日本は72年前に占領下で強要された“平和憲法”と引き換えに、独立の気概を失って、北朝鮮から、ホルムズ海峡の安全航行まで、米国に頼っている。
日本は北朝鮮によって拉致された日本国民を、自分の力で救えない。ドナルド・トランプ米大統領に訴えるほかない。まるで米国が拉致したようだ。拉致被害者は“平和憲法”の被害者だ。
中国の習近平国家主席は、台湾を軍事力を用いて「統一する」と繰り返し言明している。台湾が中国に奪われたら、日本は海上交通路を絶たれて、独立を維持することができない。
日本と台湾は一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係にある。一心同体だ。それなのに台湾の安全も、米国に委ねて傍観している。
中国の日本に対する脅威が募っている。日本は米国なしに、まったく対処できない。日本を守るために、米国様々(さまさま)に、ひたすらお縋(すが)りしなければならない。
ところが、トランプ政権が2年前に登場すると、米国は「トランプ支持派」と、「リベラル派の民主党支持者」の真っ二つに分断された。日本がすがってきた米国が、国内対立によって頼れないようにみえた。
日本が危なかった! ところが、この危機を意外な助っ人が現れて、救ってくれた。中国の習主席である。
トランプ政権が発足すると、習主席は「米国が混乱して、力が衰えた」と勘違いして、「いよいよ中国の時代がきた」と舞いあがった。オバマ前政権に、南シナ海の人工島を軍事化しないと明言したのに、ミサイルを配備し、野心的な「一帯一路」計画を暴走させて、スリランカやカンボジアなどの軍港を借款のカタに取り上げるなど、傍若無人に振る舞いはじめた。
中国は、米国市場に経済を依存している。先端技術も米国から盗んできた。寄生虫のような存在なのに、米国に対して牙をむいた。言ってみれば、子会社が親会社を乗っ取ろうとしたのだ。
トランプ政権は、中国と正面から対決することを決断し、関税戦争を始めるとともに、中国へのハイテクノロジーの供給を絶った。米国では、中国の目に余る振る舞いに、民主党も中国を抑えつけようと、全国民が歩調を合わせている。
習主席が、分断されていた米国を団結させたのだ。そのために巨大な米国の力が損なわれることが、なかった。
日本が救われた。習さん、ありがとう!
■加瀬英明(かせ・ひであき)外交評論家。1936年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、エール大学、コロンビア大学に留学。「ブリタニカ百科事典」初代編集長。福田赳夫内閣、中曽根康弘内閣の首相特別顧問を務める。松下政経塾相談役など歴任。日本李登輝友の会副会長。著書・共著に『フーバー大統領が明かす 日米戦争の真実−米国民をも騙した謀略』(勉誠出版)、『グローバリズムを越えて自立する日本』(同)など多数。