本誌では、台湾と国交のない国の政治家の台湾訪問が急増していることに注視し、台湾の世界的重要度のバロメーターとしてご紹介しています。日本や米国からの訪問は目新しいことではありませんが、一昨年(2020年)からヨーロッパ各国からの訪問が徐々に多くなっています。
なぜヨーロッパが台湾に注目しはじめたのか。最大の要因は中国です。他民族を根絶させても自国の影響力拡大を企てる覇権主義国家、中国への反発です。
2021年2月25日、ヨーロッパでは初めて、オランダ議会が中国によるウイグル族への弾圧について「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定する動議を可決しました。続いてリトアニア議会も5月20日に、が中国によるウイグル族への弾圧を「ジェノサイド」と認定する決議案を可決しました。人権問題に敏感なヨーロッパならではの反応でした。
北欧三国のエストニア、ラトビア、リトアニアは、ソ連の併合による共産主義やロシア語教育など強制などで民族意識を踏みにじられた苦渋の歴史を有し、そのソ連から独立運動を経て独立国となったのは1990年代初めです。苦渋の歴史は、いまだ人々にはい触れれば血の出る生々しい記憶として残っています。
また、当時のチェコスロバキアも、自由化を進める「プラハの春」改革の最中の1968年8月にソ連が自由化を阻止するため軍事介入して「プラハの春」が潰えた歴史とともに、共産党政権による全体主義体制を倒した1989年の「ビロード革命」を成功させた歴史を有しています。
ソ連によって人権を弾圧された記憶が生々しいリトアニアでは、香港の民主化を支援する市民集会を中国大使館が妨害し、中国人観光客が国民の聖地「十字架の丘」で「香港に自由を」と書かれた十字架を投げ捨てる冒?行為が発覚することなどで、中国への反発心が強くなっていきました。
加えて、投資やインフラ事業が期待したほど実現されていない「一帯一路」経済圏構想への幻滅や、中国の新型コロナウイルスへの初動対応の遅れや情報隠蔽への不信感とも相まって、この反中感情が中国によるウイグル族への弾圧を「ジェノサイド」と認定する決議案の可決につながり、中国中東欧首脳会議(17+1)からの離脱につながっていきます。エストニアとラトビアも「17+1」から離脱しました。
一方、中国から軍事的な脅威にさらされている台湾は、民主、自由、法の支配、人権など基本的価値観を共有でき、新型コロナウイルスでは中国と対照的な徹底した情報公開によって成果を挙げ、半導体をはじめとするサプライチェーンの要として経済的に重要な立ち位置にもあることから、中国よりも戦略的に重要なパートナーという観点に至ったようです。
そのシンボルが、リトアニアの首都ヴィリニュスに事実上の大使館となる代表事務所に「台湾」を冠した「駐リトアニア台湾代表処」(The Taiwanese Representative Office in Lithuania)」を正式に開設したことでした。昨年11月18日のことです。
大使館が双方の国に置かれるように、リトアニアも台湾に代表事務所「リトアニア貿易代表処」(Lithuanian Trade Representative Office)を正式に開設しました。2週間ほど前の11月7日のことです。
台湾の外交部はニュースリリースを発表し「台湾とリトアニアは最前線で覇権主義に立ち向かう緊密なパートナーだ。両国は民主主義や自由などの普遍的価値を共有するだけでなく、コロナ後の景気回復やロシアによるウクライナ侵攻などによってもたらされるさまざまな挑戦と直面している。覇権主義国家は、国際貿易ですら他国を恫喝し、威圧を与えるための道具にする。こうした中、台湾とリトアニアが手を取り合って前進することは、民主主義のパートナーとして支え合う姿を示すと同時に、双方が経済成長を促すための新たな青写真を探し出す助けとなり、世界の民主陣営のために強靭性を持ったサプライチェーンを構築することになるだろう」と述べ、祝福しました。
本日の産経新聞は「主張」で「リトアニア貿易代表処」の正式開設を取り上げて歓迎し、「日本は米国や欧州の友好国とともに、台湾の自由と民主主義を支えるべきである」と、日本が積極的に台湾との関係強化を図るべきと説いています。下記に紹介します。
11月25日に来日したリトアニアのイングリダ・シモニーテ首相は26日に岸田総理と首脳会談を行っています。
この会談では、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促すことが国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素であるという認識や、台湾のWHO総会へのオブザーバー参加を支持することで一致し、「外交当局及び防衛当局の参加を得て新たに日リトアニア安全保障政策対話を立ち上げる」戦略的パートナーシップを結ぶことなどを盛り込んだ共同声明を発表しています。
日本は早急に台湾とも「安全保障政策対話」が立ち上げられることを希求しつつ、下記にリトアニアとの共同声明もご紹介します。
◆日・リトアニア戦略的パートナーシップに関する日本国政府とリトアニア共和国政府との間の共同声明 【2022年11月26日】 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100412173.pdf
—————————————————————————————–台湾とリトアニア 自由と民主主義の連帯だ【産経新聞】2022年11月20日】https://www.sankei.com/article/20221120-FPOTBJFYWZLXXBAVOMD2EBUQS4/
中国の脅威にさらされている台湾に民主主義の連帯を象徴する新たな拠点が正式に開設した。この動きを歓迎したい。
拠点とはバルト三国リトアニアの「リトアニア貿易代表処」で同国の駐台代表機関となる。台湾の外交部は「台湾とリトアニアは権威主義に最前線で立ち向かうパートナーだ」と正式開設を歓迎するメッセージを発表した。
代表処の正式開設が発表された7日には、多数の中国軍機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入した。こうした中国の不当な圧力は到底許されない。
ソ連共産党政権に支配された過酷な経験をもつリトアニアは、民主主義や人権を尊重する「価値の外交」を掲げ、欧州で対中批判の先頭に立っている。昨年11月に台湾はリトアニアの首都ビリニュスに欧州で初めて「台湾」の名称を冠した代表処を開設した。
中国はリトアニアとの外交関係を格下げし、リトアニア産牛肉の輸入を停止する報復措置を取った。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報はリトアニアを「小国」と呼び、「大国との関係を悪化させる行動をとるのは度し難い」と反発したが、皮肉にも今年に入ってからリトアニアに追随する動きが相次いでいる。
リトアニアは昨年5月、中国と中東欧諸国の経済協力枠組みを脱退し、今年はエストニア、ラトビアが続いた。チェコでも下院外交委員会が枠組みからの離脱を政府に要求している。背景にはウクライナに侵略したロシアと友好関係を維持し、侵略を非難しない中国への失望と不信がある。
中国離れといえるこれらの動きが、欧州連合(EU)の対中政策に影響を及ぼさないわけがない。一方で、中国は経済力を盾に、ドイツなど親中的傾向のある国へ接近して欧州分断をしかけてくる恐れがある。警戒が必要だ。
リトアニアは日本にとっても心強いパートナーだ。岸田文雄首相は先月、来日したリトアニアのシモニテ首相と会談し、両国の外交・防衛当局が参加する安全保障対話の創設で一致した。両首脳は、台湾海峡の平和と安定の重要性も確認した。
台湾が「明日のウクライナ」になれば、日本の平和も脅かされる。日本は米国や欧州の友好国とともに、台湾の自由と民主主義を支えるべきである。
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