台湾がアフリカのソマリランドと相互に代表機構を設置 グアム弁事処も再開

 台湾がアフリカで積極外交を展開している。植民地としていたイギリスをはじめ、未だどこの国も国家として承認していない「ソマリランド共和国」がその対象だった。

 ソマリランドは、アフリカの東端「アフリカの角」といわれるところにある。1991年5月、ソマリア連邦共和国から北部が「ソマリランド」として独立したという。

 政情不安な状態が続き、ソマリア沖ではよく海賊が発生することでも知られるソマリア連邦共和国だが、ソマリランドは「政局が安定しており、中華民国(台湾)と同様に、自由・民主の理念を持っています。豊富な漁業資源を有する世界有数の重要な漁場として知られています。石油や天然ガスなど化石燃料の豊かな埋蔵量を誇り、国際的な石油会社の多くが進出」(台湾国際放送)しているという。

 また「6月にサージカルマスクを15万枚のほか、N95マスク、防護服、検査試薬、検査機器などもソマリランドに寄贈」するとともに「ソマリランドは、蝗害(バッタ類の大量発生による災害)に見舞われていることから、台湾は白米を300トン寄贈」(台湾国際放送)したそうだ。

 台湾とソマリランドとの交流は意外に古く、中央通信社は「台湾は2009年からソマリランドと良好な関係を徐々に築き、海事の安全や医療衛生協力、教育協力などの分野で連携してきた」と伝えている。その交流が実り、今年2月26日に訪台したソマリランドのヤシン・ハジ・モハムド外相と議定書に調印、7月1日、相互に公式代表機関を設置するとの発表に至ったという。

 もちろん、これに対して中国は猛烈に反対し、駐ソマリア中国大使が「台湾との全ての活動を停止すれば、中国の代表機関を開設する」と圧力をかけたところ、「モハムド外相は、中国も含め全ての国との交流を歓迎するとの考えを示した上で、中国の要請を拒否。ビヒ大統領も受け入れなかったという」(中央通信社)と伝えられている。

 一方、本誌の7月4日号で取り上げたように、台湾は2017年に閉鎖した事実上の在米領グアム領事館「駐グアム台北経済文化弁事処」を再び開設することになった。

 そのとき「米国が展開している『自由で開かれたインド太平洋戦略』にとって、太平洋島嶼国は戦略的にとても重要であることから、駐グアム台北経済文化弁事処の再開設に踏み切ったということのようだ」と、この決定の背後に米国との連携があるのではないかと述べた。

 7月8日付の産経新聞ウェッブ版も「台湾の外交評論家は『閉鎖からわずか3年で再開するのは珍しい。米国から要請された可能性が高い』と分析」していることを紹介し、「『グアムは太平洋における米軍の重要な拠点であり、今後、米軍の軍事演習に台湾軍が参加する可能性がある』との見方を示した」と報じている。

 今年の8月17日から31日にかけて行われるリムパック(環太平洋合同演習:Rim of the Pacific Exercise)に台湾を招待せよと進言したのは、6月23日に公表された米上院軍事委員会の「2020年度国防権限法」草案で、本誌でも「いよいよリムパックへの台湾参加が現実味を帯びてきた」と述べた。

 駐グアム台北経済文化弁事処の再開設によって、台湾のリムパック参加はさらに現実味を帯び、すでに指呼の間に迫っていると言っていいかもしれない。

 なお、昨日(7月8日)、河野太郎・防衛大臣は、米国のマーク・エスパー国防長官、オーストラリアのリンダ・レイノルズ国防大臣とテレビ電話形式で会談した。三ヵ国防衛大臣による会談はこれで第9回目になるという。

 会談では、東シナ海や南シナ海における中国の軍事活動の活発化を踏まえ「威圧的で一方的な行動に対する強い反対」を表明する共同声明を発表した。香港国家安全維持法のことも取り上げられ、深い懸念を表明している。

 防衛省が発表した日米豪防衛相会談共同声明(仮訳)によれば「南アジア及び東南アジアのパートナーを支援する重要性を認識」を共有したともあり、台湾という固有名詞は出てこないものの、アセアンに加盟していないパートナーといえば台湾のことが思い浮かぶ。駐グアム台北経済文化弁事処の再開設決定後の三ヵ国会談だけに、「支援する重要性」という表現は意味深長で、気になるところだ。

◆防衛省:日米豪防衛相会談共同声明(仮訳)[7月8日]*英語版付https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/area/docs/2020/20200708_j-usa-australia.html

—————————————————————————————–台湾、中国のアフリカ制覇牽制 ソマリランドに事務所設置で攻勢 グアムにも【産経新聞:2020年7月8日】

【台北=矢板明夫】台湾の蔡英文政権がアフリカ東部の半独立状態のソマリランドに代表機構を設置し、米領グアムにおける弁事処(領事館に相当)を再開させるなど積極外交を展開している。中国の圧力により国際社会で厳しい状況に立たされる中、反転攻勢につなげたい狙いとみられる。

 台湾の呉●(=刊の干を金に)燮(ご・しょうしょう)外交部長(外相)は1日、ソマリランドと公式の代表機構の相互設置で合意したことを発表した。ソマリランドはソマリアの北部にある旧英領で、1991年にソマリアからの分離独立を宣言し、実質的に独立国家として機能しているが、国際社会からは承認されていない。一方で台湾とは留学生の受け入れや海上の安全保障、医療衛生、教育などの分野で連携してきた。

 台湾の外交部(外務省)は代表機構の設置について「台湾は国際社会において厳しい境遇にあるが、それで萎縮することはない。引き続き、理念の近い国々との実質的な関係強化に努める」と説明している。

 台湾がアフリカで外交関係を維持するのは現在、南部のエスワティニ(旧スワジランド)のみ。中国はそのエスワティニにも巨大経済圏構想「一帯一路」に伴うインフラ整備支援を武器に国交樹立を求めている。台湾にはソマリランドとの関係強化で、中国の「アフリカ制覇」の動きにくさびを打ち、アフリカでの影響力を少しでも高めたいとの思惑があるとみられる。

 台湾とソマリランドは正式な外交関係を締結していないため、ソマリランドにある代表機構の名前は台湾が公称する「中華民国」を使わず「台湾代表処」となった。双方の関係強化について、中国政府は非難声明を出すなど反発し、ソマリランドの独立を認めていないソマリア政府も「台湾による主権と領土保全の侵害だ」と批判している。

 台湾の外交部はまた、「駐グアム台北経済文化弁事処」の再開を3日に発表した。同弁事処は2017年8月に経費削減を理由に閉鎖されたばかりだった。再開の理由について同部は「予算の増加と対米関係の深化、太平洋の戦略的地位の重要性を踏まえての対応だ」と説明している。

 台湾の外交評論家は「閉鎖からわずか3年で再開するのは珍しい。米国から要請された可能性が高い」と分析した上で、「グアムは太平洋における米軍の重要な拠点であり、今後、米軍の軍事演習に台湾軍が参加する可能性がある」との見方を示した。

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。