辛亥革命110年と中華民国(台湾)国慶節  浅野 和生(平成国際大学教授)

 今から110年前、1911年10月10日の武昌蜂起をきっかけとして、12年1月1日、孫文を初代臨時大総統とする中華民国が成立した。それから1カ月余で清朝皇帝溥儀が退位して清国は滅亡した。いわゆる辛亥革命である。

◆異民族を隷属さす中国

 中国の習近平国家主席は10月9日、北京で「辛亥革命110周年記念大会」を開いて「重要演説」を行った。習主席はその中で、孫文が辛亥革命で成立させた「中華民国」の後継者は「中華人民共和国」であるとし、正統性を主張した。さらに台湾問題について「祖国を完全統一する歴史的任務は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」「台湾独立勢力は統一の最大の障害だ。祖国に背き国家を分裂させる者は、必ず人民に唾棄され歴史の審判を受ける」と、台湾の蔡英文政権を敵視するとともに、台湾併呑《へいどん》への強い意欲を示した。

 ところで、習主席は、7月1日の「中国共産党創立100周年祝賀大会」の演説では「中華民族の血の中には他者を侵略し、覇を唱えようとする遺伝子はない」「中国人民はこれまでに一度も他国の人民をいじめ、抑圧し、隷属させたことはなく、これは過去にも、現在にもなく、また今後もありえない」と述べた。その上で、台湾海峡「両岸の同胞」、つまり大陸と台湾の「すべての中華の子女」の共通の願いが祖国の完全な統一だと主張した。

 しかし、現に中国共産党政権はウイグル族、チベット族を侵略し、抑圧し、隷属させている。習主席の言に従えば、これらの人びとは「他者」や「他国の人民」ではなく「同胞」や同じ「中華の子女」ということなのだろう。事実は、中国共産党が、異国、異民族を併合し、隷属させて「同胞」呼ばわりしているにすぎない。

 辛亥革命当時、台湾は日本の統治下に置かれていたから、台湾にとって辛亥革命はもともと他人事《ひとごと》である。それゆえ10月7日、コロナ禍で2年ぶりに東京で開かれた台湾主催の「国慶節」祝賀パーティーの看板には「辛亥革命110周年記念式典」の文字はなく、いつもの「中華民国国慶節」の代わりに「中華民国(台湾)国慶節」と書かれていた。謝長廷代表(大使に相当)は冒頭のあいさつで、辛亥革命から110年の歴史的意義には一切触れず、例年と異なる看板表記について次のように説明した。「日本と中華民国が断交し50年近くとなり、日本の若い世代の多くは、『中華民国』を知らない。台湾の憲法に基づく名称は、『中華民国』であるが、『中華民国憲法』は現在、台湾においてのみ施行され、民主化も台湾で実現している。それゆえ私たちは今、国際社会に向けて『台湾』を強調する必要がある」とのことだ。

 かつて中華民国は、国際場裡で「中国代表権」を主張して、中華人民共和国と対立してきた。今も憲法上「中華民国」ではあるが、実は「台湾」であることを、この看板は公式行事の表記として初めて示した。

 もともと中国であった「中華民国」は、台湾移転後も「中国」であると主張していたが、1995年から李登輝総統が「中華民国在台湾」、つまり「台湾にある中華民国」と言い始めた。あれから25年を経て、謝長廷代表は「中華民国(台湾)」へと歩を進めたのである。これで「中華民国」の名称は、固有名詞として継続使用はされているものの、必ずしも「中国」の国号ではなく、「台湾」に現存する国家統治体の名称にすぎないとも解釈できることになった。

 ちなみに、10月10日台北の総統府前で挙行された「中華民国中枢と各界慶祝110年国慶大会」で蔡英文総統は、「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しないこと」を「永遠に堅持する」と宣言した。

◆習主席は“有言実行”を

 つまり、現に台湾にあるのは「中華民国(台湾)」で、台湾人は中華人民共和国の「他国の人民」である。だから習近平主席には、自ら語った「中国人民はこれまでに一度も他国の人民をいじめ、抑圧し、隷属させたことはなく、これは過去にも、現在にもなく、また今後もありえない」を実行していただきたい。(あさの・かずお)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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