「北方領土の日」(1981年1月6日、閣議了解)、次は2月22日の「竹島の日」(2005年3月
25日、島根県「竹島の日を定める条例」制定)、そして1月14日の「尖閣諸島開拓の日」
(2010年12月20日、石垣市「尖閣諸島開拓の日を定める条例」制定)だ。
北方領土とは北方4島(択捉、国後、色丹、歯舞)を指し、1945年にソ連が不法占領する
まで一度も外国領土にならなかった地域で、これは安政元年(1855年)、江戸幕府と帝政
ロシアが締結した択捉島と得撫(ウルップ)島の間を国境線とする日露和親条約に基づく。
日本はサンフランシスコ平和条約で台湾・澎湖島とともに南樺太と千島列島を放棄させ
られたが、北方領土は千島列島に含まれていない。尖閣諸島や竹島と同様、日本固有の領
土だ。
ところが最近、安倍晋三首相の特使としてロシア訪問が予定されている森喜朗元首相が
「3島返還」で決着を図ることも選択肢との認識を示した。さすがに菅義偉官房長官は「4
島の帰属が確認されれば、実際の返還の時期は柔軟に対応していくのが政府の従来方針
だ」と釘を刺した。
森元首相は台湾についても未だに、蒋介石先生のおかげで日本は救われたと、蒋介石の
「以徳報怨」神話を公言して本会関係者や台湾の人々からも顰蹙を買っている御仁だ。
本会常務理事の澤英武(さわ・ひでたけ)氏は、産経新聞の記者時代、長らくモスクワ
特派員をつとめたロシア問題の専門家だが、この森元首相の発言に対し「首相経験者たる
人物の発言として聞き捨てならない」として昨日の産経新聞に「北方四島返還要求の原則
を崩すな」と題する烈々たる一文を寄稿している。
冒頭に記したように、日本は北方領土、竹島、尖閣諸島という領土問題を抱えている。
尖閣諸島に領土問題は存在しないとする向きもあるが、そういう発言は日本が自らの力=
軍事力で尖閣を守り抜く態勢ができてからにしてもらいたいものだ。
北方領土に対する澤氏の「正論」は、資源の共同開発などという「甘言」を弄する中国
や台湾におもねろうとする政治家が出てきている尖閣問題にも当てはまる。北方領土しか
り、竹島しかり、軍隊が駐留するようになったら、いくら主権を主張したところで遅い。
百年河清を俟つがごとしだ。
澤英武(さわ・ひでたけ)
昭和3(1928)年、静岡県韮山生まれ。海軍兵学校、旧制二高を経て東京大学工学部卒業。
同28(1953)年、産経新聞社入社。ボン、モスクワ特派員、編集委員などを歴任後、同63
(1988)年、退社。外交評論家。日本李登輝友の会常務理事。主な著書に『アンドロポフ
書記長への手紙』『ソ連が消える日』など。
北方四島返還要求の原則を崩すな 澤 英武(外交評論家・産経新聞元モスクワ支局長)
【産経新聞:平成25(2013)年1月12日】
昨年3月、大統領になる前のプーチン首相は会見で、得意の国際柔道用語「ハジメ」「ヒ
キワケ」を使って、日本に平和条約交渉再開を呼びかけた。日露の代表を対決させ、プー
チン主審が「ヒキワケ」を宣言する、という筋書きだ。早速日本では、プーチン氏の意図
を勘ぐる騒ぎになった。一見、公平に見えるいかさま審判なぞ無視しておけばいいのに、
見事にはめられている。
森喜朗元首相は9日、BSフジの番組で、プーチン氏の「ヒキワケ」発言の真意を聞いて
みたいと述べる一方、自らの考えとして、歯舞、色丹、国後の3島返還という解決案を示し
た。首相経験者たる人物の発言として聞き捨てならない。
プーチン大統領の今の心情を想像してみる。1世紀近く、社会主義世界のリーダーだっ
たソ連が弟分だった中国に抜かれ、逆に見下されている屈辱。人口わずか1億4千万人の
ロシアが世界一広大な面積を持て余している上、隣接する13億の中国人の“浸透圧”がシ
ベリア極東地域を脅かしつつある恐怖。シベリアの大地とその資源が、中国人と中国資本
に乗っ取られる前に、日本、アメリカなど西側の人材、資本、技術で固め、確保したいと
の切望。それらが大統領の焦燥感を高めているだろう。
平和条約交渉で、日本から妥協点を探る必要は全くない。安倍晋三首相は「北方四島の
返還要求」を崩さず、ロシアからの提案を待つ姿勢を貫くだけでよい。待つことで、日本
に時間の制約も、損失もない。
北方四島を交渉で取り戻すのは容易ではない。だからといって、3島や3・5島で妥協しよ
うとする考えは、「法と正義」の原則に立って北方領土問題を解決すべきだ、と明記した
1992年のミュンヘン・サミットの政治宣言などを日本自ら破る行為である。
ソ連は第二次世界大戦での日本降伏後に、日本固有の領土である「北方四島」に侵攻、
勝手に自国領に編入した。連合国の中で、侵略によって領土を拡張している唯一の国なの
である。
2000年にプーチン大統領が登場するあたりから、日本政府の北方四島返還の要求が揺ら
ぎ始め、歯舞、色丹の「2島先行返還」論が浮上した。森首相が退陣して小泉純一郎首相の
時代に消えた論議は06年、第1次安倍内閣時代に形を変えて再浮上した。国会での質問に
麻生太郎外相は、「北方四島の全面積の2等分」という観点をめぐり、歯舞、色丹、国後3
島では足りず、択捉島の25%を加えて半分になる、と答えた。
ロシア側は当然のことながら、公式の場での外相発言を、「日本が北方四島返還要求を
後退させ、分割交渉を示唆した」と受け止めた。外務省幹部は発言は単なる数字の問題で
あり、従来の立場は変わらないと否定したが、失態である。
当時、麻生外相を支えるべき外務次官は谷内正太郎氏だった。同氏はその後、新聞イン
タビューで「3・5島の返還でもいい」と答えている。外務省のトップが、不法に占領され
ている領土の回復を、「びた一文譲れない国家の尊厳」の問題と考えていないとすれば、
省全体も同じ認識に立っているとの疑念がわく。
安倍首相は来月にも、プーチン氏と親しい森元首相をモスクワに送る。プーチン大統領
は「北方領土」で変化球を投げれば、日本が飛びついてくることを知っている。疑似餌だ
けで、日本を釣る算段だろう。(寄稿)