パンデミック! 青年医師・後藤新平と伝染病の遭遇  加藤 秀彦(日台若手交流会代表)

 今般の武漢肺炎では、改めて陸軍次官・児玉源太郎と後藤新平が日清戦争後に凱旋してきた23万人にのぼる兵士の検疫に成功したことに注目が集まっています。

 本誌でも、渡辺利夫氏が産経新聞「正論」欄に寄稿した「緊急事態への対処 明治の教訓」(3月19日)を紹介し、昨日もジャーナリストの井上和彦氏が同じく産経新聞「正論」欄に寄稿した「台湾のコロナ対策と後藤の遺訓」を紹介しました。

 渡辺氏は「3つの離島の検疫所で罹患が証明された兵士の数は、真性コレラ369人、擬似コレラ313人、腸チフス126人、赤痢179人であった。この数の罹患者が検疫なくして国内各地に帰還していった場合に想定される事態の深刻さはいかばかりのものであったか」と感慨深く述べていました。

 井上氏も「後藤は、病院や予防消毒事業団を設立し、公医制度を設け各地に診療所を配置したほか、上下水道を整備して衛生環境を改善した。とりわけ手洗いやうがいの励行、布団を干して叩(たた)くといった公衆衛生観念の普及は効果的だった。こうして次々と疫病が駆逐され、近代化の基礎が築かれていったのである」と、後藤の施策を具体的に紹介しています。

◆渡辺利夫:緊急事態への対処 明治の教訓 【産経新聞「正論」:2020年3月19日】  https://special.sankei.com/f/seiron/article/20200319/0001.html

◆井上和彦:台湾のコロナ対策と後藤の遺訓 【産経新聞「正論」:2020年4月6日】 https://special.sankei.com/f/seiron/article/20200406/0001.html

 産経新聞ではすでに論説委員で元台北支局長の河崎眞澄氏が2月21日付で「検疫指揮の『後藤新平はいないのか』台湾で揺らぐ『日本神話』」を掲載、李登輝元総統の2007年の日本での講演「後藤新平と私」について言及し、「『悪疫流行の根絶』を台湾での後藤新平の功績のひとつとたたえ」、また李氏が後藤を「台湾の恩人だ」と公言していることなどを紹介しています。

◆河崎眞澄:検疫指揮の「後藤新平はいないのか」 台湾で揺らぐ「日本神話」 【産経新聞:2月21日】 https://special.sankei.com/a/international/article/20200221/0001.html

 さらに、日本政策研究センター代表の伊藤哲夫氏も、月刊「明日への選択」4月号で「後藤新平・奇跡のミッション」と題し、児玉源太郎と後藤新平がそれまで世界のどの国もやったことのない一大事業、すなわち、日清戦争後に凱旋してきた23万人にのぼる軍人の検疫にどのように取り組んだかを詳しく論じています。

 読み応えのある論考で、この児玉・後藤のコンビが総督と民政長官として台湾に赴き、台湾を近代化に導いた原点がこの防疫という一大事業にあったことを明かしています。

◆伊藤哲夫:後藤新平・奇跡のミッション 【月刊「明日への選択」4月号:2020年4月1日】 http://www.seisaku-center.net/monthly

 前置きが長くなりました。

 現在の岩手県奥州市水沢区ぬ生まれた後藤新平は、福島県の須賀川医学校を卒業した後、19歳のとき、名古屋大学医学部の前身にあたる愛知医学校の三等医として医師のキャリアをスタートさせています。その後、外科医として腕を上げ、明治14年(1881年)には24歳にして愛知医学校の学校長兼病院長に就いています。

 病院長時代の明治15年(1882年)4月、岐阜で遊説中に暴漢に刺されて負傷した板垣退助を診察したことはよく知られたエピソードです。

 実は、名古屋在住で日台若手交流会代表をつとめ、本会理事と青年部長も兼ねる加藤秀彦氏は、この地の利を活かし、名古屋時代の後藤新平の軌跡を追い、関係写真をたくさん掲載して、自らのブログにアップしています。

 日清戦争後の大検疫の前に、西南戦争のときに大流行していたコレラへの対応をしていた後藤のことにも言及していて、大検疫に成功した陰にはそういう経験があったことを知らしめています。

 加藤氏は、このコレラは今回の武漢肺炎と同じく、1877年(明治10)年8月、西南戦争のさ中に「中国大陸から長崎へ流入」したことを記しています。

 また、この愛知医学校を卒業した一人に、「台湾台中市の観光名所・宮原眼科の宮原武熊医師」のことや、「恩賜の煙草」の起源などにも触れていています。ぜひお目通しください。

◆加藤秀彦:パンデミック! 青年医師・後藤新平と伝染病の遭遇 【加藤秀彦 公式サイト:2020年4月5日】 https://kato-hidehiko.asia/young-doctor-goto-shinpei/

────────────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。