「2016年」―馬政権迷走の中で浮かんできたもの  迫田 勝敏(ジャーナリスト)

スタート前から迷走していた馬英九政権2期目は、ついに6月、行政院の林益世秘書長が
汚職で捕まる事態になった。おまけに総統選挙中に国民党側が大声で攻撃していた民進党
の蔡英文候補の疑惑がまったくの濡れ衣ということで決着した。それぞれは無関係にみえ
る事件だが、●龍斌台北市長の登場ですべてが一本の糸で繋がることが分かった。「ポス
ト馬英九」、つまりごたごたは2016年の総統選を睨んだ動きでもあり、その前哨戦がもう
始まっていたのだ。

◆台湾人が台湾人を打つ?

 「台湾人が台湾人を打っている。外省人が笑っているよ」―林秘書長の汚職発覚の時、
ある知人が言った。「この人、本当は国民党支持か?」と思った。容疑は彼の立法委員時
代だけでなく、秘書長になってからもある。日本でいえば内閣官房長官の汚職だ。当初、
林秘書長は容疑を否定していたが、金銭要求の録音テープが暴露され、辞任に追い込まれ
た。

 林容疑者は高雄市が地盤。1月の立法委選挙で再選を狙ったが、落選、それを馬英九総統
が秘書長に抜擢した。それだけに馬総統の任命責任もある。庶民の怒りも、野党の糾弾も
当然のことだ。

 それに収賄の金が日本円にすると億を超える巨額。当初から林容疑者一人の犯罪ではな
いし、黒幕がいるのではないかと噂されていた。その中で名前が出てきたのがかつて高雄
市長もした呉敦義副総統。本人は全面否定しているが、事件発覚から2カ月になるのに全容
は明らかになっていないし、呉副総統もまだ灰色のままだ。

◆宇昌事件で呉副総統を告訴

 洪水のような林益世事件報道に疲れた8月中旬、今度は「宇昌事件」について最高検察署
特偵組(特捜部)が「不法はない」と不起訴処分とした。事件はバイテクの国策会社、宇
昌生技の設立当時、蔡英文行政院副院長が不正な利益を得ていたという疑惑で、昨年の総
統選の最中に突然、報道された。

 蔡女史は当時民進党の総統候補。特偵組が直ちに捜査に乗り出した。これでは選挙妨害
だ。日本ではあり得ないことだが、台湾ではある。経済建設委員会の劉憶如主任委員は公
文書を持ち出して、明らかな証拠だと非難。もちろん国民党側は大攻撃、総統選のライバ
ルである馬総統も「事態を明らかにすべきだ」と「口撃」を続けた。

 それが「潔白」。当初から蔡陣営は選挙妨害の「抹黒」(中傷)だとしていたが、その
通りで、公文書も偽造だった。さて、その責任は? 馬総統は「説明すべきと言っただけ
で不正事件とは言ってない」と逃げた。蔡陣営は文書偽造の劉元主任委員と同委員に調査
を指示したという呉副総統を告訴した。

◆台北市長の陳水扁援護発言

 2つの事件で共通するのが「灰色の呉副総統」である。冒頭の知人が言っていたのは、実
はこのことだったのだ。林益世事件の最初の報道は、週刊誌「壱周刊」。宇昌事件は聨合
報の特ダネだった。ともに国民党に近い。知人が言いたかったのは「国民党の外省人グル
ープが、自分たちに近いメディアを使って情報を流し、野党に副総統を攻撃させている」
ということだったのではないか。

 ではなぜ? それが2016年だ。馬総統の2期目が始まったばかりなのに、一部メディアは
ポスト馬英九の品定めを始めている。候補は3人。呉副総統、朱立倫新北市長、●台北市
長。これに胡志強台中市長を加える向きもあるが、胡市長は健康問題もあり、難しい。こ
の中で呉副総統だけが台湾人で、●市長は外省人二世、朱市長は客家。呉副総統が灰色の
ままなら、脱落は確実。事件は呉追い落としが狙いだった?

 そんな疑問を確信させたのが●市長の突然の「陳水扁支援」だ。獄中の陳元総統の健康
を気遣い、「保外就医(獄外での治療)」を提案した。民進党の一部や陳支持者が求めて
いるもので、馬総統は「法律に従う」と事実上、拒否している。それに対抗するように●
市長が「保外就医」を言うのは明らかに民進党や陳支持グループを意識したものだろう。

◆次期総統選前哨戦始まった

 2期目の馬総統は2016年には辞める。国民党陣営の次期総統候補から灰色疑惑の呉副総統
が脱落すれば、朱市長と●市長の2人の争い。そうみて●市長は陳元総統の獄外治療も持ち
出して、一歩前に出ようとしている。もっとも●市長は2006年、赤シャツ軍団が陳総統の
辞任を求めた時の主要メンバーの一人。辞任を求めた相手に手を差し出す! かつての仲
間からは早くも批判が出ており、候補の座はそう容易くは固められない。

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