閣問題をめぐって「中国と連携しない」「中国との共闘はありえない」と表明したこと
は、すでに本誌で紹介してきたが、産経新聞が「事実上『政治対話の拒否宣言』ともいえ
る内容だった」として、解説記事を掲載しているのでご紹介したい。
ただ、本誌では何度も指摘していることだが、馬英九氏が昨年8月5日に発表した「東シ
ナ海平和イニシアチブ」に続き、9月7日、彭佳嶼において、この「東シナ海平和イニシア
チブ」をどのように推進していくかを記した「東シナ海平和イニシアチブ推進綱領」を発
表し、そこには台湾と日本と中国が対話し協議しようと書かれていた。漁業交渉について
も「二国間と多国間の漁業会談および、その他の漁業協力交流を開き、漁業協力と管理メ
カニズムを構築する」と明記している。
この「東シナ海平和イニシアチブ」とその推進綱領を破棄しない限り、どれほど「中国
と連携しない」「中国との共闘はありえない」と繰り返したとて、口舌の徒でしかない。
また、馬英九政権が本当に「中国と連携しない」「中国との共闘はありえない」という
なら、中国を排除する台湾側の姿勢を盛り込んだ内容の日台漁業交渉案を示して、早急に
まとめる努力をすべきだろう。
尖閣で「中台連携」を否定した台湾声明 吉村 剛史(産経新聞台北支局長)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130303/chn13030307000000-n1.htm
沖縄県・尖閣(せんかく)諸島に対し、中国同様に主権を主張してきた台湾が2月8日、
中国が平和的解決に向けた構想を示さないことや法的見解の相違などを列挙し、尖閣での
中台連携を否定する声明を発表した。従来この問題で「大陸(中国)と連携しない」とし
てきた台湾だが、具体的な理由に踏み込んだのは初めて。尖閣周辺海域の扱いが焦点とな
る日台漁業協議への中国の干渉や、中国の軍備増強による地域の安定への影響などにも批
判的に言及しており、2008年以降、経済を軸に対中関係を改善させてきた馬英九(ばえい
きゅう)政権にとって、事実上「政治対話の拒否宣言」ともいえる内容だった。
◆解決姿勢に相違
声明は台湾の外交部(外務省に相当)が春節(旧正月)休暇直前の2月8日、ホームペー
ジ上に「釣魚台(ちょうぎょだい=尖閣の台湾での呼称)列島の主権声明」「中国大陸と
合作しない立場」と題して公表した。
内容は(1)法的見解の相違(2)争議解決姿勢の相違(3)「中華民国」の統治権への中
国の不承認(4)中国の干渉が及ぼす日台漁業協議への影響(5)地域の安定や国際社会の
関心に必要な配慮−の5項目で構成されている。
このうち(2)では、馬英九総統(62)が昨年8月、「争議の棚上げ」「資源の共同開
発」などを盛り込んで提唱した「東アジア平和イニシアチブ」を中国側が無視し、中国が
尖閣に関して国際司法裁判所に委ねることに反対していること、また中国が過去にイン
ド、旧ソ連、ベトナムなど周辺国と領土紛争を繰り返し、尖閣でも平和的解決の具体的構
想を示していないことなどを列挙した。
(5)では中国が近年、海軍力や空軍力の増強に力を入れ、中国が太平洋進出の戦略上定
めた台湾も含む「第1列島線」の突破をもくろんでいることを指摘。台湾は従来、日米と
政治、経済、安全保障上の緊密な関係があり、軽々に中台連携すれば、地域の安定に影響
する、との理由をあげた。
◆「中華民国の統治権」
特に(1)と(3)は、台湾の「中華民国」としての存在を、中国が承認していないとい
う点に立ち、法的理由から連携を否定している。
馬政権は「1つの中国」の建前で、中台間の自由貿易協定に相当する経済協力枠組み協
定(ECFA)を結ぶなど対中融和を進めてきたが、台湾においては終始「その中国と
は、中華民国のこと」としてきた。
この「中国」の解釈を各自で行うとする台湾の姿勢は、「中華民国は1949年に滅びた」
とする立場の中国としては本来容認できない考えだが、関係改善の中、事実上黙認してきた。
しかし、尖閣での中国側の共闘の働きかけに対し、今回の声明で台湾は日台断交前の
「日華平和条約」(52年)を尖閣への主権主張の根拠として示し、「中華民国の統治権」
を承認していない中国とは交渉はできず、尖閣での連携も「困難」と説明した。
これらは中台間の戦争状態に正式に終止符を打つ「平和協定」締結を含め、中国が「平
和統一」を視野に馬政権に期待を示してきた政治対話に関し、馬総統からの事実上の拒否
のサインともいえそうだ。
◆日台漁業協議再開視野か
ただ、声明はホームページの片隅に掲載されたものの、記者発表などはなく、春節休暇
明けの18日、馬総統が与党・中国国民党内座談会で中国で働く台湾人ビジネスマンらに、
これを3項目に要約して中台連携の不可能を説明。ようやく内外メディアが事実報道した。
中国とは経済面で関係を深めつつも、日米との政治、経済、軍事上の関係も損ねない、
とする方針を、中国側を刺激しないよう、日米にこっそり示したかっこうで、その背景と
しては(4)が浮上する。
尖閣周辺海域の扱いが注目される日台漁業協議は、操業の線引きなどで暗礁に乗り上
げ、2009年以降、中断していた。しかし、東日本大震災以降の日台関係の緊密化などを受
け、昨夏、再開機運が高まったが、台湾の抗議船、巡視船の領海侵入や接続水域進入で進
展はたびたび足踏みしている。
特に、対外的に「中台連携」と映った台湾巡視船団の放水などでは、米国からも馬政権
に「強い懸念が示された」(日台交渉筋)とされ、日本側交渉筋には、声明は「日台漁業
協議再開と協定に向けた中国への根回しのひとつ」との見方も浮上している。
(よしむら・たけし 台北支局)