与ではなく優遇貸付を提案すると、キリバス側はこれを拒否。この間「中国政府はキリバスに対して、いくつかの民間航空機やクルーザーを寄贈することを約束し、キリバスに中国と国交を結ぶよう迫った」ことで断交に至ったという。
台湾がキリバス共和国にマスクなどを提供するかどうかは不明だが、米国の国務省は6月4日、台湾と連携して太平洋島嶼国家への武漢肺炎対策支援を強化すると発表していることから、ソロモン諸島マライタ州への支援は米国との連携の下になされたと考えられる。
米国は、中国の太平洋への覇権的進出を食い止め、インド太平洋地域の安全保障と安定をはかるため、日本、インド、オーストラリアと「自由で開かれたインド太平洋戦略」を共有している。米国は、この戦略を妨げるような中国の動きには敢然と立ち向かい、この戦略を受け入れる太平洋島嶼国家には手厚い支援をすることになる。その第1弾が台湾と連携したソロモン諸島マライタ州への支援だったとみていいだろう。
—————————————————————————————–ソロモン諸島マライタ州、台湾からの物資無償提供に感謝【Taiwan Today:2020年6月9日】https://jp.taiwantoday.tw/news.php?post=178969&unit=149&utm_source=Taiwan%20Today%20JP%209&utm_medium=email&utm_content=%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%20textlink
南太平洋にあるソロモン諸島のマライタ州は、州都アウキ(Auki)で8日、中華民国(台湾)政府からのサージカルマスク、石鹸、検温設備、白米等の医療・民生物資の無償提供に感謝する儀式を行った。
マライタ州のDaniel Suidani州知事は、式典に参加したマライタ州の高官、州議員、市民らに対し、「新型コロナウイルスが人類に対して大きな悲劇をもたらしているこのとき、台湾はその強靭性と助け合いの精神を世界に対して示している。これは一つのオープンで公平な社会が、見える敵であれ見えない敵であれ、それに対抗する能力を持っていることを証明するものだ」と述べた。
Daniel Suidani州知事はさらに、「台湾は素晴らしい範例を作った。それは、国土がどれだけ小さくても、総人口がどれだけであっても、人々の愛、能力、人類に対する思いやりがあれば、新型コロナウイルスの影響を受けて困っている世界の人々を助けることができるということだ」と台湾を称賛した。
Daniel Suidani州知事は続けて、「今日の式典は、台湾の政府及び住民のマライタ州への支援に心から感謝するためのものだ。この取り組みは、マライタ州の人々と台湾の人々との長く続く友情に再び火をつけることになった」と述べた。
ソロモン諸島は昨年9月、中華人民共和国との国交樹立を決め、中華民国(台湾)と国交を断絶したばかり。これについてDaniel Suidani州知事は、マライタ州の人々と台湾の人々が共有する価値観と原則が、これ(国交断絶)によって損なわれることは少しもない」と述べた。
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