やっぱり親中派が後押しした頼清徳の勝利  黄 文雄(文明史家)

黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2024年1月17日号】 https://www.mag2.com/m/0001617134*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付けたことをお断りします。

◆鍵となる台湾民衆党の動き

 台湾総統選挙は、民進党の頼清徳副総統が558万5019票を獲得し、2位の国民党・侯友宜の467万1021票に約90万票の差をつけて、次期総統の座を得ることができました。

 1996年に総統選の直接選挙が導入されてから、同一政党が3期連続で政権を担うのは初めてのことです。頼清徳は5月20日に総統に就任します。

 ただ、今回同時に行われた立法院選挙では、民進党は51議席と過半数の57議席を取ることができなかった一方、国民党52議席と、ねじれ状態となっており、今後の政権運営には困難が予想されています。

 今回の選挙で予想外の大健闘を果たしたのが、第3勢力である民衆党の柯文哲候補でした。得票率が頼清徳40.5%、侯友宜33.49%だったのに対して、柯文哲は26,46%の369万466票。これは今後のさらなる飛躍が期待できる数字だったといっていいでしょう。

 一方、民進党は2016年選挙では56.12%、2020年選挙では57.13%といずれも5割を超える得票率でしたが、今回は40.05%にとどまったかたちです。

 頼清徳は、今回、中国による情報操作がひどかったと述べました。

 たとえば台湾の人気バンドである「五月天」は、中国の国家ラジオテレビ総局から中国を支持する意見を表明するよう求められ、五月天が拒否したところ、中国当局が11月に上海で開いたコンサートに「口パク」疑惑があるとして、調査対象になったことを発表しました。

 要するに、要求を断った嫌がらせです。

 もっとも、選挙直前に国民党・馬英九元総統が外国メディアに対して、「習近平を信用しなければならない」「統一は受け入れられる」などと発言、これがきっかけで国民党から票が逃げたと言われています。侯友宜候補もわざわざ「(馬英九の考えに対して)私は違う」とコメントするなど、火消しに追われていました。

 ただ、その逃げた票は民進党ではなく民衆党に向かったようです。というのも、現在の台湾は新型コロナの影響で景気が悪く、とくに若者の失業率が高いため、若者の票が政権与党の民進党ではなく、民衆党に流れたと見られているからです。

 いずれにせよ、頼清徳新総統は、今後、難しい舵取りを迫られることになります。鍵となるのは、民衆党の動きでしょう。国民党も立法院で単独過半数を持っていません。民衆党を味方につけたほうが、過半数を握れることになるわけです。

◆ナウルとフィリピンの相反する対応

 そんな矢先、南太平洋の島国ナウルが、1月15日、中国と国交を結び、台湾と断交しました。あきらかに、総統選挙の結果に対する、中国のいやがらせでしょう。

 ただ、ナウルは2002年にも台湾と断交しています。その後、2005年に国交回復しているのです。要するに、金や支援によって、中国についたり台湾についたりしてきたわけです。今回の断交にしても、いつ手のひらを返すかわかったものではありません。この点については、後述します。

 その一方で、フィリピンのフェルディナンド・マルコスjr大統領が頼清徳に対して異例の祝辞を送りました。マルコス大統領はSNSの「X」に「フィリピン国民を代表して、ライ氏が台湾の次期総統に当選したことを祝福したい」「今後数年間、共通の利益を強化し、平和を促進し、国民の繁栄を確保するために緊密に協力することを楽しみにしている」と述べました。

 このようなメッセージをフィリピンの大統領が台湾総統に送るのは珍しいことで、その背景には、南シナ海における中国とフィリピンの対立があるのでしょう。南シナ海で一方的に領有権を主張し、実効支配を続ける中国に対し、同じ民主主義国として、連携する必要がますます高まっているからです。

 今回の台湾選挙は、ある意味、中国の介入を受けながらも、民主主義を守るための選挙でもあったと言えるでしょう。

◆頼清徳当選に焦る中国

 前述したように、台湾総統選挙は絶妙民進党の頼清徳氏が当選しましたが、議会は民進党か過半数を得ることができず、民進党、国民党、民衆党が絶妙なバランスで議席を埋めるという結果となりました。この結果を受けて中国がさっそく様々な嫌がらせを仕掛けてきています。

 ひとつは太平洋上の小さな島国ナウルが台湾と断交し中国と国交を樹立すると発表したことです。ナウル共和国は東京の品川区とほぼ同じ広さで、かつて主要輸出品だったリン鉱石が枯渇し、現在は経済的に逼迫状態にあるということです。

 そのため、経済援助をしてくれる国ならどこでも尻尾を振ってついていくような状態です。その証拠に、かつてもナウル共和国は中国からの経済援助を理由に台湾と断交しています。それについては、以下、報道を一部引用します。

<ナウルは中台の間で揺れ動いてきた。台湾当局によれば、1980年に台湾と外交関係を結んだが、2002年に島嶼部での影響力を強める中国に乗り換えた。05年に台湾と外交関係を回復したものの、財政は逼迫(ひっぱく)しており、次期総統となる頼清徳副総統を揺さぶるカードとして中国が目を付けたとみられる。>

 このことについて、台湾の外交坊は「『ナウル側が莫大な経済援助を求めてきて中国側の提示額と比較していた』と明らかにしました。そのうえで『中国がナウルを金で誘惑した』と非難しました。また、断交発表のタイミングは台湾総統選挙にあわせたもので『台湾の民主主義を弾圧することを狙った』と指摘しました。」

 エジプトを訪問中の中国の王毅政治局委員兼外相は、わざわざ以下のようなコメントを出しました。

〈王毅外相は「選挙結果がどうであれ、世界に中国はひとつしかなく、台湾は中国の一部であるという基本的事実を変えられない」と訪問先のエジブトで述べ、「台湾独立は過去にも未来にも、決してなしえない」と中国政府の立場を強調した。〉

 中国がこれほど焦っているのには訳があります。選挙の翌々日に、アメリカの高官がプライベートとの名の元に台湾を訪問し、頼清徳氏に祝意を述べたのです。以下、報道を一部引用します。

<台湾の各新聞の朝刊はどれも1面で、アメリカ政府の元高官が早くも台湾を訪れたと報じており、台湾の人たちの関心の高さがうかがえる。

 アメリカのスタインバーグ元国務副長官とハドリー元大統領補佐官は15日朝、さっそく民進党本部を訪れ、頼清徳氏に直接、総統選挙当選への祝福の言葉を伝えた。

 頼氏は「アメリカはずっと台湾を応援し続けて欲しい。台湾とアメリカは様々な分野で協力を深めたい」と、アメリカとの関係強化を進める方針を改めて示した。>

◆新たな変異ウイルス「JN.1」増加を傍観する迷惑な隣人

 そして、このようなニュースが世界を騒がしているうちに、2月上旬に中国は春節を迎えます。

 少子化のために人口が減少しているとはいえ、中国はいまなお人口大国です。今年の春節はのべ90憶人の大移動があるとも言われています。彼らの移動先は国内はもちろん、日本、韓国、東南アジアなど幅広く、中でも日本は人気の旅行先との報道もあります。

 それに付随して、こんな恐ろしい報道もあるのです。

<中国疾病予防管理センターは14日の記者会見で、年明け以降の新型コロナの感染状況について、病院での陽性率が1%以下で「低いレベルにとどまっている」との分析を示しました。

 一方、世界で感染が広がっている新たな変異ウイルス「JN.1」については、「増加傾向を示している」と指摘しています。

 そのうえで、「JN.1」が継続的に中国に流入するほか、集団免疫力の低下など、複数の要因によって「新型コロナの感染が今月、再び拡大する可能性があり、JN.1が中国における主流な変異ウイルスになる」との見通しを示しました。

 中国では来月10日から旧正月「春節」の大型連休を控えていて、中国疾病予防管理センターは「大規模な人の移動や集まりによって、呼吸器疾患の蔓延が加速する可能性がある」と指摘しています。>

 すでに日本でもこのウイルスは徐々に拡大しているとの報道もあります。

 これに対して、中国側は何の説明もなく、何の対策もありません。本当に中国というのは迷惑な隣人です。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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