のため、入院していた瀋陽市の中国医科大付属第一病院で亡くなった。
それに先立つ11日、文明史家の黄文雄氏(本会副会長)は「これまで中国当局に逮捕された重要
人物は、相次いで肝臓がんにかかっています。中国が意図的に劉暁波氏を殺害しようと、あるいは
死に至るように仕組んだ疑惑が持ち上がってきました」「獄中の重要人物は、不思議と肝臓の病気
で死亡している」(メルマガ「黄文雄の『日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実』」)
として、その死に疑念があると指摘していました。
11日のメルマガのタイトルは「危篤の劉暁波氏、中国当局に毒を盛られた可能性」でしたが、死
亡したことを受け、本誌掲載にあたっては「劉暁波氏、中国当局に毒を盛られた可能性」と改めた
ことをお断りします。
危篤の劉暁波氏、中国当局に毒を盛られた可能性
【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2017年7月11日(第191号)】
http://www.mag2.com/m/0001617134.html
2008年に中国の共産党一党独裁の終結、民主化と三権分立を求める「08憲章」を発表し、「国家
政権転覆扇動罪」によって中国当局に逮捕されたノーベル平和賞受賞者の民主活動家・劉暁波氏
が、肝臓がんのために危篤状態になっていると報じられました。
劉暁波氏は、遼寧省錦州市の監獄で服役中でしたが、今年の5月末に末期の肝臓がんと診断さ
れ、1カ月後の6月末に仮釈放されて病院に入院しました。7月3日の段階では、中国の医師団は「治
療は順調」と語っていました。しかし、それからわずか10間ほどで危篤になってしまったわけです。
劉氏については、治療のために海外へ移送すべきだという国際的な批判が高まっていました。ま
た、本人や家族も国外での治療を望んでおり、ドイツのメルケル首相も、習近平国家主席に対し
て、数回に渡って劉氏の受け入れを表明していたそうです。
しかし、中国の医療チームは病状の重さから、国外への移送に耐えられないと主張して、事実
上、これを拒否していました。
劉氏の釈放要求についてはこれまでも西側諸国からたびたび出されていました。とくに末期がん
が発覚してから、その声は高くなっていましたが、中国当局は「内政干渉」として突っぱねてきま
した。
ただし、7月7日のG20ハンブルグサミットの前日、欧州議会が劉氏の釈放と劉氏の望む場所での
治療を中国政府に求める生命を出したため、さすがに習近平もG20で中国の人権問題が議題になる
ことを恐れたのか、アメリカとドイツの医師による診察を受け入れました。
こうして急遽、7月8日に米独の医師が中国の病院を訪れ、劉氏を診察しました。そして、緩和治
療のための出国は可能だが、できるだけ早く行う必要があるとの共同声明を発表、中国の医療チー
ムの主張を否定したのです。
ところが10日になって、劉氏の状態が急速に悪化、危篤状態になったのです。関係者の発言と比
べてあまりにも急な展開に、怪しさを感じるのは私だけでしょうか。
この米独の診察について、ドイツ政府は診察を撮影しないように要請していたにもかかわらず、
「特定の当局者」がその様子を撮影し、中国の国営メディアに提供したことで、外部に流出してし
まいました。
この事態にドイツ側は「物事を決めているのは医療従事者ではなく、公安機関だ」と猛反発して
います。
もっとも、こうしたことは中国にとってはそれは当たり前の行為です。そもそも、5月末に末期
の肝臓がんだということが判明したのに、外部の医療機関への入院が認められたのが1カ月後とい
うこと自体が、劉暁波氏を早く始末したいという当局の考えの表れです。
劉暁波氏が逮捕されたのが2008年12月で、懲役11年の判決が出たのが2010年2月です。日本であ
れば未決勾留日数が懲役から引かれるでしょう。中国ではそのあたりがどうなっているかはわかり
ませんが、早ければ2019〜20年あたりに釈放されるのではなかったのかと思います。
劉暁波氏は中国初のノーベル賞受賞者です。釈放されれば世界的な脚光を浴び、反中国共産党の
シンボルとなって反体制活動を再結集して一大勢力となる可能性があります。刑期が残り少なく
なって、中国共産党も焦ったのでしょう。しかも、劉氏はまだ62歳です。病気をわざと放置してい
た、あるいはがんを発症するような扱いをしていた疑いが拭えません。
じつは、北京の刑務所で服役中の薄煕来も、同じく肝臓がんになっていることが報じられていま
す。薄煕来は収賄罪などで無期懲役の刑を受けていますが、かつては習近平の最大のライバルとさ
れていました。習近平の反腐敗運動は、薄熙来が重慶市で行っていたやり方をそのまま真似たもの
です。そして毛沢東主義を賛美していたことも習近平と重なります。
そうしたやり方で、保守層や貧困層に非常に大きな人気があったのが、薄熙来だったのです。そ
れだけに習近平は、刑務所に収監されてはいるものの、いまだ根強い人気がある薄煕来を警戒して
いるとも言われています。
かつて四人組の1人だった王洪文も、文革後に逮捕されましたが、獄中でわけのわからない注射
を打たれて、その後、肝臓疾患によって獄中死しています。獄中の重要人物は、不思議と肝臓の病
気で死亡していることがわかります。
そもそも、獄中の政治犯でも年に一度は健康診断がありますので、急に末期がんとなるというの
も不自然です。
言うまでもなく、中国政府はこれまでも数々の非道行為を行ってきました。とくに、拘束状態に
ある者が病気になったときは悲惨です。いかなる治療も受けられず、そのまま放置されるからです。
かつて国家主席を務めた劉少奇などは、文革中に失脚し、自宅に監禁されましたが、いつも監視
者から暴行を受け、さらに持病の薬は取り上げられ、排泄物の処理すらされませんでした。病状が
進み、ようやく医療機関に搬送されても、ベットにくくられ、ほとんど医療も受けられずにそのま
ま見殺しにされました(1969年死亡)。
また、朝鮮戦争で人民志願軍の司令を務め、解放軍の元帥まで上り詰めた彭徳懐も、毛沢東批判
をしたことで失脚、その後に起きた文革では紅衛兵に虐待の限りを受け、監禁病棟ですべての窓を
ふさがれたまま寝たきり状態となりました。最後は直腸がんにかかりましたが、鎮痛剤も打たれず
に、血便にまみれたベットで苦しみながら最期を迎えました(死去は1974年)。
もちろんこれは40年近く前のことですが、目に見えないところで、同様のことは続けられてきま
した。政治犯や思想犯に対して拷問や洗脳を行うことで悪名高い労働改造所が廃止されたのは、つ
い最近の2013年のことです。
しかもアムネスティの報告によれば、これは国際社会からの批判をかわすための措置であり、実
態としては「黒監獄」という別の形で同様のことが行われている実態が明らかになっています。
とくにウィグル、チベットの活動家などは、こうした改造所に送られ、さまざまな拷問を受けて
いるとされています。
いずれにせよ、中国共産党にとっては、このまま劉暁波氏がいなくなってくれることを望んでい
るはずです。しかし、中国共産党、あるいは習近平がわざと病死させたという疑惑が世界に広がれ
ば、大きな批判が起こるでしょう。
劉暁波氏にはなんとか回復してもらいたいと思いますが、もしものことがあれば、胡耀邦の死去
により6・4天安門事件が起こったように、香港やウイグル、チベットなどから民主化要求の大波が
発生し、それが中国共産党の命取りになるかもしれません。