米議会の「南シナ海・東シナ海制裁法案」を下院議員の政策提言報告書が支持

 これまで米国の連邦議会は積極的に台湾との関係強化を図る「台湾旅行法」(2018年3月16日)やアジア再保証イニシアチブ(促進)法」(2018年12月31日)、台北法こと「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ2019年法」(2020年3月26日)といった法案を可決し、トランプ大統領が署名することによって成立させてきた。

 最近は、「香港人権・民主主義法案」を可決し、トランプ大統領の署名によって2019年10月27日に成立しているように、中国が弾圧を続けるチベットに関しては「チベット相互入国法案」や「チベットに関する政策と支援のための法律案」、新疆ウイグルに関しては「ウイグル人権法案」を可決し、弾圧を続ける中国へ制裁を科す法案を可決してきた。

 さらに、昨年5月には上院に「南シナ海・東シナ海制裁法案」が提出され、翌6月には下院に同様の法案が提出されたことを受け、このほど下院の共和党議員13人による「政策提言報告書」が発表されたという。

 産経新聞ワシントン駐在客員特派員で麗澤大学特別教授は、この報告書では「南シナ海と東シナ海における中国の軍事志向の膨張は、国際合意にも、地域の安定にも、米国やその同盟諸国の国益にも反する危険な動きであると断じている」と伝えるとともに、法案は「中国に対する経済制裁措置の実行を米国政府に義務付けようとしている。つまり、米国は尖閣諸島に対する中国の領有権も施政権も否定するということだ。米国政府は、中国当局の東シナ海での行動は、米国の規準でも国際的な基準でも不当だとする見解をとり、従来の『他の諸外国の領有権紛争には立場をとらない』という方針を変更することになる」と指摘している。

 米国は沖縄とともに尖閣諸島を日本に返還したが、これまで尖閣諸島における日本の施政権は認めてきたものの領有権には言及していない。日本と中国の領有権争いに巻き込まれたくないためだったと言われる。

 しかし、中国の覇権的行動が著しい東シナ海状勢に鑑み、一歩踏み込んで、1992年2月制定の領海法において尖閣諸島を自国の領土とし、核心的利益と位置づけた中国の主張を真っ向から否定する法案を提出したことになる。

 台湾も尖閣諸島の領有権を主張しているが、李登輝元総統がすでに何度も指摘しているように、台湾に正当性はない。加えて、台湾自身が日本の領土であると証明する資料をいくつも呈している。

 実は、中国の尖閣領有についての主張は簡単な三段論法で、台湾は中国の領土、尖閣は台湾の領土、ゆえに尖閣諸島は中国の領土というに過ぎない。このような中国の主張を真っ向から否定する法案を米国の上下両院が審議しようとしている。連邦議会での審議を見守りたい。

—————————————————————————————–古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)米国議会、中国の「尖閣領有権」主張を完全否定 超党派議員が提出した「南シナ海・東シナ海制裁法案」とは【JBpress:2020年6月24日】https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61026

「日本の尖閣諸島への中国の領有権を認めてはならない」「中国の尖閣海域への侵入には制裁を加えるべきだ」──こんな強硬な見解が米国議会で超党派の主張として改めて注目され始めた。

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)に関して、これまで米国政府は「領有権の争いには中立を保つ」という立場を保ってきた。だが、中国が米国にとって最大の脅威となったことで、東シナ海での膨張も米国は阻止すべきだとする意見が米国議会で広まってきた。しかも、その意見が上下両院での具体的な法案として打ち出されている。

 現在、尖閣海域には中国の武装艦艇が連日侵入し、日本が尖閣諸島を喪失することさえも懸念される。そうした状況のなかでこの米国議会の主張は日本にとって大きな支援材料となりそうだ。

◆中国の領有権主張を明確に否定

 中国の尖閣諸島領有の主張に対する明確な反対は、6月中旬にワシントンで公表された連邦議会下院の共和党議員13人による政策提言報告書で改めて強調された。

 13人の議員は「下院共和党研究委員会・国家安全保障と外交問題に関する作業グループ」を形成し、「アメリカを強化してグローバルな脅威に対抗する」という報告書を作成した。この報告書は、米国主導の既存の国際秩序を侵食し破壊しようとする脅威として中国、ロシア、イランなどの動向を分析している。

 120ページほどの報告書のなかで、最も多くの部分は中国の脅威について記されていた。南シナ海と東シナ海における中国の軍事志向の膨張は、国際合意にも、地域の安定にも、米国やその同盟諸国の国益にも反する危険な動きであると断じている。そして、日本が領有権を宣言し施政権を保有する尖閣諸島に対する中国の攻勢についても、「平和と安定を脅かす」として反対を表明し、中国の領有権主張を否定する立場を明確にした。

 また同報告書で注目されるのは、「南シナ海・東シナ海制裁法案」への支持を打ち出していることだ。

 2019年5月に、ミット・ロムニー(共和党)、マルコ・ルビオ(共和党)、ティム・ケイン(民主党)、ベン・カーディン(民主党)など超党派の14議員が「南シナ海・東シナ海制裁法案」を上院に提出した。6月には、下院のマイク・ギャラガー議員(共和党)とジミー・パネッタ議員(民主党)が同じ法案を下院本会議に提出した。今回の下院共和党研究委員会の報告書は、その法案に米国議会の立場が表明されているとして、法案への支持を明確にした。

 なお上院でも下院でも法案は関連の委員会に付託されたが、まだ本格的な審議は始まっていない。今回、下院共和党研究委員会は改めてこの法案の重要性を提起して、その趣旨への賛同と同法案の可決を促したのである。

 今回、新たな光を浴びた「南シナ海・東シナ海制裁法案」の骨子は以下のとおりである。

・中国の南シナ海と東シナ海での軍事攻勢と膨張は、国際的な合意や規範に違反する不当な行動であり、関係 諸国を軍事的、経済的、政治的に威嚇している。

・中国は、日本が施政権を保持する尖閣諸島への領有権を主張して、軍事がらみの侵略的な侵入を続けている。 この動きは東シナ海の平和と安定を崩す行動であり、米国は反対する。

・米国政府は、南シナ海、東シナ海でのこうした不当な活動に加わる中国側の組織や個人に制裁を科す。その 制裁は、それら組織や個人の米国内での資産の没収や凍結、さらには米国への入国の禁止を主体とする。

 同法案は、中国に対する経済制裁措置の実行を米国政府に義務付けようとしている。つまり、米国は尖閣諸島に対する中国の領有権も施政権も否定するということだ。米国政府は、中国当局の東シナ海での行動は、米国の規準でも国際的な基準でも不当だとする見解をとり、従来の「他の諸外国の領有権紛争には立場をとらない」という方針を変更することになる。

◆日本にとって有力な支援材料に

 法案はまだ提出された段階に過ぎない。とはいえ法案が提出されたこと自体が、共和、民主両党の有力議員たちが、尖閣諸島に対する中国の攻勢を「平和と安定を崩す不当な活動」と断じ、日本側の年来の主張への支持を表明したことを意味する。日本政府にとって、こうした米国議会の動きは、現在の“国難”とも言える深刻な尖閣情勢に対する有力な支援材料となりうるだろう。

 上院で同法案を提出した議員の1人、マルコ・ルビオ氏は、法案の趣旨に関連して「南シナ海と東シナ海で露骨に国際規範に違反する中国政府の動きを、米国としてはもう放置できない。具体的な経済制裁を打ち出したこの法案は、違反した側の責任を米国が真剣に追及することを明示している。米国が『自由で開かれたインド太平洋』の保持のために『航行の自由』作戦を強化している面からみても、この法案は時宜を得ている」と言明した。

 民主党のベン・カーディン上院議員も同法案について、「中国は南シナ海、東シナ海の両方で、隣接する諸国の海域に侵入し、威嚇を続けている。そんな侵略的な行動は阻止しなければならない。米国は航行の自由を守り、紛争は国際法に従い、平和的、外交的な解決を図ることを求める」と説明した。

 いずれも、尖閣諸島への中国の領有権、主権を否定する米国議会の有力議員たちの言明として注目される。

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