*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。
◆真の日台共栄を願う者にとっては警戒すべき集団
「台湾民政府」の胡散臭さについては、早々から心あるメディアによって注意喚起されてきました。「台湾民政府」とは、2008年、以下のような定義で組織された団体です。
「現時点の『台湾法的地位』は『日属米占』である。つまり『台湾の領土主権は日本天皇に属し、主要占領権国の米軍事政府の占領下にある』とのことだ。そして亡命政府となった中華民国に不法占領されている。」
台湾はいまだ天皇領だと主張して訪日・靖國神社参拝をしたかといえば、「日本から主権を取り戻し、アメリカの占領下から脱することで台湾の独立を勝ち取ろう」という大義名分も掲げるなど、要するに主張は支離滅裂です。
日本はサンフランシスコ講和条約で台湾の主権を放棄しました。しかし、その後の台湾の帰属先は決められませんでした。それが「台湾地位未定説」であり、台湾の主権は台湾住民によって決められるべきだという台湾人の主張の事実的根拠であるとともに、中国の主張する「台湾は中国の一部」を論破するための事実でもあるのです。
しかし、この「台湾民政府」の主張は、一見すると台湾独立を主張するかに見せて、台湾をいまだ天皇領と定義するなど、その主張はデタラメばかりです。日本の皇室を利用したり、とんでもない主張をする詐欺グループであり、真の日台の共栄を願う者にとっては、むしろ警戒すべき集団なのです。
同団体は、設立後から台湾民政府の名のもとに会員を集め、独自の身分証や車のナンバープレートなどの販売、幹部講習と称した有料講習会の開催など、何かと会員から集金するシステムが確立されていました。
その台湾民政府が、ついに詐欺集団だということで幹部たちが逮捕されるに至ったのです。幹部逮捕の報道がなされてから、台湾のワイドショーはこの話題でもちきりで、これは台湾独立を謳った詐欺であり、台湾独立というのは詐欺の口実としてじつに便利だとのコメントも出ています。
◆許せない台湾独立を利用した詐取行為
台湾民政府の主催者は林志昇という人物で、2006年に高雄市長選に立候補するも最下位で落選。その後、自身を高雄州州長と名乗り、台湾民政府を設立しました。台湾民政府はクチコミで会員を拡大し、幹部逮捕時の会員数は3万6000人でした。逮捕時の様子については、以下報道を引用します。
「台湾の日本復帰などを主張する組織『台湾民政府』がもうけ話をえさにマルチ商法まがいの方法で資金集めをしているとして、桃園地検は10日、台湾民政府中央会館(桃園市)や幹部7人の自宅を家宅捜索した。検察は同組織を『政治ねずみ講』と形容している。
台湾民政府は、台湾の事実上の主権は日本の天皇が有しており、架空の『米国軍政府』に台湾が将来的に接収されると主張。2008年の発足以来、『将来は政務官になれる』など巧みな言葉によって、同組織が発行する身分証や自動車のナンバープレート、車検証などを販売していた。同組織は、台湾民政府の身分証があれば、米国にビザなしで入国できると触れ回っていた。
検察は市民による検挙を受け、台湾全土の被害者110人余りに聞き取りを行ったほか、外交部(外務省)を通じて米国に問い合わせたところ、台湾民政府が宣伝していた内容が全て虚偽だったことが判明。政治的な話術でカモフラージュされた『政治犯罪』だと判断した。
家宅捜索では現金1億3000万台湾元(約4億7800万円)と外貨、会員名簿、エアガン9丁、多数の警棒などが見つかった。会員は3万6000人に上り、少なくとも3億元(約11億円)を不正に得ていたとみられる。
検察は詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で創設者の林志昇容疑者や幹部ら計7人の身柄を拘束した。」
家宅捜索によって、幹部が住む豪邸から大量の現金が発見されました。ある程度の量で束ねられた大量の現金は、ブランドバッグに無造作に入っていたとの報道もあります。
幹部は豪邸に住み、贅沢な暮らしをしている一方で、その現金はどこから来たのかと言うと、台湾独立を志す会員の人々からでした。日本でも、2015年前後からこの団体のことはネットで話題になっており、一体どんな団体なのかと噂になっていました。
ある日本のネットユーザーは、台湾民政府は危険な詐欺集団であり、彼らの実態を知らずにその活動に加担して指示する日本人は、あまりに無知であり、無知は罪である、といったコメントも出していました。「台湾の声」というメーリングリストでは、2013年4月に「『台湾民政府』林志昇カルト集団に注意!」と題した警告文も発しています。
もちろん、彼らが発行する身分証も車のナンバープレートも法的には効力がありません。それでも、会員をその気にさせお金を出させるほどの巧みな話術を持っていたのが林志昇なのでしょう。台湾のメディアでは、彼らのことを「政治的ネズミ講」と呼んでいます。
彼らの危険性と詐欺性については、私の周囲では周知の事実でしたが、一般的にはあまり知られていなかったのかもしれません。私が彼らに対して憤りを感じるのは、台湾独立を利用したことに尽きます。
私は、人生のほとんどを台湾独立のために費やしてきました。若い頃から私のような「台独分子」が活動してこられたのは、我々をあらゆる面で支持してくれた方々がいたからです。それは、人脈面や金銭面などあらゆる面で、様々な方に支えられてきました。
その後、私も日本で多少なりとも稼げるようになってからは、これまで我々を支えてくれた方々への恩返しという意味も込めて、台湾独立のために活動する人々を支援する活動を、引き継いでやってきました。私が今もあちこちに寄付するのはそのためです。この気持は、私と同世代を生きてきた仲間たちに共通するものであり、志高く、仲間を尊重し、互いに支え合おうという気概です。
ところが台湾民政府は、台湾独立を謳いながら、自分たちの会員を増やすために、同じ台湾独立を志す団体を非難し排除してきたのです。さらには、善意の人々を金銭詐取という手段で裏切り続け、私利私欲を肥やしてきたのです。
台湾独立を利用しての詐取行為、本当に許せません。かなり以前から彼らの悪徳的行為は指摘されてきながらも、今に至るまで放置してきた台湾の警察にも責任の一端はあるでしょう。騙された方々に少しでもお金が戻り、この詐欺集団が根絶することを望みます
◆日本の「政治ネズミ講」支持者は今後どのような動きを見せるのか
国民党による台湾政治を、私は「70年に及ぶ華僑王国」と呼んでいます。それは、華僑が南洋各地で何度も政権を樹立し、南洋植民地の「番頭」として南洋諸国(東南アジア諸国)の仏教徒やイスラム教徒を喰い物にしてきたことを連想して名付けました。
中国人は政治的な人種で、人を支配する手法はかなり巧みです。例えば、特務を隅々まで派遣し、学校や民間団体のほか刑務所にまでも派遣します。私は、国民党のスパイ活動について、マスメディア関係の友人から詳しく聞いたことがありました。
国民党政権は、7つの系列の異なる即無組織によって成り立っており、相手を牽制しあいます。彼らの活動費は月に5万円から80万円ほどです。給料は米ドルですが、いわゆる「小報告」の実績によって報酬の金額が変ってきます。
もちろん、偽ドルやピンハネはよくあります。台湾の司法は、国民党によって牛耳られているため「特務、司法、公安関係者」はかなり強く、彼らが罪に問われることはほとんどありません。しかし、まずはこうした影の存在が台湾にはまだまだあるということを、多くの皆さんに知ってもらうことが重要なのです。
私は、日本に来てから50数年の間に3度ほど東京地裁に足を運んだことがあります。60年代に2度足を運んだのは、友人の国籍訴訟をめぐる傍聴でした。3度目は、「台湾民政府」をめぐる名誉毀損訴訟の証人喚問で、証人としての出廷でした。
台湾民政府が日本に進出するにあたり、日本の多くの保守系の方々の支持を得ました。しかし、その台湾民政府は台湾の検察から詐欺集団として家宅捜索を受ける「政治ネズミ講」でした。これを知った日本側の支持者たちは、今後どのような動きを見せるのか、私はむしろそちらへの関心のほうが強いです。
台湾民政府の活動については、台湾独立建国連盟本部から何度も連絡があり、「ネット作戦」で勧誘している詐欺集団がいるから関係者は要注意だという忠告を何度も受けました。
かつて、司法大臣をしていた大学の友人に、日本の法定で台湾民政府の活動についての性格などを証人として証言したらどうなるのかを、直接相談したこともありました。
彼らのしていることが、法廷の場で「真相究明」されれば、彼らに利用されてきた日本の方々も少なくないことがわかるのではないでしょう。また、今回の逮捕劇の裏には、蔡政権も関係あるのではないかと思っています。蔡政権になってから、彼らの活動の基盤が不安定になったことで、司法当局が動き出すことができたと推測できるからです。