れば、8日に会見した訪台中のハーバード大学フェアバンク中国研究センターの台湾研究者
らにもその見解を強調し、自身が提唱した「東シナ海平和イニシアチブ」の下、唯一の解
決策は主権争いを棚上げし、共同で資源共有を検討することだと述べたという。
台湾で日本との漁業協議に取り組んでいる政治家や官僚の中には、このような発言を繰
り返す馬総統を苦々しく思っている者が少なくないという。
ところが、朝日新聞が尖閣のEEZ内で違法操業する「台湾漁船に対する取り締まりラ
インが後退している、と台湾側が受け止めていることが分かった」と伝え、「馬英九政権
関係者は『尖閣の主権をめぐる問題で我々が日本を押し返した成果といえる』とした」と
も報じている。
そのように受け止められる間違ったシグナルを日本が台湾側に送っているようなら、即
刻止めるべきだ。
これまで台湾は尖閣問題では中国と連携しないと何度も強調してきた。しかし、馬総統
自身は「東シナ海平和イニシアチブ」に関し、「具体的な歩みは2段階に分けるものであ
り、第1段階は『3つの二国間協議』、第2段階は、「1つの三カ国協議」であり、できるか
否かは関係各国の誠意次第である」と述べている。つまり、台湾と日本と中国がまず2国間
で協議し、いずれは3カ国で協議すべしと公言しているのだ。
李登輝元総統も指摘されたように、尖閣諸島の主権は厳として日本にある。日本として
「東シナ海平和イニシアチブ」のような提案、それも中国を引き入れるような提案を受け
入れられないのは当然であろう。台湾でも、日本との漁業協議を後退させる提案と異論が
少なくないという。
台湾船取り締まり後退? 水産庁・海保、尖閣の接続水域
【朝日新聞:2013年1月10日】
沖縄県の尖閣諸島海域で、日本側による台湾漁船に対する取り締まりラインが後退して
いる、と台湾側が受け止めていることが分かった。日本側は「取り締まりラインは従来と
変わっていない」と強調しているが、実際に同海域に漁に出ている台湾の漁業関係者は
「日本政府の善意だ」と歓迎している。
違法操業を取り締まる日本の水産庁によると、台湾との間には漁業協定がなく、日本の
排他的経済水域(EEZ)で台湾漁船が操業すれば、接続水域や領海に入らなくても違法
になる。日本政府は尖閣諸島と台湾の間に中間線を引いており、日本側のEEZで違法操
業する外国漁船には水産庁と海上保安庁が退去を求めてきた。
ところが、尖閣周辺海域に出漁している台湾宜蘭県の蘇澳区漁会によると、以前は、台
湾の漁船が日本のEEZ内である尖閣の島から20〜24カイリの接続水域に入ったところで
直ちに日本の巡視船の警告を受け、追い出されていたが、最近は日本領海の12カイリ以内
に入らなければ警告されなくなった。昨年9月25日、蘇澳の漁船団が尖閣海域で抗議行動し
た事件がきっかけだったとみられている。
また、八重山諸島南方沖では、日本のEEZの境界を示す中間線と、台湾の主張する境
界線が異なり、重複する海域があるが、日本の公船は台湾の主張する線に沿って取り締ま
りをするかのように東寄りへ後退しているといい、やはり変化がみられるという。
台湾の馬英九政権関係者は「尖閣の主権をめぐる問題で我々が日本を押し返した成果と
いえる」とした。
日台間の懸案である漁業権問題では、昨年11月末に東京で漁業交渉の予備協議が行われ
た。馬政権内には、日本の新政権発足と相まって交渉の進展を期待する声がある一方、事
実上漁業権を取り戻したから合意できなくても構わないとする議論も出ている。
一方、日本の水産庁は今年から、尖閣諸島周辺の領海に取締船1隻を追加で配置してお
り、広報担当者は「対処の方針は変わっていない」と話す。
ただ、昨年来、中国公船の尖閣周辺での領海侵入が常態化しており、領海警備を担当す
る海上保安庁の巡視船が対応に追われていることも事実。海保の幹部はこうした点を認め
た上で、「違法な台湾漁船を排除する方針は一切変えていない」と話した。
尖閣周辺の海域は中国の公船が出没するが中国漁船はあまり姿を見せず、主に台湾の漁
船がサバなどをとっている。台湾側は、冬季は海が荒れるため出漁が少なく、春以降も日
本側が同じ姿勢で臨むのかどうか注意深く見守っている。(村上太輝夫=台北、工藤隆治)