中国が台湾文旦を禁輸して苦境に陥った台湾の文旦農家

 これまで20年以上、輸入が中断していた台湾の文旦でしたが、2020年に日本への輸出が再開され、本会でも昨年から台湾の中秋節には欠かせない文旦をご案内し、今年も9月16日まで案内中です。

 日本は農薬の規制が厳しく、マンゴーやライチにしても文旦にしても、高値で引き取ってくれる日本への出荷は肥料を含めて日本向けに栽培しているそうで、日本の農林水産省に相当する行政院農業委員会の農糧署は8月22日、今年の日本向け文旦の輸出について記者発表を行いました。

 今年も、台湾の文旦が日本に入ってくる季節となりました。農糧署は今年も、茨城県笠間市の笠間台湾交流事務所と協力し、笠間市と近隣の大洗町の学校21カ所の児童約6,930人の給食として提供するそうです。

 ところで、ご存じのように、中国は8月3日、米国のペロシ下院議長の訪台に対抗して台湾からの文旦の輸入禁止を発表しました。

 台湾の農糧署は「中国は2017年において台湾文旦の輸出量2,411トンのうち98%を占めていたものの、昨年は輸出量が7,062トンに伸び割合は68%に下がり、今年の生産量は約1割減の7,000トンとなったため中国が禁輸措置を採っても影響はさほど深刻ではない」としていますが、日本向けに栽培していなかった台湾の文旦農家にとってはやはり深刻なようです。

 CNNニュースが、文旦を収穫する様子などの動画とともに「予期せぬ難題に直面」した台湾の文旦農家の苦境についてレポートしています。日本でも食べられるようになった美味しい文旦の陰には、このような台湾農家の苦境もあることをお伝えします。

 ただ、本誌で紹介するのは、文旦の収穫がどのようになされているのか、中国の政治的動機に発する禁輸措置がどれほど台湾農家を苦境に陥れているかを紹介することを目的としています。

 レポートの最後に掲げている、文旦農家の「正直に言って、誰が台湾を訪問しようが関係ない。米中間の緊張はその2カ国で解決すべきだ。台湾の農業従事者が苦しむのはおかしいと思う」という発言には異論があることを申し添えます。これは、農家本位の考え方で、本誌がこの記事を紹介しようとした目的ではないことをお断りします。

—————————————————————————————–軍事力見せつけた中国、今度は台湾の果物を標的に【CNNニュース:2022年8月26日】https://www.cnn.co.jp/world/35192360.html *動画付き

 台湾・麻豆(CNN) リ・メンハンさん一家は過去18年間、台湾南部・台南市近郊でブンタンを育ててきた。

 台湾産のブンタンはみずみずしさと柔らかさで有名で、台湾海峡の両岸で高い人気を誇る。特に中国の伝統行事「中秋節」には欠かせないが、今年の中秋節は9月10日となっている。

 リさんをはじめとする麻豆のブンタン生産者は通常、収穫の準備で8月と9月が最も忙しい。しかし、今年は予期せぬ難題に直面している。中国による禁輸だ。

 ペロシ米下院議長の台湾訪問を受けて米中間の緊張が高まるなか、中国税関は8月3日、ブンタンを含む台湾産のかんきつ類と魚2種類について輸入禁止を発表した。過剰な殺虫剤と新型コロナウイルスの予防策を理由に挙げている。台湾は中国による禁輸について、国際的な通商の規範に反していると非難した。

 中国政府は、ペロシ氏の訪台への対応として、台湾周辺で大規模な軍事演習も実施した。台湾当局は台湾への侵攻を模倣したものだとの見方を示した。中国共産党は、これまで一度も台湾を統治したことはないものの、台湾について自国の領土の一部とみなしている。台湾を支配下におくための武力の行使について選択肢から排除していない。

 リさんはたいてい、収穫したブンタンの約60%を中国本土に輸出している。リさんは最初に禁輸について知ったときは「非常に驚いた」と振り返った。2000年代初めに家族でブンタンの生産を開始して以降で最も困難な状況だという。

 ブンタンの収穫期は、リさんはたいてい、中国やアジアの買い手と取引をまとめるための電話で忙しい。40人の契約業者が一番良いブンタンを収穫して箱に入れ、国外に送り出す。

 しかし今年は、中国の突然の禁輸によって計画に大きな狂いが生じた。

 リさんは「禁輸について聞いたとき、本当かどうか調べるために、すぐに中国のビジネスパートナーに電話した。不意打ちだった。なぜなら、すでに契約を結んでいて、価格も決まり、出荷する日も確認済みだったから」と振り返る。

「しかし、今では全てが無駄になった。だから、国内市場でブンタンを販売する方法を見つけなければならない」(リさん)

 中国の経済的報復によって影響を受けたのはリさんだけではない。行政院農業委員会によれば、台湾で昨年生産されたブンタンは8万2000トンあまりで、このうちの約7%にあたる約5000トンが中国本土に輸出された。

 行政院の試算によれば、かんきつ類や魚2種類に対する禁輸によって台湾の輸出に6億2000万台湾ドル(約28億円)相当の影響が出るとみられる。

 麻豆の農業組合の幹部によれば、麻豆には約2000〜3000のブンタンの生産者がいる。ブンタンの大部分は国内で消費されるものの、禁輸によって市場価格に影響が出て収入が減る可能性が高いという。

 同幹部は「禁輸は生産者にとって厳しい。突然の禁輸で全てが止まることもあり得る。ブンタンの木は数十年も生き続け、年を重ねるごとに甘さが増す。そのため生産者がブンタンを放棄することもできない」と語る。

 中国は昨年以来、台湾に対して軍事的、外交的、経済的圧力をかける度合いを高めると同時に、複数の台湾産の農産物を標的にしてきた。

 中国は直近の禁輸以前にも台湾産のパイナップルやバンレイシ、レンブ、高級魚ハタなどを輸入禁止にしており、いずれも殺虫剤や有害な化学物質の存在を理由に挙げている。(編集部註:バンレイシ=釈迦頭。レンブ=蓮霧)

 専門家は、中国政府による禁輸の動きは政治的な動機によるもので、台湾に対してルールに従うよう圧力をかけようとしているとの見方を示す。

 果物と政治に関する著書もあるチャオ・チュン氏は「中国はペロシ氏の訪台によって台湾に対して経済的に圧力をかける新たな機会を得た。これは政治的な動機による台湾への経済制裁だ」と述べた。

 チャオ氏によれば、直近の禁輸は短期的に台湾の農業従事者に影響を及ぼすとみられるものの、農産物の輸出は台湾の貿易全体では小さな割合でしかないため、大きな経済的な打撃を生み出す可能性は小さいという。

 台湾の最も価値がある輸出品は最先端の半導体だ。特に台湾積体電路製造(TSMC)は半導体の受託製造の世界大手で、業界の推計によれば、世界の高度な半導体の90%を製造している。

 中華経済研究院のロイ・リー副執行長によれば、台湾からの中国への輸出の半分以上は半導体で、農産物は貿易額全体の1%未満に過ぎない。このため、農産物や食品に対する制裁は実際の経済的な効果よりも象徴的な効果が大きいという。

 リー氏によれば、中国は台湾にとって最大の貿易相手国だが、中国政府はこれまでのところ、より高価な台湾の工業分野を標的にはしていない。標的にすれば中国自身の経済にも影響が及ぶ可能性があるためだ。

 それでも、台中関係が悪化すれば、中国政府は中国本土で営業している台湾企業を標的にして報復の度合いを高める可能性がある。

 中国本土でも活動している台湾の企業グループ「遠東集団」は昨年、中国当局からさまざまな違反行為があったとして多額の罰金を科された。中国の国営メディアは遠東集団について台湾の与党・民主進歩党を財政的に支援していると批判し、徐旭東会長には台湾独立への反対を公言するよう求めた。

「台湾の中国への投資が調査されたり、中国の台湾に対する立場を支持するような発言を迫られたりすることが今後は増えると思う」(リー氏)

 麻豆の農業従事者はすでに中国による経済的圧力の影響を感じている。

 行政院農業委員会は財政的な打撃を緩和しようと、広告や配布のキャンペーンを通じて、かんきつ類の販売を台湾全土で増やすための計画を発表した。農業従事者には補助金を出すという。

 しかし、ブンタンを生産しているリさんは楽観的にはなれない。ブンタンが貯蔵庫に積みあがるなか、もし禁輸が解除されない場合、来年は契約業者の30%を解雇しなければならなくなる可能性があると心配している。

 リさんは「正直に言って、誰が台湾を訪問しようが関係ない。米中間の緊張はその2カ国で解決すべきだ。台湾の農業従事者が苦しむのはおかしいと思う」と語った。

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