ポンペオ国務長官らトランプ政権の高官4人が立て続けに転換した中国政策を表明

 米国の連邦議会には5月から6月にかけ、立て続けに台湾や中国に関わる法案として「COVID-19責任法案」「南シナ海・東シナ海制裁法案」「台湾防衛法案」などが提出されている。7月2日には、上下両院で可決された「香港自治法案」にトランプ大統領が署名して成立させている。

 この間を縫うように、トランプ政権の高官4人がそれぞれの立場から中国政策について講演会などを通じて表明しいている。

まず、ロバート・オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)が6月24日に口火を切り、アリゾナ州フェニックスでの経済会合で「中国共産党のイデオロギーと世界的野望」と題した対中政策演説を行い、「中華人民共和国に対して受け身で甘い考えを抱いていた時代は終わった」などと述べた。次に7月7日、クリストファー・レイ連邦捜査局(FBI)長官がハドソン研究所において中国のスパイ活動の実態を明らかにしている。

 3人目はウィリアム・バー司法長官で、7月16日にミシガン州のジェラルド・R・フォード大統領博物館で演説し、中国の意向に協力的なディズニーなどの企業がリベラルな世界秩序を損なう恐れがあると批判。

 最後に登場したのはマイク・ポンペオ国務長官で、7月23日、カリフォルニア州のリチャード・ニクソン大統領図書館・博物館で「共産主義の中国と自由世界の未来」をテーマに講演。習近平国家主席を「破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ」と呼び、中国が「米国の大学や研究機関、記者会見などに宣伝要員を送り、米国の自由で開かれた社会を利用した」と述べるとともに「中国人は、活力に溢れ、自由を愛する民族だ。中国国民は中国共産党と全く違う」と指摘し、米国の対中政策は失敗に終わったと総括的に述べた。また、この演説で「国務省は中国のスパイと知的財産を盗む拠点であるヒューストンにある中国の総領事館を閉鎖する」とも表明した。

 このように、オブライエン大統領補佐官、レイ連邦捜査局長官、バー司法長官、ポンペオ国務長官が立て続けに米国の中国政策について明らかにした。連邦議会もトランプ政権も足並はそろっている。

 もちろん、11月の大統領選を控えているという背景はあるにしても、トランプ氏が大統領に就任して以降の政権は、覇権的に台頭する中国を「主要脅威」とみなし、「インド太平洋地域での覇権を狙い、将来的に米国に変わって世界で優位に立とうとしている」(2018年1月19日発表「国家防衛戦略」)という認識に変わりはない。

 この認識の下に、トランプ政権は2017年6月以来、台湾に「Mk-48Mod6型高性能重魚雷」やSM2艦対空ミサイル部品、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」250発と「M1A2エイブラムス戦車」108輛、F16V戦闘機66機、「Mk-48Mod6型高性能重魚雷」18発とその関連部品などの武器売却を決定し、今年の7月9日には地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を更新するための関連装備の売却も決めている。

 台湾側には当初、米国は台湾を中国との取引カードとして使われるのではないかとの懸念の声もあったが、今はそのような声はまったくない。米国が本気で台湾を支援していることを知ったからだ。

 それに加え、ペンス副大統領は2018年10月4日、ハドソン研究所の演説において米国の中国政策の転換を宣し「歴代政権は中国の行動をほとんど無視してきました。そして、多くの場合、中国に有利に導いてきました。しかし、そうした日々は終わりです」と述べた。

 さらに、ペンス副大統領は翌2019年10月24日、ウィルソン・センター主催で行われた演説「米中関係の将来」では、明確に「米国はもはや、経済的関与だけでは中国共産党の権威主義的体制を自由で開かれた社会に転換できるとは期待していない」と述べ、中国共産党政権への決別宣言ともいうべき演説で、米国が中国政策を転換したことを明らかにした。

 今回のポンペオ国務長官の演説もこのペンス副大統領の演説を踏襲、歴代米政権がとってきた、中国が経済的に発展すれば民主化が促進され、国際社会の一員として責任ある振る舞いをするとの幻想は抱いていないとの立場を改めて示す演説となっていて、「中国共産党から我々の自由を守ることは現代の使命だ」と明言した。

 すでに米国は中国と戦争を始めている。冷戦ではない。実際に武力を交えるかどうかは今後の展開に関わるが、これが現代の新しい戦争のかたちなのだろう。

 ポンペオ国務長官の演説要旨を日本経済新聞がまとめている。下記に紹介したい。

—————————————————————————————–「共産主義の中国 変えなければ」米国務長官の演説要旨【日本経済新聞:2020年7月24日】https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61896140U0A720C2000000/

 ポンペオ米国務長官の中国に関する演説の要旨は次の通り。

 中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。我々はそうした政策を継続してはならない。戻ってはならない。自由世界はこの新たな圧政に勝利しなくてはならない。

 米国や他の自由主義諸国の政策は中国の後退する経済をよみがえらせたが、中国政府はそれを助けた国際社会の手にかみついただけだった。中国に特別な経済待遇を与えたが、中国共産党は西側諸国の企業を受け入れる対価として人権侵害に口をつぐむよう強要しただけだった。

 中国は貴重な知的財産や貿易機密を盗んだ。米国からサプライチェーンを吸い取り、奴隷労働の要素を加えた。世界の主要航路は国際通商にとって安全でなくなった。

 ニクソン元大統領はかつて、中国共産党に世界を開いたことで「フランケンシュタインを作ってしまったのではないかと心配している」と語ったことがある。なんと先見の明があったことか。

 今日の中国は国内でより独裁主義的となり、海外ではより攻撃的に自由への敵意をむき出しにしている。トランプ大統領は言ってきた。「もうたくさんだ」と。

 対話は続ける。しかし最近の対話は違う。私は最近、ハワイで楊潔●(ヤン・ジエチー中国共産党政治局員)と会った。言葉ばかりで中国の態度を変える提案はない、相変わらずの内容だった。楊の約束は空っぽだった。彼は私が要求に屈すると考えていた。私は屈しなかった。トランプ大統領も屈しない。(●=竹冠、雁垂れに虎)

 (中国共産党の)習近平総書記は、破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ。中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴付けているのはこのイデオロギーだ。我々は、両国間の根本的な政治的、イデオロギーの違いをもはや無視することはできない。

 レーガン元大統領は「信頼せよ、しかし確かめよ」(trust but verify)の原則にそってソ連に対処した。中国共産党に関していうなら「信頼するな、そして確かめよ」(Distrust and verify)になる。

 世界の自由国家は、より創造的かつ断固とした方法で中国共産党の態度を変えさせなくてはならない。中国政府の行動は我々の国民と繁栄を脅かしているからだ。

 この形の中国を他国と同じような普通の国として扱うことはできない。中国との貿易は、普通の法に従う国との貿易とは違う。中国政府は、国際合意を提案や世界支配へのルートとみなしている。中国の学生や従業員の全てが普通の学生や労働者ではないことが分かっている。中国共産党やその代理の利益のために知識を集めている者がいる。司法省などはこうした犯罪を精力的に罰してきた。

 今週、我々は(テキサス州)ヒューストンの中国領事館を閉鎖した。スパイ活動と知的財産窃盗の拠点だったからだ。南シナ海での中国の国際法順守に関し、8年間の(前政権の)侮辱に甘んじる方針を転換した。国務省はあらゆるレベルで中国側に公正さと互恵主義を要求してきた。

 現時点では我々と共に立ち上がる勇気がない国もあるのは事実だ。ある北大西洋条約機構(NATO)同盟国は、中国政府が市場へのアクセスを制限することを恐れて香港の自由のために立ち上がらない。

 過去の同じ過ちを繰り返さないようにしよう。中国の挑戦に向き合うには、欧州、アフリカ、南米、とくにインド太平洋地域の民主主義国家の尽力が必要になる。

 いま行動しなければ、中国共産党はいずれ我々の自由を侵食し、自由な社会が築いてきた規則に基づく秩序を転覆させる。1国でこの難題に取り組むことはできない。国連やNATO、主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)、私たちの経済、外交、軍事の力を適切に組み合わせれば、この脅威に十分対処できる。

 志を同じくする国々の新たな集団、民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだろう。自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。

 中国共産党から我々の自由を守ることは現代の使命だ。米国は建国の理念により、それを導く申し分のない立場にある。ニクソンは1967年に「中国が変わらなければ、世界は安全にはならない」と記した。危険は明確だ。自由世界は対処しなければならない。過去に戻ることは決してできない。(ワシントン=芦塚智子)

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